神田明神「若手噺家を楽しむ落語の会」の春風亭かけ橋(下・「親子酒」)

15分程度残っている。最後にもう一席。
酒のマクラで、酔っ払い親子。
この日のお客さんにはウケない。この小噺は、日頃落語聴いてない人のほうがウケると思う。
いったいどういう客なんだろう。落語を全然知らない人はいないようだ。
中には寄席として使っている人もいるようだ。私もそう。

3本目の演目は親子酒。
聴きながら、不思議な既視感を味わう。
親子酒はストーリーでなく、会話だけでできている噺だ。当然ながらバリエーションが無数にあるのだが、かけ橋さんの演じるほぼこのままをつい最近聴いた気がする。
もちろん話芸なので、ほぼこのままといっても実に楽しい。同じ人が語ってるわけじゃないし。

テレビでつい最近録れた親子酒が2本。古今亭菊之丞師(BS松竹東急)と、三遊亭好楽師(笑点特大号)。
好楽師の高座、笑点で15分も時間があるのは珍しい。故郷・熊本での収録だから特別なんだろう。
このふたつ、それぞれ個性的で面白い。
菊之丞師のものは、せがれの頭が7つも8つもある。好楽師のものは、5つも6つもある。
菊之丞師のものは、ぐるぐる回りながらサゲを言う。好楽師のものは、ピタッと客に正対してから言う。
それだけじゃなくて、クスグリはかなり異なる。

かけ橋さんのもの、菊之丞師のものとほぼ一緒だった。既視感があって当然。
ここまで展開、クスグリが一致することも珍しい。
古今亭から教わった、なんていうレベルでなくて、明らかに菊之丞師から直接稽古をつけてもらっている様子。
噺を誰から教わったのか、これは日頃から楽しく想像している。
師弟関係にある場合は、ほぼ確実に推測できる。そうでない場合は、ご本人が教わった人の名を口にしない限り、想像が裏打ちできることはない。
だが、かけ橋さんが誰に教わったか言わないのに、出どころが完全にわかった珍しい例。
ちなみに、菊之丞師の酔っ払い親子はウケている。実際に面白い。
落語の修業は果てしなく続く。

かけ橋さんの高座の取り上げ方として、ひとつ考えた。

  1. 菊之丞師の録画を徹底的に解剖する
  2. 展開とクスグリを細かく書き記す
  3. 最後に「かけ橋さんのはこれと一緒」と書く

高座の模様を書くことについてあれしちゃだめ、これしちゃだめと勝手にルールを作っている人は、このやり方に何て言うかな。
テレビの落語について規制できないし、一言「まったく一緒です」と書くことも規制できまい。
そもそも演者自身の権利を侵害しない限り規制なんかしようがないのだが。まあいつもいつも書くとしつこいからいい。

菊之丞師の親子酒は、実に面白い。それを教わろうと思ったかけ橋さんにも感心する。
落語協会時代に教わっていたのだろう、きっと。
一席目から見事な工夫を魅せるかけ橋さんなのに、親子酒についてはほぼ変えていないというのも面白い。
もちろん、変えないのがいいというのも、教わった側の判断だ。

困ったことに、繰り返し菊之丞師の親子酒を掛けてたら、かけ橋さんの高座が上書きされてわからなくなっちゃった。
仕方ないので、また菊之丞師を聴きながら、これもあった、あれもあったと思い出す。

  • 偽装用に羊羹を切って並べてもらう大旦那だが、かみさんが気を使って羊羹の隣に塩辛も盛ってくれる
  • 大旦那が、さんざん頭を下げて飲んだくせに、「あたしゃ飲まなきゃ飲まないでいられたんだ」
  • 息子が帰ってきたというのに、もはやそれの意味するところがわからなくなっている

あたりが、クスグリの肝か。
婆さんが、大旦那の「酒」に関する謎をことごとくスルーしていったりとか、そういう部分には注力しない。

親子酒というもの、ストーリーがない分、つまらないものも多い気がする。
酔っ払いキャラを深掘りできるかどうかだなと思う。
菊之丞師も教わったかけ橋さんも、ちゃんとしている大旦那が化け物に変わっていく様子が実に楽しい。

「親子酒でした」と語って頭を下げるかけ橋さん。
この日の3席も絶品だった。
ギリギリまで、突出を我慢するところが持ち味。フラットな構成の中で、人物を楽しく描いてみせる。
ここ3~4年で筋道を付ければ、本当に抜擢があるんじゃないかと思っている。

神田明神にもハマってきた。
二ツ目さんの独演会で800円という設定は悪くないので、また来ます。
連雀亭から近いのもいい。

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作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. ここ2ヵ月の間にかけ橋さんの「火事息子」を3度聴いてますが、少しの間にドンドン上手くなっている(素人目なんで僭越ですが)気がします。まさに伸び盛り!
    しかも彼の場合、両協会の師匠方から可愛がられてるようで、寄席にも落語会にも呼ばれる機会が多いようです。
    やはり噺家は高座にあがってナンボ!稽古百回より高座一回!
    本当に将来的に、抜擢真打ありそうですね。

    一方でろくに寄席にも出れない某二世の・・・あれはいいか。

    1. かけ橋さんの火事息子ですか。羨ましいですね、私はまだ聴いてません。
      披露目の会で出したのは知ってますけども、1時間の枠でいつも3席やるという人が、いったいどこで掛けるんですかね?
      それはともかく、本当に上手いと思います。
      NHKだって取れそうだし、抜擢もありそうと、そう思ってます。
      他にも上手い若手はたくさんいますが、抜擢に積極的な意味があるのは、回り道したこの人だけではと。

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