落語における「しくじり」ということば

ほぼ毎日更新(時間バラバラですみません)の「でっち定吉らくご日常&非日常」には、姉妹ブログがあります。
ご紹介するのはまったく初めてである。

ライター与太郎の五目講釈

キャッシュレスがメイン。私の本業の分野。
落語界、唯一キャッシュレスで入れる国立演芸場にしてから、クレジットカード端末しかないという旧態依然の業界。あまりにも違う世界。
私が日常生活で現金に触るのは、本当に落語のときだけだ。

タイトルが「与太郎」で、「五目講釈」。落語のブログじゃないのに。
私はもともと与太郎にあこがれていたので、そちらで与太郎を名乗ることにした。キャッシュレスに詳しい与太郎。
「丁稚定吉」もちょっとイージーな名づけ方だったなと、あとでちょっと後悔したりなんかして。

ライター与太郎のほうでは、いろいろと儲け口を書いている。
別に、怪しい話ではない。
「自己アフィリエイト」なんて言葉は聞いたことのない人のほうが多いだろうが、サイトに貼る広告を、自分で使うことをいう。
クレジットカードを申し込むにしても、直接公式サイトからではなく専用のサイトから入ることでさらに報酬がもらえるのである。
あとは入会キャンペーンやら、リボ払いキャンペーンやら、収入を得るチャンネルは無数にあるのだ。
直近では、3月までのQRコード決済のキャンペーンはすごいものだった。

儲かるかって? まあ、ぼちぼちです。
数字だけ追うとやたら儲かった気にもなるのだが、本業になるレベルではない。

自己アフィリエイトに投資案件も多いので、FXやら証券口座やらもいろいろ作っている。
まあ私の場合、すべて報酬狙いのなんちゃって投資だけど。
たまにしくじることがある。
別に、大損したわけではない。期待していた報酬が得られないというだけのこと。
昨日も、仮想通貨でもってしくじってしまったのに気付いたばかり。買い方を間違えて、報酬をパーにしてしまった。

しくじりも、細かいものまで含めて結構している。
このたび思い立って「しくじり」というタグを立ち上げてみた。

さて、今日は姉妹ブログの紹介もあるのだが、メインのテーマは日本語についてである。落語の。
「しくじる」自体は、昔から普通に使うことば。
<しくじり先生 俺みたいになるな!!>という人気番組のおかげで改めて目につくようになった。とはいえ「しくじる」ということばの意味を番組で学んだ人はいないだろう。
しくじった、といえば失敗したという意味。子供にでもわかる。

だが、落語・演芸界においては、微妙に違う意味で使われることの方がずっと多い。
「目上の人間から不興を買う」という意味である。
相手は、「自分の師匠」「よその師匠」「おかみさん」「席亭」「お旦」「兄弟子・先輩」など。
実に落語らしいことば。
私も当ブログで常用していることに気づいた。ちょっとイキった落語ファンぽいなとやや反省。

「師匠をしくじる」のはマクラにおける噺家の常套句。しくじりのレベルは千差万別。
楽屋で師匠を不機嫌にさせたなんていうのは、後でネタになる程度で、罪がない。
人間としてしくじると、破門になるから洒落では済まない。

入門時に、新弟子が師匠に釘を刺される。
「かみさんしくじったらしまいだからな」。
師匠をしくじっても、必死で誤れば許してもらえるかもしれない。だが、師匠のおかみさんをしくじったら致命的。

以前黒門亭で、三遊亭金朝師の「藪入り」を聴いた。
「上野の鈴木さん、浅草の松倉さん、新宿の北村さんにも挨拶しないと」。これ自体は、藪入りにはよくあるクスグリ。
そのあとちょっと進んでから「池袋は梅田さんだっけ。抜けるとしくじっちゃうからな」。
このお席亭をしくじるというニュアンス、ドンピシャである。

噺の中でもしばしば登場人物がしくじっている。
錦の袈裟では、モテモテの与太郎が、朝を迎えて「お寺しくじっちゃう」と慌てている。
富久では、幇間の久蔵がお旦をしくじり困窮している。
このパロディ、三遊亭白鳥師の「富Q」では、噺家のQ蔵が池袋の席亭をしくじっている。

現代で使う「しくじり」の用例は、落語には意外と少ないかもしれない。
年末に掛かる「言訳座頭」では、按摩の富の市が薪屋との交渉で、振り返って「やりそこなった」と言っている。
そういえば、心中の失敗も「やりそこない」だ。鰍沢など。
先日取り上げたばかりの「突落し」も、最後に「品川に行ってやりそこなう」とサゲる圓生の型がある。
これらを、「しくじり」と表すると、語感としてまるで違うのだ。
落語の世界の使い方では、「しくじる」のはもっぱら人間関係について。
「やりそこなう」のは、事実について。
違うことばには、違うニュアンスがある。面白いね。

私がライター与太郎ブログのほうで作った「しくじり」タグは、噺家のしくじり用例とは違う。
私のほうは、ただの失敗なので、「やりそこない」あるいは原因につき「粗忽」といったほうが正しいかもしれない。
さすがにキャッシュレス分野で粗忽はないだろうが。

作成者: でっち定吉

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