新横浜コットン亭(中・春風亭一花「明烏」「やかん」)

一花さんは明烏。
最近は女流がやたら「紙入れ」など掛けたりしてなんでもありの時代だが、明烏に遭遇したのは初めてだ。
一花さんからは辰巳の辻占なども聴いていて、廓噺をやること自体の意外性はない。
一花さんはさすがに上手い。
そして、この人の場合なんでもそうだけども、女流が廓噺を語る意味すら浮かび上がってくるのである。
噺の世界観に角度がついて、なんだかおはなしが自立してくる、そんな感じ。
明烏の主要登場人物のうち、4人までが男。このすべてが、一花さんの語りにより、実に適切な範囲で、記号っぽく変質する。
結果、必要のない生々しさだけ綺麗に消えてしまう。
若旦那は、どうしても子供として描かれてしまうことが多い。だが、一花さんの語りからは、実に生真面目な、つついて楽しい若者が浮かび上がる。

棒読み派とでも言うべき語りの方法論がある。
棒読みだと、噺も、登場人物もどんどん記号的になってきて、噺を壊す要素が減ってくる。実は立派な作法。
抑揚豊かな一花さんの語りに、棒読み派に似た、おはなしの世界の純化を感じてならない。
この効能は、女性が語ることで生まれてきたものに思う。

明烏は女流のほうが向いている? さすがにそこまでは思わない。
ヘンなキンキン声でもって、若旦那その他男の登場人物をしつこく描いて自爆する、そんな(特に具体的に誰だというのではなくて)失敗例も思い浮かぶ。
一花さんは、本編が始まってから声を変え、ダミ声混じりで語る。これが実にハマる。
源兵衛と太助を描きわける工夫も感じる。しばしば混ざりがちなこの二人は、最後まで明確。

明烏に出てくる女性は、母親を除くと3人。
花魁は比較的記号的だが、おばさん2人が実に魅力的、生き生きしたキャラで驚いた。
一花さんは、師匠の影響なのか女性キャラもしっかり作りこんでから出すという印象を、以前から持っていた。
だがだんだん、自己をストレートに投影させるようになってきたらしい。
魅力的な語り手が描き出す女性は、当然魅力的なのであった。
お巫女頭にされるおばさんは、心底この遊びを楽しんでいる。

甘納豆はかじるだけでなく、怒った太助が若旦那に投げつける。たまに見るけど珍しめの演出だ。

堅物の若旦那が女に目覚める噺だから、女性客の中には実は苦手にしている人もいるのではないかな。
だが、語り手がなにしろ一花さんである。そんな人も、脱落せずにサゲまで連れていってもらえたものと思う。

仲入り休憩後は、着替えて再度の一花さん。

お客さまに結婚をお知らせしたとき、「亭号は金原亭に替えないの?」なんて言われました。
そういうシステムではありませんので。私は今後も春風亭です。
笑点に出てる一之輔アニさんは、兄弟子です。
一朝門下の2番弟子です。私は8番弟子ですね。一朝というのは、小朝師匠の兄弟子です。
一之輔アニさんとはだいぶ離れていますけど、でも仕事をくださったりします。
このアニさんの下にも、ずらっと兄弟子がいるわけです。
一蔵という兄弟子がいます。ガタイの立派なアニさんです。今、文化放送のくにまる食堂に出てますね。
この人は、ボートレースが大好きで。入門前から好きなんです。
ボートレース好きすぎて、ついにそれを仕事にしてしまっている人です。ギャンブラーです。
私は、一蔵アニさんが、いつ一之輔の口座から送金するか楽しみにしています。

本編は軽く、やかん。
これがもう、今日のベストといった逸品で。
なにがすごいって、早回しの劇中講釈が。
愚者の八っつぁんでなくたって、この講釈は聴いててとても楽しい。
楽しいことになっている、ではなくて、真に楽しいのである。こんなやかん、意外とないよ。

私は以前から、一花さんの講談が聴きたいと思っている。
なにも、講釈の要素のある噺を聴いてそう感じたというわけではない。落語から、講釈の要素が漂ってくるなと感じていたのである。
ついに今回、本当に講釈の入った噺が聴けてコーフンしている。
猛スピードでもって、しかし言葉が歯切れよく、しっかり聞こえてくる。
上杉謙信と武田信玄の長い名前のくだりだけでもう、高揚した。

前座噺ほど、ウデの差が出るものだ。
実に楽しい一席。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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