露の團六「神崎与五郎」(神戸新開地喜楽館配信)

上方落語が聴きたくなってきた。最近はほぼラジオだけ。
久々、9か月振りに神戸新開地喜楽館の配信に加入した。1か月1,100円。
産経らくごと同じ料金。
産経らくごは大手町落語会など東京の最高峰の落語会がこの料金で聴ける。
いっぽう喜楽館の配信は、一線級のちょっと下クラスが多い。一線級がいても若手。
客観的に高座のレベルを比べれば、雲泥の差があると言わざるを得ない。
でも、そこが面白いと思うのだ。
落語界は一線級のメンバーだけで成り立ってるわけではない。こうした中からお気に入りを見つけ出すのはとても楽しい。
ちなみに4月は配信する火曜日が5日あるので、ちょっとトク。

この配信、欠点もある。
なにしろ収録しているのが平日の夜。客がいないのである。
いなくても別にいいのだけど、演者がやたら薄い客席をいじるのだ。
いや、いじったっていいのだけど。毎回いじられると、おかしなものが蓄積したりもするのだな。
東京でももちろんそんなことはある。

で、しょっぱなの今回の配信、前半はもうひとつでした。

トップバッターの桂小文三さんは、過去の配信、それから黒門亭に出たときも聴いた野球部マクラ。
面白い人だけども、同じネタばかり繰り返されても。
そして、ネタも1年前に配信で聴いた転失気であった。デキが悪いわけではない。

続いての笑福亭笑利さんは、横浜でも聴いたし、NHK新人落語大賞にも出ていたホープ。
期待の人でもある。
だがこの人がまさに、少ない席をいじりまくっていて。
「おもろない映画ぐらいの入りですね」

本編に入ると、京都のインバウンド客をネタにした新作落語。
マクラからあっためたおかげで、バカウケしているお客さんがいたようだ。笑い声が響いていた。
だから成功なのかもしれない。

比較文化的な新作落語は、圧倒的に上方に多い。
私は常日頃から新作落語の東西比較をしているのだが、文枝師の影響なのか、漫才の影響なのか、その両方か。
異なる文化がぶつかり合う落語がやたら多い。
東京に持ってくると、なんだか合わないものが多い気がする。

日本にやってきたインバウンド客でバスが満員。思わず愚痴をこぼすと、実は日本語を勉強してペラペラの米国人観光客の集団だった。
今悪口言っとったなと関西弁で詰められる主人公。
文枝師っぽいけども、なんでか知らないがやたら怒り気味で喋る。
ちょっと怒りが強すぎて、あまり気持ちがよくない。ネタは面白いのに。
迷走してるんじゃなきゃいいのだけど。

桂三若師は新作でなく、胴乱の幸助。大きなネタにしては、実によく聴く演目。
わりと普通ですな。

以上、ラジオではあまり聴けない吉本所属の噺家。
デキはともかく、ありがたい。

トリの露の團六師が今回の収穫であった。初めて聴いた。
飄々と語るベテラン。
見台出てるのに、めったに叩かないのは不思議。別に出さなくていいのに、こういう形なのか。
喬太郎師みたいに正座ができないわけでもない。
のんびりした語り口で、笑わせようなどとしていないのに味わい深く、聴き込んでしまう。
魚が捕れた神戸の昔ばなしから、スッと人情噺へ。といって、人情を語りこむという体でもなく、訥々と。
いいスタイルである。

ごく軽い笑いを交えながら、摂津、但馬、淡路、播磨という兵庫県を形成する各国の話。
師匠の奥さんは「但馬牛」を知らない。「ただし馬みたいな牛」と読んでしまい、気持ち悪がるので弟子にくれる。

噺の舞台は播州の汐入村。
忠臣蔵外伝、神崎与五郎である。収録した3月に合わせてのネタらしい。
本編に入ると、ほんの少々見台を叩く。場面転換のためというより、わずかなアクセントみたい。
実際、奉行所に場面が変わる際に叩いていない。

郡奉行の息子は、神崎与太郎。
上方落語にも与太郎の出る噺があったとは。
この与太郎は無害な人間ではなくて、アホのくせに面倒くさい。
今日も中間をお供に川釣りに来ているが、わがまま放題。
地元の子供、太郎作が祖母のためにたくさん釣り上げているが、自分は釣れない。なので中間に命じて、場所を替われと。
快く替わる太郎作だが、やっぱり釣れるのは太郎作だけ。
中間に餌を買いにいかせ、子供二人だけ。与太郎は太郎作に帰れと。この川もうちの父上のものじゃ、勝手に釣りおって。
ついには太郎作を斬り殺そうとするのだが、思わず太郎作、返り討ちにしてしまう。

死んだ与太郎の父の元に引き出される太郎作。
これが後の神崎与五郎となる。

釈ネタなのであろうが、ムードは随分違う。
講釈の要素を持って勢いよくやる落語のほうが多いと思うのだが、團六師は東西合わせた落語の中でも、特に緩い。
緩いといっても、噺の世界は終始緊迫している。でも緩さのおかげで不思議な味わい。

こういう不思議なムードの噺が聴きたかった。
まずは配信、好調な滑り出しであります。

サブスクは吟味する方針なので、入り続けるということはない。
だが2か月か3か月か、楽しませてもらいます。

作成者: でっち定吉

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