楽しい、予定調和のないマクラは続く。
噺家ちゅうもんは、あまり頭がええ人はなりません。頭がよすぎる人は文楽や歌舞伎の方へ行くようです。その下の知能指数130前後の人が落語に来ます。これ福笑さんが言うてました。
落語は覚えることがようけありますさかいに、本物のアホはいてません。
あ、ひとりおりますけど、桂あおばというやつ、こら本物のアホです。こいつはおもろいですよ。
(亡くなった)ざこばさんの弟子です。ざこばさんが家に初めて連れていって、奥さんに「今度採った弟子や」。
そしてあおばに「挨拶せえ」言うたら、「おばちゃんこんにちは」ちゅうたやつですよ。
私が今まで一番笑ったマクラがね、あおばのもんですわ。
グリーンピースいうて捕鯨に反対してる団体ありますでしょ。どうしてクジラやイルカを獲ってはいけないかというあの人たちの主張が、「知能の高い動物は食うな」なんですね。
ほたらあおばは食うてええんかいなちゅうネタがありまして。
知能指数130はいささか高すぎますな。
あおばさんは一度ラジオで聴いた。暴走族ネタをやってたのを思い出した。
すんませんな、私もリラックスしてますさかいに、話がどこ行くかわからしません。
今日朝東京着きまして、嬉しかったことがあるんです。山手線乗ってまして。
クロード・チアリていてましたでしょ。その娘さん、大阪で漫才やっとるんですわ。
体が大きくてね。おっきな相方と組んで、ハイカロリーズっちゅう名前でやってますわ。まあ中途半端な漫才でね。
その娘がね、電車の英語のアナウンスしよるんですわ。東京だけでなく全国でおなじもんつこてますねん。
昔NHKの英語講座に出てた縁らしいですわ。
これ大阪で言いましたらね、皆さん東京来るたんびに聞いて喜んでくれはります。
さて最初にやるのは「酒盗」ちゅう噺です。しゅとうですけど、酒盗みでもええんですが。
これは新作です。構成作家に作ってもらいました。
構成作家なので、完全に台本を作り上げてません。私と相談しながら一緒に作ってます。
落語作家が作らはったものは、直すとき気い遣うんですけど、構成作家なので遠慮が要りません。
もともと、「月に群雲」に続く泥棒ネタをこしらえたいと思って作ったもんです。まだ、そんなに数やってないのでできあがってません。
ここをこうしたほうがいいというのがあったらアンケートに書いてください。
いずれにしても、土佐のカツオで作った酒盗とは関係ありません。
この噺は、お酒がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを記念して作ったものですので、お酒ありきです。
客の協力も得て泥棒噺のレパートリーを増やしたい松喬師。
古典設定の擬古典落語はブームである。
この噺もそうだが、本物の古典にはない部分を強化できるメリットがある。二重、三重の仕掛けをすることも可能。
頭でこしらえた、見事な噺だと思った。
こしらえた分、本物の古典落語に近づけるのには手数がいるかも。とはいえ擬古典落語、必ずしも本物の古典になる必要はないと私は思っている。
アンケートは書かなかったが、ここで師匠に伝わるよう私なりの意見を。
ただ、よくできた噺のネタバレは極力避けて。
- 演者の口がスラスラ回れば勝手に仕上がる気はする
- ひとつ設定に矛盾がある。冒頭、今から死のうか泥棒しようか思案しているやつに、関係円満な母親がいるだろうか
- ⇒「今から泥棒になって、名を売ってやろうと意気込んでいる若者」でいいのでは。そしてあわよくば大泥棒への弟子入りも検討している
- ⇒下戸ゆえに灘の酒蔵を追い出された設定があれば、さらにもうひとつ掛かるのでは
サゲは読めたが、これは全然OKです。
それよりもこの噺、いったいどこへ向かうのだろうという高揚感が大きい。
古典落語は先を知ってるし、だからといってハラハラドキドキの新作落語だと、意外とついていけないことが多い。演者の狙いと客の受け取りのズレが拡大していくから。
この点、既存の古典落語の世界を最大限使っているので、ズレが起きにくいのが見事です。
話の冒頭部だけかいつまんで。
初仕事の泥棒が「不用心ですよ」と声を掛けて家の中に入るが、そこにいたのは家中の酒全部開けて寝そべっている男。
この隙に仕事するかと思ったら、もう家探しの済んだあと。
この不思議なシチュエーションから始まるなんて、実に新鮮。
そして泥棒には似つかわしくない「弟子入り」というワードも登場。
噺の終盤、「二刀流」がごく軽く出てくる。
泥棒と酒造りの二刀流になれと。
こんなところで言うのもなんでっけど、伊藤史隆さんかて二刀流でっせ。
アナウンサーと喜楽館支配人の二刀流だ。
どっとウケたので驚いた。
客は伊藤史隆アナなど先刻ご存じなの?
私はラジオ聴いてるから知ってるけど。
内容盛りだくさんで、こりゃ上中下3回では終わらないや。