笑福亭松喬@ポレポレ浮世亭 その4(抜け雀、そしてQ&A)

3席めも見台なし。
松喬師は翠玉の鮮やかな着物で登場。梵天房というのか、大きなボンボンのついた羽織紐。

今出てくるときに同級生から「コーヒー買ったぞ」と言われました。そこまで威張られても。

一席やって最後、Q&Aコーナーを設けますとのこと。
最後は抜け雀であった。
「駕籠かき」のフリなしで入る。
劇中で、宿屋のかみさんが絵師を「雲助の成れの果て」と評し、そこで駕籠かきまで、説明しきってしまうのがスムーズ。
上方落語だからこのスタイル、ではないだろう。いいかたち。

サゲは「親を駕籠かきにした」で東京スタイル。
だがハネたあと説明があった。もともと米朝は「親に駕籠をかかせた」でやっていたが、今は知られたセリフでもないのでこれではやりづらいのだと。
ちなみに「親に駕籠をかかせる」は親より先に逝ってしまう意味。
小田原なのに上方ことばでどうしても違和感ある方もいるようですが、と松喬師語っていた。そやけど私東京弁で喋れまへんからね。
確かに南光師など、これが気になるゆえ主人公を江戸から戻る途中で居着いてしまった大坂ものにしている。
まあ、「気にしない」のが一番。松喬師の話術を、そんなささいなことで味わえないとするなら不幸である。
そして宿の主人は養子。これは上方らしいでしょうか。
「まみえの下に光っているものは何だ」「鼻だけは一人前」と同様に、繰り返しギャグとして登場する。
東京では抜け雀より、竹の水仙など甚五郎もので聞く設定だ。

先の蛇含草と同様に、これまた古典落語の楽しさを徹底して味わえる一席であった。
放送を含めても、師の抜け雀は初めて聴くが見事な完成品。
感情のアクセントが徹底して抑えられてるがゆえに、客の感性が揺すぶられる。

「わしは絵師だ」
「指先からバイキン入って化膿しまんねんな」

というやり取り好き。壊死ですね。
喬太郎師とどっちが先なんだろう。もっとも先日聴いた喬太郎師の抜け雀にはなかった。

絵師は「赤羽二重」。
これは黒羽二重を染める際、最初に赤あるいは青で染めてから、黒く染めるため、最初の染め色が出ているのだという。
松喬師が説明してくださって、初めて知った。焼けてるからじゃないのだ。
こんな説明入れて、噺のほうがもたついたり、説明くさくなったり一切しないところがスゴい。

一文なしと知ってからの亭主、非常に自然体。飄々とした演者の持ち味がフルに活きる
怒る、嘆くといったわかりやすい感覚から離れている。
というか、ここから楽しい漫才が始まる。

抜け雀の絵が人気になって、おおぜい客がやってくるが、はばかりには泊めないんだなと思った。汚いもんな。

最後に立派になった絵師が戻ってきて、駕籠を追加で描いてくれたのが父親だと亭主は知る。
「親子二代で名人ですなあ。米朝さんとこと大違いや」

時間はオーバーしている。
実に楽しい3席。
続いてQ&Aコーナー。
質問をひとつひとつ取り上げるのではなく、それに答えた師の楽しい話を書き連ねようと思います。

弟子の喬介は、もともと雀三郎師匠のところに入門に行ったんです。
隠さんでええから言うてみいと聞き出したわけです。
私、雀三郎師匠に手紙書きまして。せっかく入りたい師匠のところへ行ったんですから、採ったってくれませんか。
そしたら電話がありました。
別にこの子が悪いから採らへんわけではないねや、ただ、雀太を採ったばっかりで手一杯なんやと。
ぼくは落語界に来てくれるんやったら、なにも自分で育てんでもええと思っとる。

塩鯛さんはね、米朝師匠に入門に行ったら、ざこばさんを紹介されまして。…嫌でしょ。
ざこばさんに、お前何席持ってんねんと訊かれまして。
27席ですと答えたら、「わしより多いやないかい!」。
これ、有名な話です。

やっぱり、どんどん入門者が増えてほしいですね。
先ほども言いましたけど、ご近所にニートの何してるかわからん奴がおりましたら勧めてください。
もっとも私はもう採りません。今、家内と二人、弟子の来ない平和な日々を過ごしています。
アドバイスぐらいはしますがね。たまのところは行かんほうがエエとか。
あと、喬介のとこに喬明がいますけど、女の弟子はよう育てません。
どう教えたらエエか方法論がわからんのですわ。男女で分けて申しわけないですけど。

私はもう64歳ですから、いつ死ぬかわからんと思ってます。
別に悪いところもおまへんけど、師匠は62で亡くなりました。
弟子にもそう伝えてます。

最後のはこの質問コーナーではなく、どこかのマクラで話していた。悲壮感はゼロ。
これから本格的松喬時代だと私は思いますけど。

ちなみに、質問がもし集まらなかったら私も訊こうかと思ったのがひとつ。
「よく二世落語家をネタにされてますが、東西問わずこの人は凄い!という二世はいますか?」
名の出てた小痴楽師など挙がる気がする。

師は宇都宮の桜まつりに毎年呼ばれている。その交通費でこの会来てるんだって。
ただ来年はラジオのため一度大阪戻るそうだ。来年のこの回は4月4日予定。
満席必至だが、また来たい。

実に満足度の高い会だった。
今回は充実しすぎて、ちょっと疲れた。ブログも力入った。
疲れるような落語ではないのに、私がのめり込みすぎたのだ。
でもいい心持ち。

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作成者: でっち定吉

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