短い仲入り休憩があって二席め。
いつの間にか見台はない。
先ほどの「酒盗」について振り返る。
それから、SNS禁止のヒミツ情報を語る松喬師。
書くなと言われた以上解禁までは書かないが、ここからいろいろ発展する一般的な落語界の話も書けない。
さん喬、喬太郎、小痴楽など東京の噺家の名も出たが。
松喬師は、ご自身が三喬だった縁で、それとアクセントの異なる「さん喬」は正確に発音する。
ネタ出し蛇含草について。
今年の正月、NHKで出した噺だ。
あの放送ね、午後3時くらいから視聴率上がりますねん。
箱根駅伝が終わって、原監督の胴上げ見て、ほか見るもんないかいな言うてたどり着きよるんですな。
その時間帯の、角座の中継に出してもらいました。なんやわけわからん漫才師がようけ出てね、そのあと私ですわ。
せっかくの巳年ですから、あ、もう忘れてはるかもしれませんが。やはり巳年に関係する噺を出すのが期待に応えるちゅうことと思いまして。
ただね、私の持ち時間9分ですねん。
いったいどうやってこの長い噺詰めたんやろと、そこにも着目してください。
蛇含草は夏の噺です。今日はまだちょっぴりぬくいんでやりいいですな。
昨日も住吉神社でこれ出しましたが、寒かったもんでやりづらかったです。
噺家の時知らずなんて申しますがお付き合いください。
毎年1月3日のNHKは観てるが、リアルタイムではない。
そうか、松竹芸能の持ち時間は恵まれてたのかとハッとした。
今年は松喬師が出てらして、ああ、巳年だからねと思った。
ところで松喬師も毎年出演ではない。吉本が必ず文珍師はじめ落語を出すのに、松竹は出さない年が多い。
「なんやわけわからん漫才師」が悪いとは別に言わないが、落語も出してねなのだ。
ラジオ大阪でもって、ペット特集やりましたんですね。
中には変わったペットを飼ってはる方もいてまして。爬虫類ですな。
あの、毒のない長い蛇いてますやろ、なんでした? コブラ、せやない、コブラは毒がある。そう、ニシキヘビですか。
ラジオリスナーの中に、ニシキヘビと一緒に寝てはる方がいまして。
ペットと寝るの自体は普通です。うちのかみさんの布団にもよく猫が入ってます。
ただその人、ニシキヘビと並んで寝てまんねんて。
放送後、動物学者の方からメールいただきました。こんなこと絶対したらあかんのやそうで。
なんでも蛇は、自分の体の長さでもって、相手が食えるかどうか測るらしいんですわ。
羊が蛇に飲み込まれたなんて話がありますけど、それも最初に体で測るそうです。
そらそうですな。自分の体より長いもん飲み込んだら大変ですわな。
いろいろ断ってから始めた蛇含草は大作だった。
決して大ネタとは言えない噺だが、結構長い。遊びが色々入っていて、そのムダを楽しむ噺だと思う。
ムダの海にいつまでも浸かっていたい。
サゲがインパクト強いから、短くてもできる。でも、松喬師の場合、サゲよりも途中経過をみっちりやりたいようで。東京の落語には薄い発想。
そして、甚兵衛さん(ではないが、上方落語の甚兵衛キャラの人)と、徳さんの人間関係もくっきり描かれ、立体的。
名前が甚兵衛さんでないのは、夏の盛り、徳さんが甚平1枚だけ羽織ってるためだと思う。
もっとも八っつぁんと隠居、喜六と甚兵衛さんのような年齢差ではない。二人はごく近い年齢だ。昔からの友達なんだから。
徳さんの家には風が来ない。
あれ、大家が風に頼みよるんでしょうな、家賃払わん奴のとこには吹くなちゅうて。
このクスグリ大好き。
砂糖を入れる大袋、アンペラなんてのも味わい深い。こういう明治っぽいのもいいね。
徳さんは、砂糖の入っていたアンペラわけてもらってむしろのかわりに敷いてるが、なにせ砂糖袋、夏場はニチャニチャしてかなわない。
これ、サゲ直前で実際に体験することになるのが地味ハデな工夫。
そして夏なのに餅を食う流れ。
徳さんは、餅はアライグマに焼かせろ言いまんねんと頼まれてもいないのに忙しく裏返し、位置も変える。そしてはふはふと。
しかし主人のほうは、お前さん何しよんねん。なんちゅう礼儀知らずやねん。わしが食うかちゅうてから手をつけるもんやろ。
徳さんも負けてない。わたいとあんたはなんでんねん。古くからの友達やないかい、醤油やらきな粉やら一緒におひとついかがと出してくるもんやないんかい。
この、意地の張り合いが本当に自然で。
役割としては対立してるのだけど、ぬるま湯に浸かったままだ。
師の鷺とりを思い出す。
徳さんは京都の餅大食い大会で、もはやプレイヤーとしては誰もかなわないので理事長やってるんだそうだ。
餅と酒、「あめかぜ」やなと。雨風。
ここでまた二刀流の話題がちょっと。伊藤史隆アナの話、こっちで出たんだっけ?
そして曲芸食いの数々。
中手を入れるべき場面かと思ったが、結局入らない。それでよかった気がする。
サゲ付近は、徳さんが蛇含草を含んでから、簡潔な説明が入る。
「蛇含草は蛇の腹の人間を溶かしますので…ここもういっぺん言いまひょか」
古典落語の粋を集めた見事な一席でした。
落語って楽しいよねえとしみじみ思う。