昨日大絶賛した鯉昇師の長屋の花見であるが、「猫を食べてはいけない」という疑問提起に対する見事な回答にもなっている。制約が噺を強くする。
猫を食べるギャグの是非で戦うのもいいが、鯉昇師はさらに洗練された回答をなした。
こういう見事な例を見てると、「コンプライアンスがうるさくてネタが作れない」とボヤいている芸人がいかに無能なのか思い知るのである。
仲入り後は、コントD51。
いつものお婆さんと警官。まあ、これが唯一のネタだけど。
高座で好き放題やって去っていく。
毎回同じネタだからといって、感想も毎回同じということはない。引き出しが無限にあるので。
楽しい人たち。
ちょっと好みでなかったり半分寝てしまったりで飛ばします。
ヒザは代演、江戸家まねき猫先生。
前座さんが口座の後ろに敷いた座布団を、さらに自分で下げる。「遠近法がありますので」。
太り気味で正座15分がつらい。
先に出た小文治師匠は、昔からスリム。いっとき太りかけていたが、またスリムに。
秘訣を尋ねたら、体幹を動かす体操をしているとのこと。
江戸家代々の紹介と、父の三代目、腹違いの兄四代目とともに吹き込んだレコード「チキンソング」の話。
寄席の緩いヒザのいい仕事。脚をさすりながら退場。
主任の三遊亭遊雀師登場。
最後の花見が楽しめる中、秘密倶楽部にお集まりいただいて。
ここは流し込みなので、夜までどうぞ。夜のトリは小助六ちゃんです。
みんな、帰んないよね。
まあ、途中で帰ってもいいんだけど、できれば近くで一杯やってくといいよね。
酒飲んで帰るまでが寄席の楽しみだよ。
家に帰るまでが遠足です、みたいだな。
さて、フリからは「替り目」だと思った。
遊雀師の替り目は、演者と登場人物が酔っ払って渾然一体となってしまうメタな作品であり、大好き。
替り目はトリで出すような演目でもないけど、師ならやりかねない。なにしろ必ず後半までやるので、前半を膨らませれば時間は十分埋まる。
だが、猫の災難だった。ああ、酒のネタにはこれもあった。
猫の災難って、因縁の師匠権太楼師の代表作だと思うけど。
もちろん、元師匠のものに似た部分などかけらもない(と思うが自信はない)。
熊さんが、酒屋にツケがある点は省略している。
かつて酒でしくじった遊雀師だが、それでもいちばん面白いのが酒の噺なのだった。
酒の噺だと、私の大好きな「お日さまかお月さまか」、あるいは親子の酔っぱらいでも振るかと思ったが、すぐ本編へ。
猫の災難は、場面転換が少ないわりに時間を要する噺だ。
休みの日に湯から帰ってきて、一杯やりたい熊さん。あいにく先立つものがない。
隣のかみさんが捨てようとしていた猫のおあまり、鯛をもらう。頭と尾が旨いんだ。
そこへアニイが一杯やらねえかとやってくる。身があると思い込んで鯛でやろうと酒を買いに行く。
あいつは早合点だ、でもなんとかしなくちゃ。ということで隣の猫を犯人にしたアリバイ作り。
口の中が鯛になってしまったアニイ、今度は鯛を買いに。残されたのは酒と熊さん。事件発生。
熊さん、鯛の件では確かに、黙ってることで嘘ついた。
しかし酒は、最初から全部飲んでやろうと思ってたわけではないのだ。アニイも試し飲みしてきたって言ってたから、これぐらいいいだろうと。
アニイがなかなか帰ってこないので、ついつい次を空けてしまうのだし、それにアニイの分を取っておく意思もあったのだ。
よく聴くのでは、アニイは一合上戸だというのだが、遊雀師によれば燗で飲むのでそんなにいらねえだろうと。
さて、飲みだしてからが遊雀ミラクルワールド。
いいねえこの噺、こうやって飲んでるだけで時間潰せるんだから。
このメタな独白は、替り目でも使っていた。
それはそれはおいしそうに酒を飲み、そのまま演者になってしまう酔っぱらいの熊さん。
今日さあ、花見の仇討やろうと思ったのよ。みんな考えること同じだよね。着いたら鯉昇師匠が長屋の花見やっててさ。
あー、なにやろうと思ったときにまねき猫ねえさんがいたのよ。そうだ、ねこさいがあったなって。
この席は正二郎さんなんだけど、今日だけ脇にいい仕事があるって行っちゃった。ねえさんに会えてよかったよ。
そういえば、アニイの買ってきた酒に「醤油、水で割ったやつじゃないよね」って入れてた。
猫と酒と、どちらもごく微妙についてる気もするが、まあいいんじゃないですか。
私はかつて聴いた花見の仇討より、遊雀師の酒の噺のほうが好きだ。
アニイはなかなか戻らない。
こぼした酒を吸ったあと、取り分けた分を残して酒が全部なくなってしまい、驚愕する熊さん最高。
本当にびっくりして、酔った頭で計算し直している。あいにくもう増えない。
途中ですが、長くなったので続きます。