トリの三遊亭遊雀師、「猫の災難」の続き。
熊さん、全部飲んでしまった言い訳を考えたあと、アニイはまたきっと酒を買いにいくねと。
そうしたら、その間鯛食っちまおう。アニイはずっと行ったり来たりだ。
このセリフが、二人の人間関係をすべて語っていて、実にいい気持ち。
やりようによっては、ねこさいは人を騙して自分だけ利益を得る噺になる。でも熊さん、本当に悪気はないのだ。
ただ、「もう残しておいても意味ないな」とアニイのとりわけ分の酒に手を付けるのは、悪い。
意地の汚い酔っぱらいだが、愛すべき人物。きっと演者の分身なのだ。
鯛のみならず酒までダメにしやがって、アニイがいよいよ隣に怒鳴りこもうと。
そこで猫の飼い主である隣のかみさんのセリフが入る。
このかみさんも、役割としては熊さんをしっかり非難しているようで、口調はそれほどでもない。
しょうがない人だなとは思ってるが、きっと今後もよき隣人であり続けるのだろう。
大満足のトリでありました。
ちなみに、You Tubeで権太楼師のものを聴いた。非常によく似てました。
以前「二番煎じ」を聴いた際はかなり違うなと思ったが、ねこさいについてはそんなことはなかった。直接来てるのだろうか。
ただ、ほうぼうの酒屋に借金があるくだりを抜いたのは遊雀師の工夫であろう。
だらしねえ奴だが、借金したままの不義理なおアニイさんではないのだ。
夜席に少々居残りする。
夜トリの小助六師まで残れるんなら残りたいが、なかなかそうもいかない。
夜席の幕が開くと、メクリは「夢ひろ」。お、やったあ。
11月に遭遇し、激賞した前座さん。再び巡りあえて嬉しい!
出囃子が、いつも聴く「前座の上がり」でないのはなぜ? 昼も、前座の上がりだったのに。
夢ひろさんの出囃子は、11月のと同じだった。それ聴いて「あれ、芸協は落語協会と前座の出囃子違ったっけ?」と錯覚したのだ。
まだまだ知らないことが多数あるものだ。
夢ひろさんは、子ほめ。冒頭からタダの酒飲ませろとうるさい。
結構乱暴なのに、世界が乱暴さを吸収してしまうから不思議。これはデビュー時聴いた「つる」もだった。
先日、落語協会の柳亭市悟さんの「子ほめ」について書いた。自分の言い間違いがツボに入ったのはさておき、なんだかずっと乱暴なままだねと感じたのを思い出した。
別に、市悟さんの将来性まで否定してませんけどね。
さて夢ひろさん、前座噺をほぼ自分で作ってしまうからすごい。
ストーリーまで新たに作るわけではないけども、リズムの付け方からなにから、独自性が強い。
脳内にある子ほめの積み重ねが、次々裏切られていくのが快感。それも、ごく自然にやっているように見える。
普通の前座とは、噺の覚え方から根本的に違うみたい。だからといって、「お前、あの噺はなんだ」と楽屋で叱られそうなものでもなく。
やはり規格外の前座。
だいたいだ。八っつぁんが竹のうちで喋る口上は、ゆっくりやるものだろう。
「ときに竹さん、こちらはあなたのお子さんですか」って調子を変えて。誰だってそう。
この人は、スピードを上げたままこの口上に飛び込んでしまう。
笑いにつながらない部分も動かしている。たとえば爺さんは昼寝ではなく、調子が悪いんだそうだ。
こういうのも芸協にあるのかもしれないが。
将来性を再認識したのだが、残念なことに夜席の客、特にこの前座さんに感心したようすでもなかった。
普通に見えた?
ヘタでは絶対にないのだけど、なにやってるか響きにくい?
まあ、それでもじきに注目の前座になると思うけども。
二ツ目は、ぜひ聴いておきたい雷門音助さん。
先日サニーホールの会で、寄席に出突っ張りだと語っていた。まだ続いているのだな。よほど評価されてるのだろうか。
地元静岡で信金連合会のCMに出ている。昇太師匠だと予算オーバーだから。
自慢の仕方がいいじゃないですか。
狐狸から、狸札。
寄席では普通の噺だなあと。二ツ目なんだから当たり前だけど。
とはいえ、狸寝入りなどなくスピーディ。冒頭が子供たちの狸いじめから始まるわりに、実に軽快。
やはり上手い。
ここらで帰ってもいいけども、昼の小泉ポロン先生を観て、夜の瞳ナナ先生も観ていかないのはなんとなく気が引ける。
両先生の冒頭のマジック、2種類がまったく同じものだった。
トランプがだんだん小さくなって消えてしまうのと、ハンカチが傘(だった?)になるもの。
以前末広亭で、昼の北見伸先生、夜の山上兄弟(息子)が同じBGMで同じマジックを披露していたのを思い出した。
まあ、みなさん同じ一門だからいいんですけど。
瞳ナナ先生はブリッコ魔女を裏声で出すのだけども、なんだかそろそろしんどくなってきているみたい。
いきなりのキャラ変がありそうな気もする。
別に悪口ではない。昼も夜も、マジックのトークが楽しく私は好きなのです。
春風亭柳雀師で帰ることにする。
この人は披露目にも行ったので、気に掛けている。
音助さんのCMの話を引いて、私はローカルレベルじゃないですよ、日銀の広報動画に出てるんですよと。
過払い金のA太郎とはレベルが違います。
演目は辰巳の辻占。
トリ以外で出せる便利な廓噺、最近は落語協会でも芸術協会でも流行ってるんじゃないでしょうか?
辻占の文句が、2番目3番目が聴いたことないものだった。あいにく忘れた。
非常に軽く、楽しい一席でした。
人の生き死にを扱う噺だがら軽くないといけないが、これほど軽いと実にいい気持ち。
こういう味もある人なのだ。
というわけで楽しい芸協池袋でありました。
(訂正)
「辰巳の辻占」が「辰己の辻占」になってました。訂正します。
後者は、楽天の選手に関係するネタのほうです。