桃月庵白酒独演会@北とぴあ(上・三遊亭まんと「つる」)

本日4月14日日曜日、昼間出かけるにあたり、行き先を迷いに迷いまくった。
私は迷うのが大好きだ。人間、迷っているときが最も、充実感に満ちている。
検討した席の数々。

  • 隅田川馬石(なかの芸能小劇場)
  • 東京桂福丸を聴く会(両国亭)
  • 鯉朝・左龍二人会(ばばん場)
  • 若鮎を応援する会(柳家小はだ・ひらい円蔵亭)
  • 渋谷らくご(圓太郎・小痴楽・百栄・寸志)
  • 柳家小もん・小ふね(大宮・氷川神社)
  • 馬生長講の会(お富与三郎・墨亭)
  • 正雀の会(新川崎の寿司屋)
  • 国立演芸場寄席(主任・小遊三)

他にもまだまだある。
さらに、かわら版に出てない小さな会が、うちから徒歩圏内である。
好きな演者の独演会だが、これだけ選択肢が多いと、近所だからという理由では選びづらい。
いまだに行っていない「渋谷らくご」の顔付けがすばらしいので、いったんこれに決めた。
だがじきに、日曜の渋谷なんて気疲れしそうだなあと。
ひらい円蔵亭の小はださんは500円なのがいいが、1時間だけ。近所のコモディイイダが都内でも屈指の好きなスーパーで、夕食の支度には最適だけど。
両国の桂福丸師の会は、ゲストが取り上げたばかりの春風亭かけ橋さん。ただ、前売料金があると当日行く意欲は減退する。
「前売り料金だったら行きたいんですけど」と言って当日電話したら前売りになりそうだが、さすがにさもしい。
ギリギリまで検討したのが、大宮の小もん・小ふね兄弟会。交通費は高いが、木戸銭は2,000円。
だが、大宮なんてところはなまじ昔からなじみのある街であるため、わざわざ出かける意欲を欠いた。
新川崎の寿司屋の会は、予約先が正雀師の携帯電話。こりゃちょっと緊張するな。
悩みに悩んで、とりあえず一晩寝た。

朝起きて当日、昨日の検討を深く振り返らず王子北とぴあ、桃月庵白酒師の独演会を取った。
夢が会を選んだようなもんだ。この会も、前日から検討していた。
エイフル企画のサイトで、当日になってもチケット売っている。3,700円。
ここで買うと、当日購入なのに郵送料100円まで取られてしまうのが癪だ。
でもキャッシュレスのプロである私からすると、現金払いより、100円余分に払っちゃったほうがトクなのだった。

前置きを長々とすみません。
桃月庵白酒師は、私にとってはたまに寄席でお見かけする人であり、落語会には行かない。
わずかに、日本の話芸収録の東京落語会で昨年聴いた。
避けたりしてはいないが、弟弟子の馬石師が好きなため自然こうなるのだと思う。
東京落語会の厩火事は見事だった。

北とぴあは初めて。建物に入ったことは、なぜかある。
ホールがたくさんある。2階のつつじホール。
ちなみに、現地で、100円返してくれました。
満員。

つる まんと
抜け雀 白酒
(仲入り)
猫と金魚 白浪
化け物使い 白酒

張り出してあるプログラムには前座「しろ八」とあった。
実際に出てきたのは三遊亭まんとさん。3年ぶりの遭遇。
落語協会の前座香盤の最初にいる。ということは、間もなく二ツ目昇進。
まず、この会の約束ですのでと客に呼びかけ、「白酒」「パワー」と声を合わせる。
予告通り、済んだらさっと本編に入り、大ウケ。前座も古くなると実にあざとい。

この前座さんの「つる」にいきなり感服した。
一度聴いて上手いと思った人だが、3年で恐ろしく成長している。
噺の骨格以外、中身を自由に作り上げる「ラジオ焼き」を具現化した一席。
作り上げるといっても、古典落語の方法論から外れていない。
現代ギャグをぶっこんだりするわけでなく、ひたすら古典落語っぽい。
でも、こんな演出は知らない。

  • 家に何にもない八っつぁん、なにかありつこうと隠居のうちへ
  • 羊羹もらったお礼に、なにかうちのもの褒めますと八っつぁん。へこの間の鶴の絵を見つける
  • 鶴はなんで首が長いんだと八っつぁん。隠居は知らない
  • なんで頭の上が赤いんだと八っつぁん。隠居は知らない
  • なんにも知らねえっすね。じゃ、なんでつるっていうんだと八っつぁん。隠居にスイッチが入る
  • つるのいわれを覚えた八っつぁん、よそでやってきます。隠居は止めはしないが、お前さんには難しいだろう
  • 忙しい辰っつぁんのうちに上がり込み、いわれを語るが、オスメスとも「つー」と飛んで来るので「つっつ」になってしまう
  • 泣きながら隠居宅に戻る八っつぁん。もう1回(ちゃんと)教わって、リベンジ
  • オスメスとも「つーるー」と飛んで来るので、「つるつる」になってしまう

先日聴いた、風柳師のつるにもエッセンスが似ている。落語協会、静かなつるブーム?
クスグリも感心。
「へこの間」と言う八っつぁんに隠居、「大工だろ?」。
場内爆笑。そういやそうだ。
床の間知らなくてもなんとかやってきたそうで。

鶴は首がなげえから、うめえもん食うとずっとうめえでしょうね。
苦い薬飲んだらずっと苦しいだろ。

このやりとりは、もしかすると子供の頃聴いたことがあったかも。でも、オリジナルかもしれない。
隠居がウソをつくまでの流れは、世界一軽く、そして自然。
到底答えられない質問を連発でされた隠居、ほんのちょっとだけ体面を保とうと思ったらしい。ほんのちょっとなので、よそでやってくると言われても平気。
まんとさんのつるに比べたら、どんなつるだって隠居の心中は意味不明だ。

そして、前座噺のストーリーをじっくり観察し、ごく軽くツッコんでいくのが面白さの秘訣。
一度目は泣いて、二度目はベソかいて戻ってくる八っつぁんに隠居は優しく、「大のおとながベソかいてまでやるもんじゃないよ」。
ちなみに私もスカっと系で、作者さんの書いたものに軽いツッコミ入れることで、視聴者の引っ掛かりを解消し、笑いを加えるということをしている。
自分で言うのもなんだが、そこそこ高度。

さらにせっかくの羊羹を放りっぱなしの八っつぁん。
「羊羹取っといてくださいよ」「もうカラッカラだよ」。

素晴らしい。
まんとさん、二ツ目になっても名を変えず、真打で圓窓を襲名すると見た。

続きます。

作成者: でっち定吉

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