桃月庵白酒独演会@北とぴあ(下・「化け物使い」)

仲入り休憩は短い。
幕が開くと今度は、2番弟子の桃月庵白浪さん。私は前座(ひしもち)時代を通して初めて。
白酒門下の二ツ目は3人だが、いずれもなじみ薄い。白浪さんは、神田連雀亭を抜けたようだ。
頼りなさそうな風貌の人。

高座で喋るのは構わないが、トークは苦手。お客さんのほうだけでなく、相手を意識して話さないといけない。
その苦手なトークが、名古屋の一門会であった。弟子三人で回さないとならない。師匠は出ない。
どうオチがついたか忘れた。

会話が成り立ちにくい人がいる。
一門の、隅田川馬石師が。
馬石師と会話をしようと思い、とっておきの心理テストを紹介する白浪さん。
ボートが沈んでいて、親友と彼女が投げ出されている。どちらを助けるか。ビジネスと私生活、どちらが優先かというテスト。
馬石師は、「ぼく彼女なんていないよ」(モノマネ入り)。
奥さんでいいですから。
「なんで奥さんと親友が、同じボートに載ってるの? どういうこと?」

裏(なかの芸能小劇場)で会をやってる馬石師の話が出てきて、なんだかとても嬉しい。
しかし、噛み合わない会話、私は馬石師の肩を持ちたい。
そういえば数少ない遭遇をしている兄弟子、こはくさんも、蜃気楼龍玉師の飲酒ライフを紹介していたっけか。

マクラがフリになって、会話が通じない落語の筆頭、猫と金魚。
金魚と金魚鉢とをいちいち分けてしまう番頭さんが、大事な金魚を懐に隠し持っているというオリジナルクスグリ。
これを出入りの熊さんにも適用する面白い工夫。
もっとも、既存の「濡れ鼠」のほうが面白いけど。

トリは再度白酒師。
先に書いたとおり、特にこの後半がスーパー毒舌ワールド。

二階さんも政界引退だそうですが、息子に譲るそうで。
大変ですね、いい歳になるまでなにしてるんだかわからない息子に地番譲るのも。
ああなると、岸田さんの息子のほうがまだ若いですし、なんだかわかる気がします。公邸で宴会やって、テンション上がっちゃったんでしょう。
和歌山のパーティー、あれマスコミにリークしたの二階さんでしょ。世耕さんが衆議院に鞍替えしてきて、地盤が取られると困るわけで。
まあ、そうじゃないかと思うんですけどね。

小泉進次郎も、落語好きってことになってますけどどうなんでしょうね。いや、本当に好きなんだとは思うんですけど。
あの人は寄席に来る際に、別に余計な配慮は求めないですよ。
芸能人でも、配慮求めるやつがいるんですよ。「座れますか」みたいに訊いてくるんです。
まず来てみろよって話ですよ。だいたい空いてるんですから!

まあ、小学校で好きな子にちょっかい出すのと同じですね。
だから二階さんも好き、小泉進次郎も好き、そういうことですよ。

他にもいろいろ語っていたがこれがメイン。
政治のゴタゴタを、ただの人間関係として軽く語ってしまうのが手練れのワザ。
なかなかできることではない。

で、これがどう化け物使いにつながったのだっけか?
奉公人が続けて暇をくれという場面から、口入屋の千束屋の場面。
警備員の仕事があるが誰か行くものはないか?
客はポカン。
なんでも茶碗が盗まれたそうで。爆笑時事ネタ。
あと、本所割下水のご隠居、若林さまで下男を欲しがっている。
残念なことに客の誰も笑わなかったが。
「雲助」は使わなくても師匠の本名は使うんだなと。

化け物使い、まだ時季は早い気もするけれど。もっとも圓太郎師は1月に出してたが。

古典落語の中でも非常に好きな噺なのだが、なんで好きなのか不思議なところが多い。
隠居は江戸時代でもそうなぐらいで、現代ではパワハラ一直線。
奉公人と、そして化け物がひたすら気の毒なのに、とても楽しい。
人間の欲望を解放している噺だからかな、と思ったりする。
とはいえ、この根源的欲求むき出しの隠居を抑える必要もあると考えるのだろうか。
化け物屋敷に越すと知って暇をもらう杢助が、主人ともう対等になった前提で、厳しく当たってるのが面白い。
元奉公人が急に上から来るので戸惑う隠居だが、でも案外受け入れる。
といっても、奉公人の使い方についてなんら学習したわけではないのだ。そこが楽しい。

一つ目小僧が現れ、早速隠居、こき使いモード。
一つ目に向かって、どっちが目尻なんだと訊いている呑気な隠居。
翌日は大入道、その翌日はのっぺらぼうの女が出るが、とことん動じない隠居。
そして、出てくるのは一向に構わないが、出てくる前のぞわぞわはやめてくれと。
ちゃんと化け物どうし、申し伝えをしておくように。

あろうことか、のっぺらぼうの女に(若干ではあるが)性欲をかきたれられもしたらしい。
顔がむきたまごみたいで色っぽいみたい。
なまじ顔があるだけ苦労してる女がいるからなと、これは普通のクスグリ。女性にウケてた。

やはり意外なぐらい、古典落語の面白さを打ち出す正統派の芸である。

こういう独演会ばかり狙っている人も無数にいるのだろうが、私は3か月にいっぺんぐらいだ。
実に楽しいものでした。
一度、この一門の会にも参加したいものである。

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作成者: でっち定吉

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