年末タイガー&ドラゴン一挙放送に思う

今朝もアップが遅れてすみません。
年末に「タイガー&ドラゴン」の一挙放送をTBSでやっていた。地上波での一挙放送は珍しい。
第1回のスペシャル版と、連ドラになってからのすべて。
「落語」のキーワードでいつも番組はチェックしているので引っ掛かった。
落語の番組、落語家の出る番組はとりあえず保存するが、でも日本の話芸の講談とか、ナイツの出た徹子の部屋は引っ掛からないので録画していない。

懐かしいですね。2005年の放送。なにしろこのドラマにより、第一次落語ブームが生じ、今につながっているのだ。
昭和元禄落語心中もすばらしかったが、影響力の大きさは比較できない。

さて今回の一挙放送、5秒・10秒の番宣スポットCMがやたら多い。クドカンの、長瀬智也主演の連ドラの番宣に文句言っちゃいけないが。
あらかじめカットしてから観ようとすると、5秒スポットは結構大変。

私は初回放送時リアルタイムでは観ていないのだが、数年後にTSUTAYAで借りてきて全部観た。
TSUTAYAが次々消滅している昨今、実に感慨深いものがある。
現代においてもはやレンタルビデオ店が必要とはまったく思わないが、それでも当時、物理的な棚に並べられたパッケージと運命の出会いをする機会は多かったわけだ。
まあ、そんなことを言いだすと、レンタルビデオ店の登場以前もまた、古い作品に出合うチャンスは乏しかったわけだけど。

タイガー&ドラゴン、その内容は、いい感じに忘れていた。新鮮に楽しめる。
坊主頭の星野源が出ていてびっくり。西田敏行扮する林屋亭どん太師匠の三番弟子、「どんつく」役。ほんとの端役である。
ちなみに五番弟子の「うどん」の浅利陽介も、同程度のチョイ役。
惣領弟子のどん太は阿部サダヲ。
二番弟子のどん吉は春風亭昇太師匠。落語の指導監修も手掛けている。
どん吉は、古典専門だというのが面白い。
2005年時点の昇太師は、すでにSWAの活動を始めていた。2006年に笑点に加入したのにも、タイガー&ドラゴンが影響を与えていると思われる。
auの浦島太郎でおなじみ桐谷健太はこの時点で結構出番が多く、これも驚き。

子供の頃から落語を聴いている私、2005年時点でも落語好きであったが、今になって振り返るとまた、感慨深いものがある。
落語のシーンを、登場人物扮するドラマにして見せる手法は、画期的だったと思う。
昔から時代劇等で、落語の場面の本家取りはあった。フランキー堺の「幕末太陽傳」もそう。
だが、落語のシーンをそのまま忠実に再現してみせるのは、意外となかったのでは。NHKでやっていた「超入門!落語 THE MOVIE」の先達だ。

西田敏行の劇中高座は、とても雰囲気が出ている。芸能人の演ずる落語にさして興味のない私だが、落語としてとても味があると思う。
面白いことに「西田敏行 落語」で検索したら、ブログ形式でない古い古いサイトがヒットした。
そこに、<その高座姿はあくまでも「落語家」を演じているだけで、「落語」を話しているようには思えない>と書かれているのが興味深い。
私はこの、2005年に書かれたサイトに異を唱えるつもりなどまったくない。というか、私も昔観たときはそんな感想だったかもしれない。
だが放送時から15年経ち、ビデオに残ったシーンが変質したのだと思うのである。
本当は変質はしない。西田敏行の強い芯が飛び出てきたのだろう。

古典落語の名作から、エッセンスを選り出したクドカンはすごい。
落語を題材に何か作ろうとする。落語ファンが観れば、だいたいどこか引っ掛かる箇所があるものである。
作る側は落語にどっぷり浸かった人ではないので、当然ではある。
だが、タイガー&ドラゴンには引っ掛からない。
理由は簡単で、この物語自体が見事な落語だからだ。

新作落語において、世界を日常にフィットさせず、反対にエスカレートさせてくる作り方がある。古今亭駒治師など典型例。
現実に合わせようとせず、逆にそんなバカなというシチュエーションを放り込んでいくことで、噺の穴がまるで気にならなくなる。そして噺に勝手に整合性が生まれてくる。
時には、ぶっ飛んだ世界なのに、そこに漂う人情に感動させられる。
タイガー&ドラゴンも、「噺家になりたいヤクザ」というぶっ飛んだ設定に、さらにいろいろ付け加えていくことで、穴を気にさせないつくりである。
まさに落語。
こういう世界において「なぜ前座が三枚起請を掛けているのだ」「前座のときに客がみんな帰ってしまうなら料金を捨てているではないか」などと気にする必要はない。軽くツッコむぐらい。
新作落語家も、クドカンに学んでいるのかもしれない。

伊東美咲という実質引退している女優さん、ぶっ飛んだ役をこなすイメージだったが、その結構な部分、このドラマが担っていたことも思い出した。
三遊亭白鳥師の落語に出てきそうな人。

昭和元禄落語心中についていろいろ書いていたときは、その作品と世界は大好きなのだが、マジなだけにどうしても穴が気になったものだ。
ある種のリアルを狙おうとすればするほど、穴が拡大する。その反対もあるわけだ。
知らない世界のことを題材にするなら、もちろん調べることは必要だが、深掘りするより大事なことがある。

タイガー&ドラゴンの世界、どんどん先鋭化していくいっぽうで、ちゃんと現実へのフックも掛かっている。
どん平の、弟子が多数いる家の暖かさ。落語好きの人が、師弟関係に思うイメージが具現化されている。
親を知らない、長瀬の小虎がここに居場所を見つけるのである。

一挙放送の半分を、家内と一緒にチビチビ観終わったところ。
改めて、次は劇中の落語を題材に取り上げてみたい。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。