ぐんまさんは、この噺やるつもりじゃなかったと語っていた。
やる場合、モグラの鉤爪を表現するため扇子を6本握り込む。なので事前に用意しとくんだそうだ。
今回は急遽決めたので、扇子が(借りたのだろう)4本しかない。なので、太鼓のバチを2本腰に刺して仕込んでおいた。
さすがに、高座に上がってから決めるのは不可能な噺。
そういえば、先に出た昇咲さんも扇子2本使っていた。
この噺、ちゃんとモグラの生態や種族の差、モグラが実は泳げることなど、細部を徹底リサーチして作ってある。
大陸からやってきた大型のコウベモグラに、長年に渡りアズマモグラがおびやかされてきたことも。
そしてもう1頭、小さな体の弟子はヒメヒミズモグラであり、穴を掘るのが苦手であることも。
この骨組みに、師弟関係と恋、そして抗争と協力、自然破壊に対する憂いと自己犠牲まで放り込む。
バカ落語でかつ、人の涙腺を緩めるすごい落語。
二度目の噺なのに、実に新鮮に聴けたのでありました。
トリは吉原馬雀さん。
いやー、ずいぶん最後時間かかりますねと。ぐんまさんが扇子とバチをすべて腰に刺し終わるまでがたっぷりで。
復帰後4席めとなるが、すべてここ連雀亭で聴いている。
他の活躍場所は故郷宮崎中心のようだが、いい知らせも。
池袋中席夜の新作芝居に、顔付けされている。
あとは、暮れの池袋、3月の台本まつり、そして夏のプークに入れれば完璧。
こんな席には、暴力元師匠もその一門の面倒な先輩も出てこない。
チラシには、「吉原祭 ハラスメント問題を考え続ける」なんて会も入っていた。
朝馬師匠も加えた、控訴審判決の座談会もあるそうだ。さすがにこれは行かないと思うけど。
来秋同時昇進の5人の会のチラシも入っていた。どちらの会もアートスペース兜座。
そろそろ新作落語も被って仕方ない頃だが、またしても未聴の噺なのはありがたい。
裁判続けながら仕込み続けていたのでしょうか。
復帰後の馬雀落語に私が感じるのは、「聴き手の常識を裏返す」というテーマ。
この日の「一万人目」もまったくこれ。
超人能力についてのフリ。
スポーツについて例を出していたように思うが、なんだっけ。
能力についてのフリが必要なのはわかるのだが、本編のほうで超人能力はなかなか回収されなかった。超人能力は隠れテーマっぽい。
美術館では、古今東西の名画を集めた美術展を開催している。実現までには長い年月を要した。
いよいよ今日は、1万人めの来客を表彰する。
1万人めに当選した男は、美術館の期待に反しなんだかチャラい。チャラいというか、会話がまともに成立しない。
テレビの取材が来ているというのに、美術館の人はカメラの前で本気で頭に来ている。
ストーリーよりも、キャラクターの面白さに舵を切ったなかなか画期的な噺である。
こんなに振り切っている馬雀さんを観るのは初めてかもしれない。
チャラ男は別にふざけているわけではないようだが、とにかく常識を外した男である。
表彰の商品にも、ごく気軽にケチを付けていく。
噛み合わない会話が笑いを誘う。
どうして親子連れなどが1万人めにならなかったのであろうと嘆く関係者。それでもなんとか表彰も済んだ。
美術館の人もひと安心。男に向かって、どうぞゆっくり楽しんで来てください。
ところが男が広大な美術館の展示を、2分半で観て戻ってくる。男は超人的能力の持ち主だったのだ。
常識を見事に裏返した一席。
もうちょっと細かくご紹介したい気もするが、ストーリーに頼っていない噺のストーリーを書き連ねるのも野暮かもしれない。
とにかく面白かった。細かいクスグリやサゲ付近は覚えられなかったが、あまり気にしない。
きっといずれどこかでまた聴けるだろう。
後半ややもたつく場面もなくはなかったが、寄席の15分サイズにするとたぶんちょうどいいのだと思う。
新作3連発、この日も見事な神田連雀亭であった。
この日も、つばなれしませんでしたね。
私もいました。いつも、最前列のめくりの前に座っているのが私です。
座高が高いので、身体を小さくするようにしていますが。
連雀亭、よく行くので、ぜひ、声をかけてください。
この新作は、全て初聴きでした。
どれも、素晴らしい出来でした。
コメントに気づかなくて申しわけありません。
私、痛いお客以外はあまり観察してないもので、いらしたかどうか記憶になくてすみません。
神田連雀亭ミニ新作まつりはいいものですね。