落語界と闇営業問題(上)

とどまるところを知らない芸能界闇営業問題。
芸能界、というよりも、吉本興業ただ一社の問題なのだと思うが。
タレントにちゃんと分け前の行く事務所なら、タレントもわざわざ直で営業を受ける必要などないので。
会社のほうも、わかっているから反社が相手でない限りは黙認していた。
この先どうなるのか。こんなことがあったからといって、やり方を改め、吉本がすべてのタレントの仕事を管理するなんて不可能だろう。
ならどうするか。結局、タレントの数を絞らないといけなくなる。
売れない芸人が芸人に見切りをつけるきっかけになるなら、それは別に悪いことじゃない気もする。

振り返って、落語界はどうなのだろう。吉本興業所属の噺家もいるので、このたびの騒動も、特に大阪では大きく関係する。
落語界の構造は、東京と上方とでまったく違う。東西の行き来は非常に盛んなのだけど。
落語に詳しくない人だと、落語協会とか芸術協会といった団体と、芸能事務所との区別がつきづらいだろう。
協会とは、寄席に出るために噺家が所属する団体である。マネジメントはしない。お客に、所属芸人を紹介する機能はある。
いっぽう上方では、天満天神繁昌亭ができるまでは劇場は巨大事務所専属のものだった。これにより、まったく違う構造が生み出された。

上方では、ほぼすべての噺家が芸能事務所に所属している。吉本か松竹芸能、または米朝事務所。
松鶴一門と春團治一門は、松竹芸能。文枝一門が吉本興業。
笑福亭松鶴の惣領弟子である仁鶴一門と、米朝一門のうち月亭八方一門は、例外的に吉本興業である。
仁鶴が吉本興業所属であったのは、松鶴襲名騒動の遠因になったとされる。
仁鶴師が「俺が継ぐ」と言えば、誰も文句は言えなかった。だが、師匠と所属事務所が違うという点にも遠慮があったのかもしれない。
自分で継がずに、弟弟子の松葉に継がせると宣言したことで、いろいろ軋轢が発生した。
だが松葉師は早世。別に襲名に対する気苦労があったわけではないと思うが。

現在、上方落語協会会長は、仁鶴師の弟子の仁智師。
選任された一番の理由は人徳なのだろうが、笑福亭で吉本だという点、バランスもよかったのではないか。
前任者文枝師は、協会会長として公平ではあったろうが、一般的なイメージとしては吉本色が強かった。

上方落語界にも、吉本興業所属の噺家がずらっといる。調べたら84人も。
八方師の息子、八光師も会社から2時間調査を受けたという記事が出ていた。
噺家が吉本興業に所属するメリットは、タレントだと捉えればわかるのだが、噺家と考えたときにはよくわからない。
私はどうしても、東京のシステムを念頭に置いてしまう。
大阪でも、メディアに出ない人なら、上方落語協会に所属して、事務所無所属でやっていけるんじゃないかと思う。
寄席が2軒できた今ならなおさらだ。
吉本興業にいても、せいぜい、「よしもと住みます芸人」とかで地方の仕事をもらうぐらいではないのか。売れっ子でなければ、花月に出られるわけじゃないだろう。
東京の噺家の生活から類推すると、吉本興業所属の噺家も、普通に直営業じゃんじゃんやってるものと思われる。
ただ、噺家の本業はスケジュールが把握されやすいので、コソコソ感は薄い。それを会社も黙認していたのだろう。

師匠が吉本興業であれば、弟子も所属するのがごく普通。でも、師匠と同じ事務所に行かないとして、ただちに揉めるわけでもない。
今回の問題を機に、噺家の吉本離れが進むのではないだろうか。いや逆に、もともと大したメリットがない以上そのままかもしれない。
ちなみに、松竹芸能所属の噺家は57人だった。ただこのうち6人は、笑福亭鶴光師の弟子で、東京の芸協所属。
米朝事務所は46人。第三の極にしてはすごい数だ。

続きます。

作成者: でっち定吉

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