新宿末広亭がなくなったっていいじゃないか

新宿末広亭が経営危機でクラウドファンディングを始めたのだという。

「存続の危機」 木造の寄席・新宿末広亭、コロナで収入減続き(毎日新聞)

うーん、ダメならもうダメじゃない?
延命措置を寄付に頼らず、潔く畳むしかないのではないでしょうか。
三遊亭白鳥師「天使がバスで降りた寄席」のスエピロ亭がリアルになってきた。

薄情だって? 落語好きの風上にも置けない?
いや、末広亭が潰れたら、落語ファン、寄席ファンのはしくれである私だって確かに困るよ。
蟻の穴から堤も崩れるというが、末広亭はモグラの穴だ。それもよくわかっている。
末広亭が閉館したら、落語界へのダメージが小さいなんてことはあり得ない。特に芸協さんは。
なにしろ末広亭は、万人が持つ寄席のイメージを一身に背負っている。私の好きな、地下2階にある池袋演芸場と比べ物にならない。

だがクラファンはなあ。
談志だったら、「馬鹿は力の入れどころが違う」って言いそう。

末広亭が嫌いなのか。そんなことはない。
確かにいっときは離れた。番組が初心者向きで魅力に乏しく思えて。
別に離れるぞと決意して離れたわけではないが、いい番組がないうち、気づくと5年経ってしまったのだった。
コロナ禍において久々に出向いた末広亭は、「初心者向き」ではなかった。「落語の基礎に満ちた寄席」だった。
私も成長したらしい。落語の基礎溢れる末広亭に嬉しくなり、3回行きました。

でもねえ。
コロナはさておき、新宿の一等地に小屋だけ建っていて経営がうまく行かないのは当たり前でしょう。
歌舞伎座だってタワーになった。改装前はいろいろ言う人もいたが、できてしまえば悪口など聴こえない。
椅子も広いし、伝統もちゃんと感じられるとなれば、文句の出ようがない。
新しい国立劇場・演芸場にも期待だ。

伝統=コスプレ理論。
土地を提供してもらった天満天神繁昌亭だって、平成の時代にそれらしいものを新たに作ったのだ。それじゃダメかい?

古いものを残しておけば伝統になるのか。違うと思う。
それは伝統でなく、ノスタルジー以外のものではない。
末広亭に、落語界に必要なのは古めかしいガワではない。落語や講談をしっかり続ける中身のほうである。
私だって、ガワを観に出かけたわけじゃない。
今のまま残したいのは理想ではあろうが、あまりにも非現実的。
新宿のどこか(違う場所だっていい)のビル内に収まる形で残れば十分だし、むしろ地価の高い東京ではそうあるべきものと思う。
建物だけ飯能あたりに移築したって、寄席小屋としては機能しないしね。

末広亭を残したいと思う落語ファンの気持ちを馬鹿にはしない。だが、ガワと中身とどちらを残したいのか、区別がついてないのではないか。そんな印象を受けた。
鈴本もビル、浅草もビル、永谷演芸場もみなビル。
末広亭だけが聖地として今のまま残せるなんて、幻想だ。妄想だ。
ガワが無価値だと言ってるのではない。中身の重要さと比べたとき、その価値がなんぼのもんじゃということ。
ガワは一度観ればそれで十分。

なんだか、日ごろろくに使いもしないくせに、地元の赤字路線が廃止になりそうだと大騒ぎする感覚によく似ている。
末広亭もローカル線も、使命を終えたらもう仕方ない。なんにだって寿命があるのだ。
バスはイヤだ、鉄路がいいというのはノスタルジーの問題に過ぎない。
人のいないローカル線の風情がいいから残そうなんて言う人がいたら(実際いるんだが)腹立ちません?

神田警察通りのイチョウを守ろうと、木に抱き着いて妨害している痛い人たちのことも思い起こす。
なにかが変わるとき、未来のグランドデザインが間違っている可能性は確かにある。だが、クレイジー連中の思いのほうが正しいことは、まずあり得ない。

コロナの威力は確かに急激だったかもしれないが、遅かれ早かれ現実に直面しないといけなかったのだ。
伝統だ伝統だと叫んだところで、もう間に合わない。
瀕死の状態において、クラファンがカンフル剤になどなりはしない。
ともかくクラファンが始まったのに、社内で情報が共有できておらず、問い合わせに「そんなもの知りません」と答えた末広亭。
そんなダメ組織、潰れるべくして潰れます。
大切なのは適切なターミナルケアであって、延命治療ではない。

噺家さんにとっては職場。決して以上のようには発言できないので、定吉から言わせてもらいます。

歴史を振り返ったとき、末広亭には、圓生の三遊協会の目論見を頓挫させるぐらいの権力があった。
なら、むしろもっと権力を振るうべきだった。
鈴本の芸協離脱があった中では難しかっただろうが、協会よりも寄席主導の番組をもっと作るべきだったのだろう。

末広亭になど見切りをつけ、未来の寄席を作ろうではないですか。
芸協さんは頭を下げてではなく、双方WinWinでもって鈴本興行を復活させる。
新宿から寄席の機能が消えてしまったら、さしあたっては紀伊国屋ホールで、寄席形式の会を開く。昼間は空いてるし。

まあ、一番いいのは歌舞伎座方式なんだろうけども。
コスプレ末広亭の上に、立派なビルが建っているという。
協力してくれる所有者がいるかどうか、なんとも言えないが。

作成者: でっち定吉

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4件のコメント

  1. 当方に届く twitter で末広亭の経営危機を知りました。1990年代のバブル末期にも末広は廃業を考えていたニュースをTVドキュメンタリーで視たことがありますが、今般のコロナ禍でさらに経営難に陥ったのかと感じます。取りあえず昨年のクラウドファンディングによる“浄財”で延命が適ったのは一時繋ぎの資金として、このまま立ち直るには未だ“道遠し”…といったところでしょうか??
    昨年は丁度、今頃に僅かながらクラファンに寄贈したものの、二度目となると何とも…。それに何故か盛り上がりにも欠けているように思え、今後、多額の寄付が集まって来て末広の経営が軌道に乗るまで持ち直してくれる期待が生まれてくれば、今一度、との考えます。大変冷たいようで申し訳ありませんが…。

  2. 全く同感です。
    学生時代から50年近く末廣亭に伺っていますが、何ら寄席として昇華していない。

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