「どうしたいおとっつぁん、パソコンの前で険しい顔して」
「おう、落語好きが高じて親父をおとっつぁんと呼ぶ息子。おれは悔しいぞ」
「またどうせ、でっち定吉を勝手にライバル視してるんだろ。おとっつぁんの考えなんてお見通しさ」
「うむ、さすが我が息子だ」
「さすがといっても、おれらしょせん偽物だしね。ニセ丁稚とニセ息子だ」
「ともかくだ。相変わらずでっち定吉が毎日のように更新しているのにだな、おれのほうは全然なにも書けなくてな」
「困ったもんだね。おとっつぁんもWordPressでブログ書いて、Google AdSenseで広告張って大儲けするんじゃなかったのかい。タイトルまで『手代伊八の落語界かんさつ日誌』に決めてたくせに」
「初期投資だけしてなにもできないともったいないから、先に記事だけ書こうと思ったんだ。その記事が書けねえ」
「よくいるよねこういう、口ばっかりでなんにも始められなくて、おまけにシブチンって人」
「しゅん」
「可愛く言ったってダメだよ。しょうがねえなあ、おとっつぁんのためにひと肌脱ぐか」
「なにかアイディアあるのか」
「発想の転換だよ。おとっつぁんとしたら、自分の売上が上がらなくても、定吉ブログの売上が落ちれば満足なんじゃないかい」
「コロンブスの卵だな。でも、どうやったらヤツの売上を落とせるんだ。そうだ、ハッカーとして侵入して、中身を全部消してやればいいな」
「そんな知恵も知識もないだろおとっつぁん。タッチタイピングだってあやふやなくせにさ」
「なせばなる」
「勉強する根気もないくせによく言うね。それより簡単な方法を思いついたぜ」
「うんうん」
「でっち定吉ブログにね、唯一外に開かれた窓口があるんだよ。なんだと思う」
「わかった。ツイッターだな」
「違うよ。ツイッターで悪口書いたって、定吉が探し出してまたネタに使われるだけだろ。もっと直接的な方法はね、ブログについてるコメントだよ」
「ほう、コメント・・・わかったぞ。コメントに誹謗中傷を載せればいいんだな。いや待てよ。定吉ブログのコメントは初回に限り承認制のはずだ。誹謗中傷はすぐ削除されるから、単純な悪口は意味がない」
「そうだね。海外からの英語の宣伝コメントと同じように、スパム扱いされておしまいだ」
「なるほど、まずは定吉の承認を突破しなきゃいけないな」
「その通り。定吉なんてね、褒めときゃすぐつけあがる単純なバカに決まってるからね。褒めあげてやんなよ。おとっつぁんと一緒だね」
「最後のひとことが気に障るが、ともかく褒めりゃいいんだな」
「簡単だろ。なにしろおとっつぁん、実は定吉の一のファンだもんね」
「カチカチ。できたぞ」
【定吉さんのブログの更新が毎日楽しみでなりません。最近は日に三度、毎食後に読んでいます。おかげで今朝もいいお通じがつきました】
「いいんじゃない。定吉はこんな古典落語由来のギャグ好きだからね。喜んで返信してくれるよ」
「これで承認されるから、次はなんでも書けるわけだ。さてそいつが問題だな」
「いよいよ定吉をdisるのか、わくわく」
【やい、この定吉、さん。お前なんか、定吉じゃねえか。いつも広告で収益上げやがって。羨ましいぞ。今ではこんな立派なブログになって、どうもおめでとうございます】
「悪態つくんじゃなかったのかよ」
「悪口ってのは意外と難しいんだな。おれ、意外とひとがよかった」
「考えたんだけどさ、目的はブログの収益を落とすことだよね。そうしたらさ、定吉に直接悪口言ってもだめだよ。常連読者が来たくなくなるようなコメント付ければいいんじゃないか」
「さすが悪知恵だけはまわる息子だ。とにかくうざいコメントを付けて、読者が毎日読んでる定吉ブログに足が向かないようにすればいいわけだな」
「そうだよ。一番うざいのはそうだな、粘着質のメンヘラだね」
「ああ、わかるわかる。ひと昔前に、噺家さんがよく自分のサイトに掲示板を置いていたんだ。するとやがて、掲示板のヌシが生まれるんだな。これがだいたい女でな、自分がその師匠のことをいかに好きかというひとり語りを延々するんだ。会に出かけたことを過剰アピールしたりして。そんなもの誰も読みたくないから、結局誰も書き込みしなくなることがよくあった」
「そうなんだ。人さまの庭で自分のパフォーマンスを始めれば必ず嫌がられるってことだ。おとっつぁんもムダに生きてきたわけじゃないんだね」
「ついに知識と経験を活かす日が来たようだ。でもメンヘラは難しいな。支離滅裂でないといけないんだから。カチカチ。こんなのどうかな」
【春風亭かけ橋さんのことを知りたくて検索してでっち定吉さんに巡り合いました。こんな素敵なサイトがあったなんて今まで知らなかった自分にプンプンです!!私は宝塚歌劇と淡路島をこよなく愛しています。宝塚のおかげでなんとか生きていけてますが落語も大好きです!特に私が好きな人は東京では春風亭昇吉師匠で、昇吉さんの「あたま山」にしびれてしまい、いまだに痺れっ放しなんです!!定吉さんは昇吉師匠はお好きですか?池袋演芸場にはまだ行ったことがありません。怖いところなんじゃないかと心配していますが一度行って見ようかなと思ってます。芸協らくごまつりも楽しみですね!!それでは毎日の更新楽しみにしています。また書き込ませていただきます。】
「すごいねおとっつぁん、この飛躍振り、なかなか作ろうとしても作れないトンデモさだ・・・淡路島ってなに?」
「淡路島でもフィジーでもいいんだけど、当人にしかわからないつながりってことだよ。おれにもわからん」
架空コメント作りでさんざん盛り上がった親子でしたが、コメント欄をジャックするためには毎日メンヘラ文体を作らねばならず、結局くたびれ果てて3日で挫折してしまいましたとさ。
そしてせっかくのコメントはみな、でっち定吉にウザがられて削除され、承認も取り消されたということです。