上野広小路亭しのばず寄席4 その6(三遊亭好楽「一眼国」下)

4年前にしのばず寄席で聴いた好楽師のこと、ちょっと思い出した。
街で顔を指されて、「あ、ピンクの小粒コーラック」。
今から思うと、いかにもオチを付けましたという感があった。
別に当時すごく気になったわけではない。ただ、現在の好楽師にはこのような、とってつけた感がほとんどないのだ。
とてもナチュラルになっていて感動する。

マクラはまだある。
好楽師が子供のころ実際に観にいった「鬼娘」の話。
鬼娘は子供を食うから、赤ん坊を用意する。
赤ん坊は、乞食の元締めのところから借りてくる。子供がいる乞食はおもらいが多く、乞食組合の元締めになれるんだそうだ。
いざ赤ん坊を食う番になると、鬼娘は大きな独り言を言う。
あたし毎日子供を食ってるけど、たまには嫌になるときもある。
今日はやめておこうかしら。
そうするとサクラがすかさず、そうだやめておけ、かわいそうだと。
そして幕が閉まり、本日はこれまで。

好楽師の先輩あたりは、見世物小屋を手伝っていた人がいるという。直接その話を聞いたんだそうだ。
噺家が、実際に鬼娘になったりしてたんだって。角は畑から掘り出した、泥のついたニンジンで作る。
落語というものが、世間からどういう位置付けにあったかわかるエピソードですな。
見せ物小屋と同じ世界のものなのだ。

好楽師のマクラ、大部分書いちゃった。
高座の模様を書くのはNGという謎ルールと戦う私であるが、ところでどうしてこんなに詳細に覚えているのか。
日々の訓練のたまものとしか言えない。
訓練と言っても、覚える訓練ではない。高座に自分の感想を混ぜつつ参加していくのが訓練の中身である。
覚えているのは結果。そして覚えている内容は高座のコピーではなく、その際の私の感情そのもの。
ここで書かなかったことは驚くほど簡単に忘れる。
ブログを書く際にしか役に立たない能力。

本編はもちろん一眼国。
鬼娘のくだりから、「(香具師が)こんなことをやってるので客が一人減り二人減りしまして」と本編につながるのも、なかなかびっくり。
実に楽しい噺だが、笑いはそれほどない。では怪談噺なのかというと、それも違う気がする。
怪談噺とも言えないと思いつつ、好楽師の噺は怖い部分がしっかり怖い。それがいい。
この甚兵衛さんみたいな師匠、ときとしてド迫力を魅せてくれる。
啖呵も切る師匠だが、一眼国の場合は秋風漂う不気味さを感じる。

4年前に聴いた一眼国、自分の書いたものによると、六部に「冷や飯を食わせるくだりはない」とある。
だが、今回は入っている。
さらに、たっぷり食べなといいながら、冷や飯が一膳しかなかったというくだりもある。
好楽師の一眼国の中身が4年で変わったわけじゃないと思う。恐らく、毎回その場で作って出しているのだ。
師の頭の中には先代正蔵が、そして他の先人がやった一眼国のあらゆるバージョンが入っていて、自由に出し入れできるのだと思う。もちろん自分自身の演出も。
最近、被るようになった師の噺、常にこういうズレがどこかにあって面白い。
だから笑点で言われている「うろ覚え」はある種正しい。うろ覚えの落語がすばらしいのであった。
創作力があるから、うろ覚えが生きる。
鶴瓶師などと付き合いが深いので、それで先人の財産に創作を加えるという作業ができるようになったのだ、きっと。

こういう気づきも、毎回高座の模様を細かく書かせてもらっているからこそである。

ちなみに、マクラで師も「鬼娘」と「蛇女」がごっちゃになってたみたい。
蛇女の話をするかと思ったら鬼娘に直していた。
4年前は、師が実際に「蛇女」を観にいった話をしたと私は書いている。どっちだったかもうわからないが、いいんだ別に。

一眼国のお代官につかまり、見世物に出されるサゲをさらっと。
これも意外に思ったのだが、かどわかしをする香具師に、かわいそうなどという気持ちが起きない。
ウェットな部分が乾いて、楽しいお話に昇華しているのだった。

好楽師、これから5年、ますます腕が上がっていくから見ていてください。
奇跡みたいな高座が見られるであろう。

楽しいしのばず寄席でした。
こんなすごいメンバーは今後もなかなかないと思うが、あるとすればまた31日かも。

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作成者: でっち定吉

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