用賀・眞福寺落語会4(上・入船亭扇辰「蕎麦の隠居」)

金土と2日続けて無料の会へ。
無料の落語もすっかり普通の世の中になった。

11日は用賀の眞福寺落語会へ。要ご浄財。
ここは年3回やっていて、運営も非常に安定している。
毎年1回は寄せていただいている。柳家権之助師も、この会のお陰で毎年聴けている。
前回はシブラクと迷って渋谷に行った。
今回はゲスト扇辰というので、こちらに。
ただ、ひとつ心配が。
扇辰師、田能久出す可能性が高い。巳年だし。
前の日に聴いたばかりだからなあ。さすがにそれは。
まあそんなことだって、あるだろうとしか言えない。

まもなく開演時刻だというのに、関係者の姿はない。
勝手に上がらせていただく。客はつ離れしていない。
高座はちゃんと作ってあり、「入船亭辰むめ」と前座のメクリも出ているので、会があるのは確かだ。
ま、のんびりしてていいじゃないですか。

13時半に、柳家権之助師が出てきてご挨拶。
「東京かわら版には13時半って出ていたかもしれませんが、14時開演です」
なるほど、それで人が少ないのか。本当の開演時間に向けて、どんどん集まってきました。
「それから、今日は前座をやってくれていた扇兆(辰ぢろ)さんの披露口上を予定してたんですが、ご本人がインフルエンザで。なので私と扇辰師匠とで、2席ずつやります。ご祝儀持ってきていただいた方には申しわけありませんが、私がしっかりいただきます」

もともと披露目があるとは知らなかったので、ガッカリしようもない。
インフルエンザで休演の人、暮れから3人目だ。
前日もしん華さんが休演だったし。
芸人の皆さん、予防接種はしといたほうがいいですよ。

 

子ほめ 辰むめ
蕎麦の隠居 扇辰
幾代餅 権之助
(仲入り)
壺算
ギター演奏
権之助
ねずみ 扇辰

田能久は出ませんでした。

権之助師は開演前に3回出てきて、お詫びと説明を繰り返す。
今後は前座は辰むめさんにお願いするそうだ。
その入船亭辰むめさんは初めて遭遇。
読みはたつうめ。
権之助師が、太宰府出身だって言ってた。辰梅ということか。

口調の非常にいい前座。
だが、現状は口調だけ。仕方ないことだけど。
教わった噺の再現になってしまっているのだろう。
何も持ってない人よりはもちろん期待できるだろうが。

扇辰師登場。
メクリが、以前ばばん場で見た、「船」の字が船の絵になってるもの。
明けましておめでとうございます。
今年は新年は天気良くて、あったかくて正月らしかったですね。
ただ、我々は元日から働いてますのでね。もう抜け殻です。

久々に眞福寺さんに呼んでいただきました。
楽屋でネタ帳見ましたら、前回は11年前ですね。ずいぶん長いことほっとかれたものです。
今日は弟子の披露目だったんですけど。本人いなくて申しわけありません。
おととい熱を出したと報告受けまして。昨日病院行ったらばっちりインフルエンザA型でした。
今はいいクスリが出てるから落ち着いてるみたいだけど、まさかお客様の前で喋らせられないしね。
こんなときに熱出すなんてね。あいつクビだね。
今日は、2席させていただきます。
お詫びといってはなんですが、私以外誰もやらないであろう、珍しい噺をお土産代わりに。

そば屋にやってくるご隠居らしい人。
おそばを半人前頼んで、お勘定の際に1人前の半分なのに16文はおかしくないか。10文にしなさい。

2年前に聴いた「蕎麦の隠居」である。
当時シャレたサゲを知らず、おかげでずいぶん楽しんだ。
そして2年経ったら、なんと噺が大幅に進化していた!
古典落語家の創作力のすごさがよくわかる。
これはもともと矢野誠一先生が先代扇橋のために書いたもの。
だからどこか新作落語らしさを当時感じた。なんの噺か気づくより先にそれを。
どんな擬古典落語の名作も、本物の古典落語とは文法が違っているもので、それは自然なことなのだ。
しかし、今や完全に古典落語の世界にハマる噺になっていた。

古典落語らしさとは? 結局、既存の定番の噺に、どこか共通している要素があるということだ。
こんな要素。

  • 上方落語「たばこの火」に似た裏切り
  • 「宿屋の仇討ち」のような、状況説明の繰り返し
  • 隠居が毎日なにかについて小言を言う、繰り返し
  • 地噺のように、途中で脱線してマクラのようなエピソードを入れる
  • 繰り返しを適度に省略する

地噺のやり方による脱線は、前回聴いたときにはなかったのだ。
この手法、最近地噺について書いた中で触れたが、最近流行っている。今回、扇辰師も脱線しておそばの食べ方、つゆをたっぷり付けない江戸っ子について語っていた。
古典落語を考えて作るのは難しい。だが、新作落語について考えることで、古典落語に寄せていくことまではできるらしい。
そして作者の手から離れ、演者によって高座で磨かれているうちに、古典落語の魂が宿る。
今度「丁稚の落語論」で、「新作落語を古典落語にするには」というのが1本書けるな。

そして毎日おそばを食べる隠居の、6日目(16枚)と7日目(32枚)は省略し、客に考えさせつつエピソードはきちんと描写する。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

失礼のないコメントでメールアドレスが本物なら承認しています。