この会、過去3回来ていて唯一気に入らなかった点が、拍手の早い常連が多いということ。
この日は女性が多く、そんな客がいないので快適だった。
蕎麦の隠居の洒落たサゲを、ヨーイドンで手叩かれたら味消しもいいところ。
ご隠居の食べるそばの枚数と、ケチを付ける中身は、こう。
- 初日…半分(価格。半分で16文はなかろう)
- 2日目…1枚(そばちょこが欠けている)
- 3日目…2枚(皿が汚れている)
- 4日目…4枚(つゆがあったまっている)
- 5日目…8枚(皿の種類が統一されていないとは無粋)
- 6日目…16枚(省略)
- 7日目…32枚(省略)
- 8日目…64枚(32枚ずつ持ってくるなんて無粋)
- 9日目…サゲ
毎日「ご主人、そば屋をやって何年になる」という質問と、主人の律儀な回答が入る。
そして、毎日倍に増えていく枚数に、しばらくは関係者の誰も疑問に思わない。
16枚になったら多すぎるが、その日はうまいこと省略し、脱線が入る。
海外の人には嫌がられますけど、そばはすすりたいですよねと実演の扇辰師。拍手の催促も。
そして噺にスッと戻る。
毎日毎日小言を言われ、半狂乱の主人。それでも職人と統一した皿を揃えて準備する。
最終日は見物人も多数来て、大騒ぎ。
他の客も全員断って隠居に対応する。
実によくできた噺に進化している。
きっとNHK演芸図鑑か、落語研究会に出ると思うのでお楽しみに。
続いて権之助師。
ちょっと扇辰師と被りますけどと断って、幻の二ツ目昇進披露について。
掛かっちゃったのは仕方ないですけどと扇兆さんにフォローも入れて。
二ツ目の披露目をここでやるのは、初の試みだったんですよ。
今までも前座はレギュラーで入ってもらってましたけど、披露目やったことはありません。
ただこの会の世話人は扇辰師と近いですから、せっかくならということになりまして。
ただ、披露目やるとなると人数が増えます。これ(¥マーク)がね。
ご住職と会食の際、酔いがある程度たまったところで思い切って頼んでみました。そうしたら二つ返事で。
今日は高座に師匠と弟子に並んでいただいて。私はそこの位置に立って司会をするつもりだったんです。マイクの位置にはバミリがあります。
これ、昔だったらたとえインフルでも、高座に出てたと思います。
今は絶対ダメですし、私もイヤですけどね。お客さんにご迷惑掛けますけど、昔の楽屋は平気でした。
私は、真打昇進直前にインフルエンザになりました。これ、寄席でもらったんですよ。
正月ですから最初に出てきて芸を見せる人(あれなんて言うんですかね、ということだったが松づくしかな)と、真打の間の二ツ目枠ですよ。
なんでも前後の人が両方インフルだったそうで。後で電話かかってきました。
インフル感染させた人の名前は出してたけど伏せておきます。
私、二ツ目の最後にさがみはら出たかったんですよ。
ずっと出てなかったんですね。ずっと申し込んでると、抽選で弾かれますから。
二ツ目の最後に戴冠して真打になったらカッコいいじゃないですか。でもインフルで断念せざるを得ませんでした。
まあ、仲間からは、落ちるより出られないほうが良かったんじゃないかと言われましたけど。
火事の話。
師匠・権太楼の紫綬褒章が内定していた頃。ある夜暇だった権之助(ほたる)。
TSUTAYAで落語のCD借りてこようと出かける(勉強熱心ですね)。
そうしたら、途中の家が燃えている。
町内の人と声を掛け合い、消火活動。ほたるさんは消化器のある場所を知っていたので噴射する。一度やってみたかった。
だが火は熱く、近寄れないのでそれほど効果はない。
次にバケツリレーで消火活動に励むが、まるで効果なし。
そうこうしているうちに消防車が来たのでひと安心。
もういいかなと思って、TSUTAYAに行く。帰りに再度事故現場に戻ると、先ほど顔を合わせた町内のおばさんに「あんたどこに行ってたのよ! おまわりさん、この人です」。
てっきり褒められるんだと思ったら、放火犯に疑われていたのだった。
放火犯は、自分で火を付けたあと消火活動に従事し、そしていなくなるというパターンを採るそうで。付けてはいないが、まさにそのパターン。
写真も撮られていた。撮影者のほうが怪しいんじゃないですかと反論したら、撮ったのは警察関係者。必ず現場ではやじ馬の写真を撮るのだ。
おかげで荷物の中身まで全部チェックされて追及された。変なビデオとか借りてなくてよかった。
ただ落語のCDも、借りたものによっては問題かもしれない。三遊亭えんしょうの火事息子なんて出てきた日には。
無実だが、事件になったら師匠の紫綬褒章が取り消されてしまうのでアセったほたるさん。
ちなみにおかみさんには、「ほたる、あんた痴漢なんかしちゃダメよ」と言われていた。
長いマクラから、長講の幾代餅へ。
仲入り後のマクラによると、二ツ目昇進の扇兆さんのために、めでたい噺をと思って用意したのだそうだ。
薮井竹庵先生が非常にいい味だった。
ちょっと声を変えて、重々しくしゃべるのだが、かえってユーモラス。
急にこの人が立ち上がる所作があった。演者が、正座がつらくなったのに違いないと思ったが、でも効果的だった。
幾代餅は大変いい噺。だが演者が純愛ラブストーリーに深入りすると、白けるかもしれない。
権之助師、入り込む度合いが絶妙だった。
幾代太夫に、なぜ搗米屋の職人と一緒になるのかという説明を語らせたりはしない。
主人公清造も、お嫁さんにしてくんなますかと問われて、ウソはいけない、来年また来ますからとマジメに答えるのだった。
熱演で、2時開演なのに早くも3時半になっていた。ここで終わってもいいぐらいの。
続きます。