用賀・眞福寺落語会4(下・権之助ワンマンショーと入船亭扇辰「ねずみ」)

すでに閉演予定時刻まで30分ほどだが、時間は気にしないみたい。
結局30分ほどオーバーしていた。
予定していた披露目がなくなったのを、なんとか取り返そうという努力に脱帽です。

仲入り休憩時に、権之助師が譜面とギターケースを持ってくる。
そして休憩後二度目の高座に上がる。
もうそんなに長いことやりませんので。
せっかくなので、一席やってギターの演奏でお楽しみいただこうと思います。
これが披露目の代わりということ。

まず高座は壺算。
導入部が非常にスピーディで、お前誰に向かって言ってんだのくだりは省略している。
もともとこういう型なのか、時間に配慮しているのか。
正直なところ、壺算のクスグリはもうみな飽きている。まけてくれたら町内の壺叩っ壊して囘るとか。
なので権之助師のギャグ少なめの一席、とてもいい。
弟分が怒らないのもいい。
店主は勝手に燃え上がる。
そろばんを大きなものに替えて(扇子を替える)やり直すとか。
サゲは最近多い、3円も壺も全部返してくれるタイプ。

そしてギターを取り出す。
本物の音楽家だったら全部楽器お世話してもらえるんですが、前座さんにさせるわけにもいきませんしと呟きつつ。
立って演奏かと思いきや、譜面を高座の前に起き、座布団に座って演奏。
「ペペ坂崎です」
かぐや姫の歌をコミックソングにして熱唱。
22才の別れをイントロだけ引き伸ばすとか、いきなり終わる妹よとか、いちいちオチがつく神田川とか。
神田川の際は、バイオリンの代わりですと、唇をベロベロ震わせる。
そして客にもやらせる。
さすがにこれを一緒にしてくれる客は少ないが、「やらないと扇辰師匠出ませんよ」

余芸があっていいですね。

トリは扇辰師。
ギターが出たときは、セッションでもあるのかと思ったら、それはなかったが。
権之助師のことを、偉いですねと。欠席を知って、すぐギター持ってきたんでしょ。
ギターケースね、あれ案外重いんですよ。中身はそうでもないですけど、運ぶの大変ですから。
私もそんなに長くはやりません。もう、このあと飲みに行く気満々ですから。

と言いつつ、トリネタのねずみ。
つい最近、コレクションから扇遊師のねずみを聴いていた。
兄弟弟子でも全然違うなあと。展開はまったく一緒なのに。
扇遊師のねずみは、甚五郎のファニーぶりがわかりやすく楽しい。
いっぽう扇辰師の甚五郎、根本は似ているけども極めてキャラを抑えている。面白いことである。
前半の一席、蕎麦の隠居を以前聴いた同じ日には、甚五郎ものの爆笑「竹の水仙」を聴いた。
あの噺の甚五郎と、ねずみの甚五郎は随分違う。
年齢が違うという解釈もできるだろうが、そういうことよりも、噺が違うので登場人物も違うということなんでしょう。

仙台にやってくる甚五郎、と言っても名前は冒頭では出ていない。
宿外れで宿屋・ねずみ屋の坊やにつかまる。
布団にくるまりたいなら先払いで、そして一人で行ってくれとずいぶんな坊や。
仙台一の宿屋、虎屋の向かいにある小さな小さなねずみ屋に着くと、亭主は腰が抜けていて、足をすすぐのも自分でせねばならない。
甚五郎は一切怒らない。といって、面白がっている描写もないのだが。
亭主に水を向けると、虎屋から追い出されて父子ふたりで宿をやっている身の上話が語られる。

竹の水仙と骨格が違うのは当たり前ではある。
ねずみでは宿泊費のカタに仕事をするわけではない。虎屋の横暴に義侠心に駆られ、ねずみを彫り上げてやるのだから。

ここまで、笑いらしい笑いが一切ないからすごい。こんなねずみを聴いたことがあったやら。
といって、いかにも人情噺という、しんみりした感じでもない。クスグリを徹底的に抜いていって作りました、という一席でもないのだ。
演者は力を込めず、あった話をストレートに語り込む。そこに、喜怒哀楽全部詰まっている。
一席目の蕎麦の隠居では顔芸もかなり使っていたが、ねずみはもう、本当にストレート。
ちなみに、この後もサゲまで似たようなもの。

最初に甚五郎作の動くねずみに気づくのは、近隣の村の衆。
ねずみを見せてもらった以上、泊まらないわけにはいかないが、かか様が希代の焼きもち焼き。
またおらドロップキックくらうだよと嘆いているが、ここで笑わせようという感じもない。
ねずみ目当てに客が押し寄せ、はばかりでいいから泊めてくれというくだりも、さらっとやる。

客はここまでくると、ああよかったなという心持ち。
悲惨な親子の状況を強調しすぎていたら、果たしてここに着地したかどうか。
とはいうものの、この語りの魅力、わかるようでいてすべてがわかるわけではない。
笑いとも泣きとも異なる感情が、噺を貫いている。

ねずみという噺、ここまでが主なんだろう。
虎屋が対抗手段として飯田丹下の虎を飾り、ねずみを止めてしまうが、これは岸柳島や庖丁に見られる、一瞬客をドキッとさせるためのパーツなのだ。

じっくり語るねずみはすばらしい一席でした。

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作成者: でっち定吉

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