新春番町寄席(下・立川談吉「田能久」)

司会の青空遊歩師匠は、2席目には高座返しもしていた。
ただ、美よしさんは座布団を返していったので、この仕事はなく、メクリだけ替える。

次回のお知らせ。通常隔月なのだが、変則日程で来月もあるそうだ。
トリは立川寸志さん。日付は忘れた。
今回は女流落語を挟んで連続3席だが、通常は女流の色物を間に挟んでいるのだと。
次回はパントマイムの人。昨年出て、通常ウケないのにやたらウケたので再度呼ぶのだと、落としながら褒めていた。

女流の色物さんを「女の子」と呼ぶ。令和の時代にはちょっとびっくりする。
そういえば、美人のしん華さんに代わって超美人の美よしさんが登場ですなんて煽っていた。
ルッキズム丸出しだ。
不愉快とは言わないが、困惑する。
立川流でない女流を呼んでいるのも、色物代わりなのか。それもなんだかモヤる。

困惑した私がルッキズムに基づく意見を付け加えるのもどうかと思うのだが、美よしさんは二ツ目になり、垢抜けていい感じの芸人になってました。

なお、無料の会ならではのマイナス面を感じたらどうしようと心配していた。6年前に、客にスタンディングオベーションをさせていたような。
だがマイナス極大ということはなかった。
会をやってるほうも、マンネリにならないよういろいろ工夫しているのだ。それは感心。

トリの談吉さんについて。談志家元最後の弟子です。
談吉さんは真打昇進が決まりましたのとのこと。
知らなかったが、芸歴17年だから不思議ではない。
マクラでお話があると思いますが、大きな拍手でお迎えください。

談吉さんは軽い感じで登場。

いっぱい入ってますね。無料の力はすごいですね。
私はもともと談志の弟子でした。
談志72歳のときの弟子ですので、上の弟子たちとは教え方が違っていました。
普通は道灌から教わるんですけど、私はインシュリンの打ち方です。

1月2日の立川流の新年会の席で、真打昇進を公にしていただきました。
早速なんですが、2月1日に内定記念の会を開催することになりました。
今日チケット売りますのでよろしければお願いします。
キャパが480なんですよ。そんなに埋まる芸人じゃありません。普段、そば屋の2階とか、カレー屋の厨房とかそんなところで、20から30人ぐらいの前でやってますから。
2階は閉めちゃいましょうかね。

どこで会やるのかは言わなかった。
調べたらとしま区民センターだ。昼間だから行けないことはないが、内定の会にしては3,000円は高い。
吉笑さんのように、真打昇進トライアルは受けないのだな。
立川流はなんとなくの総意で昇進することが増えてきた。
なのにあかね話の阿良川流は昇進試験をやっている。

今年は巳年で。ヘビは縁起がいいですね。
せっかくですからヘビの噺を。うわばみというやつですね。
まんが日本昔ばなしだと思ってください。

今年は誰か田能久やるだろうと思っていた。夏の医者は新春にはやりづらいが、誰かやってそう。
毎年恒例、3日のNHKでは、久々の登場笑福亭松喬師が「蛇含草」をやっていた。

田能久は、私の聴いたサンプルが、入船亭扇辰師であり、柳家蝠丸師である。ハードル高い。
だが、談吉さんの田能久は絶品だった。
もともと好きなほうの人ではあったが、なにせ数を聴いてない。ここまで上手い人だとは知らなかった。
ちょっと心配なことも。今回一番いい高座を聴いてしまい、今後はいくら聴いても届かないなんてこと、あくまでも一般論としてはあり得るのだが。

よかった要素の大部分は、その語り口。別にそれだけ、ということではないけども、語り口が素晴らしいといつまでも聴ける。
演者と噺との距離感が最適。
近づきすぎないが、神の視点で語るほど遠ざかりもしない。
非常に自然なのだ。
とはいえ不自然な語りがしっくりくる人もいるし、自然な語り口なのにつるんとして耳を通り抜けてしまう人もいるから、自然ならいいというものでもなく。
談吉さん自身は、もう少ししつこく語るほうが本来的には好きそう。だが、好きな語りよりも自然のほうに語り口を見出したのであろう。

基本的には単調な噺だが、しっかりドキドキハラハラさせて楽しませてくれる。
入れごとのギャグも必要だが、その際はごく軽く。
若手によくいるが、ベテランでも、入れごとのギャグを発するたびに醒めるということがあるものだ。
いっそ入れなきゃいいのになんて思うのだが、入れないとそれはそれで噺の単調さにいたたまれなかったりするのである。

客席が、実にいい感じに静かだった。もちろん、引き込まれているのである。
語りがずっと楽しいと、笑いが強調されていなくてもストレスにはならない。

普通は省略してしまいそうな、細かいストーリーが結構入る。これも味みたい。
抜いてもいい部分が、噺を立体的にしてくれている。
これも難しいと思う。抜いたら軽やかになるし、入れ過ぎたらもっちゃりする。でもしっかり入れて、しっかりふくらませる。
阿波徳島で素人芝居の田能久一座が結成され、そして話題になり、ついには峠二つ超えた伊予宇和島からまで呼ばれるというストーリーを、しっかり語って、そして飽きさせない。
大蛇の爺さんいわく、人間だったら喜んで食うが、狸だったら、たとえ人間の姿でも食うわけにはいかない。狸は仲間だから、食ったら評判落とすとか、ちゃんと語り切る。
説明としては別に必要ではないのだけども、でも語れば語るだけ、大蛇の内面が描かれていく。
その分、大蛇が弱点を打ち明けるのは非常に自然だった。ここを自然にすることを目論んでいるのだろうか。

当然、タバコのヤニと柿渋を使った大蛇退治も非常に詳しく、そして楽しいものだった。

満足の一席。真打昇進前後でまた聴きたい。

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作成者: でっち定吉

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