2023M-1グランプリ(下・ギャグの手数と狂気)

「勇退」という看板を下げつつ、誰にも自分で辞めたと思ってもらえてない立川志らく師匠。
ひと言、「クビになっちゃった」と言ってるほうがそれっぽいのに。別に恨み節を披露する必要まではないので。
いろいろ情報を整理すると、海原ともこを審査員に加えるため、志らくに審査員を辞めてもらったようである。
ともこはずっと審査員として声を掛けられていて、本人がついにウンと言ったため、必然的に誰かがこぼれることになったのだろう。きっと。
志らく審査はランジャタイとか、異常なコンビばかりピックアップするという評価だったが、そこはむしろ運営側に期待されていたと思うのだ。
そこが降板の遠因ではない。昨年あたりまともなことしか言わなくなったので、賞味期限が切れたと判断された。
そういうことではないかな。
噺家枠がなくなってしまったが、なきゃないで仕方ない。
お笑いの方でも活躍した歴史があり、なおかつ落語に来て人気大爆発という人でもいれば最適なのだが、そんな人はさすがにいない。

しかし、ぶっ飛んだコンビばかり愛するのは落語の影響だという志らく。まるでピンとこない。
私の中で、M-1観戦に落語から得た影響を直接的に感じるのは、「心地いいツッコミ」である。
昨日、カベポスターのネタをずっと聴いていた。やはりツッコミがとにかく心地いい。
ボディをしっかり形作るツッコミは、ストレートなネタ評価につながるのであった。
八っつぁんを軽くいなす隠居こそ、落語のボディだと思う。
漫才にも、同じボディを生み出すツッコミがいるのだ。

ヤフコメなど読んでいると、今年は水準は高かったのは確かだが、爆発的なコンビがいなかったという意見がそこそこ目についた。
あるいはそうかもしれない。
爆発的とは、つまり「狂気」ではないかと思う。

そういう意味だと、優勝の令和ロマンにも狂気は感じない。
一見狂気っぽいけども、その実中身は、ひたすら知で固めていったネタだ。
もみあげとヒゲがつながった領域いじりなど、ツカミからしてそれ。
本当に、大学お笑いサークルの笑いはみんなこういう高い知性でできたネタになってしまった。
コントのほうで活躍するコットンもそう。ひたすらに知を重ねていく点がよく似ている。
いや、笑いにおいて賢いほうが絶対にいいとは思う。嘆いているのではない。
ただ、インテリジェンスに狂気が加われば最強だとも思うのだった。
知を重ねた結果生まれる狂気というものは、ない気がする。
逆に、もともとおかしい奴が、狂気の外側に知性を貼り付けてくことで、すごいものが生まれるかも。

比べると、ヤーレンズはかなり狂気に満ちている。
だがなにが足りないのか考える。
足りないのではなく、ギャグの手数が多すぎるのだろうな。
ギャグが多すぎて、面白さを噛みしめる前に次のギャグが来てしまう。
ギャグは本当に難しい。落語のごく軽いクスグリなら、力を入れなければわりとたくさん入る。
面白ければ面白いほど、厳選する必要があるのだ。
そういう意味ではもったいなかった。
ヤーレンズはもともと世界観自体で度肝を抜いているわけで、そうなるとギャグを主目的にすることで客に混乱が生じるのだ。

ギャグは必ず反作用をもたらす。
「笑わせる」という作為が、仇となることもある。
私も仕事でやってる「スカッと」系のリライトでこれを痛感している。
強いギャグを加えすぎることで、元の原稿を悪くしてしまうこともあるのだ。
逆に、元のギャグの交通整理をすることで質が上がったり。

息子が有馬記念のあとの最終レースまで見ていたため、敗者復活は後半しか見られなかったのだが、わりといいところを拾えたようである。
ハゲネタのシシガシラ、好きですけどね。
トレンディエンジェルから、さらにツルッパゲの先輩ギャロップも活躍の中で、よくハゲの隙間があるものだ。
敗者復活から勝ち上がって披露した、ハゲのコンプライアンスも面白かった。
それよりも、オズワルドがめちゃくちゃ面白かったのにアッサリ負けて衝撃。
もう世間に飽きられてるのだろうか。
あれこそ、骨太の世界観に、狂気と厳選されたギャグを散りばめていく、究極の舞台ではないのか。
まあ、どこにも向かないクレーム。

最近、落語でも他の演芸でも、脳ミソの一部で私のものとは違う感性が活動しているのを感じている。
ここに響いたのが、フースーヤ。
でっち定吉本体は別に好まないけど、脳の一部で活動する、他人の感性を集めた部位が面白がっているのを感じた。
これはハゲネタに勝つなと思ったのだが、意外とハゲも強かった。

まあ、スポーツ的な観戦が流行りすぎているのは気にはなるが、M-1はやっぱり面白い。
私の落語脳も大いに刺激をもらい、喜んでいます。

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作成者: でっち定吉

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