神田連雀亭昼席2(上・春風亭一花「のめる」)

新しいブログになったのに、さっそく朝の更新をサボっております。
落語との関連が薄い、書きかけのネタなら二三あるけども。
でも、門出ですからね。どうせなら、落語の記事で始めたいわけです。

門出の日曜日は神田連雀亭へ。
この日はなかなかいいメンバーの昼席へ。4人とも、所属団体が違う。
現在19人しか入れない連雀亭、入れないと嫌なので早めに。人気の一花さんがいるし。
まだワンコインをやっている時間に入口を覗いてみると、すでにお客さんが二人並んでいる。これなら大丈夫。食事してまた戻る。
別に札止めにはならなかった。

行ってみると、いつものテケツに撮影スタッフがいて、いろいろ機器をいじっている。
なんと、今日は有料生配信があるのだ。産経新聞社の。3K辰文舎ではなくて。
連雀亭のブログにはそんなこと書いてなかったので知らない。朝のワンコインから配信してるんだそうで。
配信してようがしてなかろうが、私のほうはいつもと一緒だ。
いつものネタ帳に、ひとつ所属団体も付け加えてみるか。

のめる 一花 落語協会
動物園 優々 フリー
ヤマトタケル 竹千代 落語芸術協会
甲府い 好吉 五代目圓楽一門会

 

トリの三遊亭好吉さんが前説を務め、いつもの諸注意に加えて配信のお断り。

トップバッターは春風亭一花さん。
女流落語家で私が一番好きな人。女流でくくらなくてもかなり好き。
その割には数を聴いているわけではない。これからどんどん聴いていきます。

配信のお客さんに語り掛け、噛んでしまうがご愛敬。
癖のマクラを振って、「のめる」。なんだか最近よく聴くな。
突然流行りそうな噺にも思えないけど、結構好き。

1年前、弟弟子で売出し中の朝枝さんから二ツ目披露目の席で聴いたが、一花さんのものも基本は同じ。師匠から来ているのか。
八っつぁんが隠居を訪ねてくるところからおはなしの始まりである。

一花さんは、とにかく語りが心地いい。
それに、男3人が出てくる噺を掛けて、違和感がゼロ。これは結構すごいこと。
達者な人だって、違和感ゼロではなかなか聴けない。
地の語りと違う、ちょっとだけダミ声の語りに変えて喋るためもあるだろう。もちろんそれだけじゃない。
会話のテンポについて、目立ちはしないが、さりげなくギアを変えていくあたりもある。
そして、演者と噺の間に適切な距離があるのがいいのだろう。

一花さんが夜な夜な物語を語って聞かせれば、王様も首を刎ねたりできない。落語界のシェエラザード。

一花さんを聴いていて、どんどんくつろいでくるのを自覚する。
爆笑落語ではないが、最後までクスクスし続けることにより、終わるころには莫大な貯金ができる。

この八っつぁん、隠居から粗茶を勧められた段階ですでに「一杯飲める」と言っている。ポーズ付き。
ちなみにポーズの所作が綺麗。

朝枝さんのものと同様、非常に呑み込みの悪い八っつぁん。
隠居が一生懸命半公を嵌めようと知恵を絞ってくれているのに、まるで伝わらない。
微妙に違っているのは、一花さんの八っつぁんは、隠居の話のフレーズひとつずつに、間違って反応してしまうこと。
たとえ話がわからないので、大根を100本送ってきてくれる架空のおじさん像を作り上げられないのである。
賢い半公だが、八っつぁんの話はなにしろ支離滅裂で、本当になにを言っているのかわからない。一緒に解析してやっているうちに、すぐ仕掛けがバレる。

糠まで被って半公を騙しにいったのに、あべこべに巻き上げられる八っつぁん。
客としては、ポーズ付きの「一杯飲める」が出るぞ出るぞと思っていて、やっぱり出る部分がたまらない。
騙しの手口は伊勢屋の婚礼ではなくて、鰻屋の酒飲み放題だった。
なるほど、呼ばれていない婚礼と違って、こちらのほうが我がこととして「一杯飲める」につながりやすい。

こういう噺は、人間関係が浮き上がってくると楽しいものだ。友情が感じられたりとか。
だが一花さんのもの、さらに先を行っている気がする。3人の登場人物皆がみな、実に楽しそうなのだ。

「物置がどうした」「100人乗っても大丈夫」とか、「詰将棋考えたの、誰? ひふみ?」などの楽しいギャグが散りばめられているが、なにしろ全体構造が楽しいもので、クスグリは別にどうでもいい感じ。
入れないほうがいいなんていうのではないが、入れなくても楽しさはほぼ変わらないだろう。

二ツ目になって3年なのに、行間に楽しさを漂わせる芸だ。ただものではない。

続きます。

作成者: でっち定吉

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