神田連雀亭昼席2(中・桂竹千代「ヤマトタケル」)

雀々師の弟子、桂優々さんは先日、師匠の会で初めて聴いた。転失気なので寝てしまったけど。
「一花の出番が済んだので帰りたい人もいるかもしれませんが、私にもお付き合い願います」

声を張る人。そして大きい。
先日連雀亭ワンコインに出た際、一生懸命やったのだがサゲ間際でお客さんが時計を見たので傷ついていると。
私も、よく時計見ている。退屈したというわけではなく、何分ぐらいやってるかなと気になることがあるのだ。
でも、演者に見つからないようにこっそり見ているつもり。やっぱり気になるよな。

大阪・新歌舞伎座で師匠の独演会のトップバッターを務めさせてもらえることになった。
25分のつもりで準備していたら、なんと時間は5分だったという。必死で長い噺を縮めたそうで。
特になんてことない内容だが、勢いでマクラを楽しくするのは才能だ。

上方落語では毎度おなじみの「動物園」。
おなじみだが、見台を使わない演目なので、連雀亭ではちょうどいいとはいえる。
芸協の笑福亭希光さんから聴いたことがあるのと、よく似ている。出どころは一緒みたい。
子供にもらったパンを食う際、口が開いてないので、素早く毛皮を脱いで口に入れるという。
移動動物園の園長の名前は「前田」。優々さんの大師匠である、枝雀の本名から来ているのだと思う。
優々さんならではの武器が、派手な動き。虎のしぐさをしながら横を向いてしまう。
初回ではわからなかった、優々さんの真価が見られてよかったです。

3人目は桂竹千代さん。
昨年8月に二度聴いて以来、また間が開いた。
配信の入っているこの日は、古代史落語を掛けるんじゃないだろうか。と思ったらその通り。
竹千代さんの古代史落語は売り物だが、私は一度しか聴いたことがない。普通の古典落語も楽しく面白い人だ。
でもこれから、どんどん古代史落語に注力していくのではないか。
真打になった際には、寄席から期待される役割があるわけである。将来は、ほぼ古代史落語になるのでは。

ぶっきらぼうに出てきて、私は古代史が専門なもので、これを落語にしてますと自己紹介。
そして袂から、自著「落語DE古事記」を取り出す。配信をご覧の方も、よかったら楽天やamazonでポチっと買ってくださいだって。
ヤマトタケルの噺をしますと竹千代さん。

たまたま今、池澤夏樹の「ワカタケル」という小説を読んでいる。
この、雄略天皇の一人称で語られる古代史小説の中に、稗田阿礼の語るヤマトタケルのエピソードが入っており、そちらを読んだばかりだったのは幸い。
竹千代さんの語る内容がよくわかった。
もっとも、古代史を素材に日常の話題も盛り込む地噺だから、ヤマトタケルのエピソードについていけなくても全然構わないけれど。

双子の兄をバラバラにしてしまう、「サイコパスな」ヤマトタケルの戦いの数々を語りつつ、地のギャグを差し込む。
師匠・竹丸のエピソードが入っていた。師匠竹丸は鹿児島なので、熊襲ですと。
竹千代さんは、弟弟子の笹丸さんと異なり、師匠にハマっていないのだと、カデンツァのYou Tubeで喋っていた気がする。
そういえば、竹千代さんの語る師匠エピソードを初めて聴いた。

熊襲と出雲を制圧し、東征するヤマトタケル。
三浦半島から房総半島へ渡る際、海が荒れて妻が生贄として飛び込むあたりから、千葉県の地名がいかに神話に基づいてできているかを語り込む。木更津、袖ケ浦、船橋などなど。
ここは客に大ウケであった。
そして、たまにウソの地名エピソードも放り込む。
足の上に、犬にウンコをされたヤマトタケルが「ばっちい」と言ったので千葉だとか。

地噺は非常に難しい。客への接し方が特に。
しつこく客に迫り過ぎると引いてしまう。これでしくじる人が多い。
だからといってあっさりやると、ストーリーと漫談を自在に行き来する構造自体が損なわれる。
この点、客への迫り方が絶妙な竹千代さん。
ちなみにヤマトタケルの名から自分の芸名も引いて、竹千代なので真打になったら家康ですと語る。
前座のときは「竹のこ」。すくすく成長するようにという願いを込めた名前だが、ひとに笑われた。
笑った相手が、師匠と親交のある「コロッケ」。あんたに言われたくないよ。

楽しい一席。
ところで、3人聴いて実に満足なのだが、いつになくくたびれた私。
そんなに疲れるような高座ではなかったのに、不思議。
カメラが入っていて、ちょっと緊張したのかもしれない。

トリの好吉さんに続きます

 

作成者: でっち定吉

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