新作の巨人・三遊亭円丈追悼

三遊亭円丈師が亡くなった。
晩年の台本を置いた高座は、楽しくはあったが痛々しいところもあった。
私はもう、師の高座は聴けないものと思っていた気がする。川柳師と同様に。
いっぽうでは、ふう丈、わん丈の披露目に並ぶだろうとも思っていたのだが。まだまだ先のこと。
師の「噺家と万歩計」は、師匠に死なれると移籍を余儀なくされる二ツ目の心情を描いた噺。二人の末弟の存在あっての噺だと思うが、披露目には間に合わなかった。

ツイッターを見てると「カクレンジャーの講釈師」とか、ゲームなどで師を偲んでいる人も目立つ。
新作落語の神さまみたいな人をそんなことで! 一瞬イラっと来たが、よく考えればそれだけ活躍が多岐にわたっていたということでもある。
この点、仁鶴師と同じ。
「カコカケケコカケ掛布さん」なら、私にだって思い出のひとつ。

私にとっては、子供のころからテレビで楽しい新作落語を聴かせてくれた人。
そして、大人になって落語を再発見する中で、円丈チルドレンの活躍によりその偉大さを再認識していった。

ちなみに、本家とチルドレンとで、新作落語の作り方がまったく違う点がある。
チルドレンや柳家小ゑん師の落語は、古典落語の直接的な影響がとても強い。落語を知らずに円丈師に入門した白鳥師ですら。
新作落語家たちは、古典落語が好きで好きで仕方のない人ばかり。
古典落語の魅力を再発見するため、角度を変えて新作を語ってるんじゃないかと思うことすらある。それはそれ。

なのに圓生のもとで、ちゃんと古典落語を極めた円丈師ときたら。
新作のために古典で基礎を固めるという、用意周到な計画を立てていたのに、しかし。
円丈師は、あたかも古典落語を憎むがごとく、古典の影響の薄いフィールドへ出ていった。
結局は、それが新作落語を古典と違う存在として屹立させることにつながったのである。旧来のファンから嫌がられたとしても。

円丈チルドレンは、円丈師を父に、古典落語を母に持っているハーフだ。
だから、古典落語好きにも違和感を持たれない。私もまた、そんな落語が大好きだ。
だが、落語に新しい血を入れるためには、円丈師のような尖った存在が間違いなく必要だった。

落語が生き永らえていくためには、第二の円丈が必要だ。新しい血を入れてくれる存在が。
だが、今後こういった存在が現れるのは奇跡に近い。
鬼才・立川吉笑さんも、新しいことを始めようといろいろ考えてみるが、思いついたアイディア、調べてみると全部円丈師が手掛けてしまっているのだという。
なるほどこれではみな、ハーフとして生きていくしかないかもしれない。

新作のアイディアだけすごい人はときどき現れるのだが、落語になっていないこともある。
古典落語が存在しないフィールドに出ていくのはすごいが、そこを切り開くコンパスも併せて開発しないと、どうにもならない。
古典のエッセンスも活かせていないヘンな新作は、せっかくのアイディアごと消滅していくしかない。

古典落語というのは、恐ろしく強いものである。
強い強い古典落語に匹敵する力を持った新作、そう簡単にはできない。
円丈師は、それ以前の新作落語を駆逐してしまったが、そういう新作には、古典に比する力がなかったということだ。

円丈落語は、古典落語と異なるフィールドに出ていき、古典のエッセンスを使わずに噺を成り立たせている。
でも、どこまで行ってもしっかり落語なのである。
小説やら映画やらの影響は強いのだろう。だが、なにからコアアイディアを引っ張ってきたにしても、ちゃんと落語になっている。しかも既存のフィールドと違う分野で。

円丈師の落語はそして、直接的な笑いを求めていない。人情噺も多い。
笑いを求めていないからといって、面白くないわけではない。しかし笑いのためのギャグには走らず、世界を構築するほうを優先する。
直接的な笑いよりも、人の感情を揺さぶることを狙っている。そのほうが、実は笑いの総量も多い。
揺さぶられた人は、戸惑って着地点を探す。既存の落語と異なる着地点が用意されていて、自分でも想像しない地点に着地すると激しい感動を覚える。

円丈チルドレンはみな独自の道を見つけている。
だが、円丈師の切り開いた道を継ぐ人は一人もいない。それでいいのだと思うけども。

亡くなったばかりの人について失礼なのは承知だが、名前はどうなるだろう。
わん丈さんが真打のときに名乗ったら、なんて勝手なことを思うのだが、でも新作派のイメージじゃないな。
やはり、白鳥師が4代目になるべきか。白鳥師がならないなら、天どん師。

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 襲ぐのは、やっぱ『天どん』師ですかね。次世代小三治VS円丈、見たいものです。

    1. 貞吉さんは天どん推しですか。
      ということは、最初から円丈襲名を前提にして、天どんで真打に上がったと。

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