亀戸梅屋敷寄席36(下・三遊亭兼好「茶の湯」)

萬橘師は、マクラ同様本編「堪忍袋」も爆笑。
八っつぁんとかみさんの喧嘩に、大家が仲裁に入る。
八っつぁんは握りこぶしで喧嘩に挑んでいるが、かみさんが両手に金づちとノコギリ持っていた。

その後のストーリーは竜楽版にほぼ忠実なのだが、細かい部分がとにかく面白い。
仕上がったクスグリはもちろん面白いのだが、師の口調だけでも爆笑。
手ぬぐいを出してきて、堪忍袋はアッという間に縫い上がる。めちゃくちゃ早い。
なぜか兼好師になって、円楽を奪われたと叫ぶ八っつぁん。
兼好師が圓生になった暁には、逆バージョンがありそう。
大盛り上がりで退場。

トリは兼好師。
やりにくいなんてことは全然なさそうな余裕の感じ。
兼好師だけ、明けましておめでとうございますと挨拶。もう23日だから落語界も正月ではないが、けじめ。
例によって皇室をいじる。
コロナと地震で開かれなかった一般参賀に、6万人が押し寄せた。あちらも札止め。
あの人たちは芸を見せるわけでもないし、服に見どころがあるわけでもない。あの小さい帽子はどうして落ちないんだろうと不思議はあるが。
それでも6万人も集まるから羨ましい。
天皇陛下に、襲名披露の口上に来ていただいたらどうだろう。
似てるモノマネ入りで、「七代目円楽襲名おめでとう。ただ、私は126代目です」。

我が家はどちらかというと秋篠宮家に似ています。
といっても、娘の彼氏がろくなやつじゃないというぐらいですが。

萬橘師であれだけ笑わせられたのに、まだ追い打ち。
でも、不思議なことにまるで疲れない。
後半の二人とも、爆笑なのに意外と穏やかな笑いだということがわかる。
今後秘訣に迫ってみたいのだが、迫れるかな。疲れた人もいたろうしな。

茶道のマクラを振っていたが、なんだったか。
ともかく、茶の湯をやることはわかる。
兼好師の茶の湯、調べても情報が少ない。わりと新しめのネタなのかも。
私は弟子の好二郎さんから先に聴いている。ちなみに、師匠の茶の湯とは大きく違っていた。
導入部が似ている(定吉が近所を散歩している)かなと思ったが、でも師匠の茶の湯には近所になにもない、蔵前に帰りたいという嘆きは入っていないからやはり違う。

昔の根岸を最初に描写。もちろんなにか入るところ。
「今は三平アニキが住んでる治安の悪いところです」
三平アニキが住んでる、と治安が悪い、は別の情報のはずだが、三平がいるから治安が悪いと聞こえるという、かなり高度ないじり(そうかな)。

「長さに効果のない三大噺」というものを考えてみた。へっつい幽霊(若旦那の出るもの)、蒟蒻問答と茶の湯ではないかと。
しかし兼好師のものは最高だった。時間はマクラ含めて35分ぐらいか。
またしても、非常に創作力に長けている。私はこういう古典をラジオ焼きと称している。

根岸の隠居所の近所では、三味線や琴のお稽古をしている。大旦那も(特に隠居とは呼んでなかった気がする)やりましょうよ。
立派なお茶室があるから茶の湯をしましょう。蔵前の若旦那もやってます。
大旦那は尻込みするが、定吉が押しまくる。子供にできて親にできないなんてことはあり得ません。
押されて始める大旦那。

二人でお茶室に入る。にじり口が小さいので、前に住んでる人が小さかったんだろうなとボケる大旦那。今度広げてもらおうと。
「風流だなあ」が出るたび客が安心してそこで笑う。

椋の皮を入れる際、「洗濯に使うあれか」と大旦那。ここで地の説明が入らないものを初めて聴いた。とても軽やか。
デタラメ茶の湯には意外と早く作法ができた。
大旦那がサイレントお点前をしてみせるのだが、目線と作法で落語の客にはすべて伝わるのであった。

おむつを手離せなくなってからは、さすがにセリフではできないので時間経過を地のセリフで語る。
羊羹泥棒に対抗して利休饅頭を作るのだが、この際最初から油を混ぜていたのが斬新。
芋を練って黒蜜を掛け、そこにとぼし油を流し込む。臭いがついたので鬢付け油まで入れちゃう。

さすがに人が来なくなったので、三軒長屋から呼んでくることになる。
ただしダレ場になる危険もいっぱい。抜く人も多いが、兼好師は序盤から退屈するシーンもなく大丈夫。
三軒長屋は隣町にあって、まだ茶の湯の評判が伝わってないので呼ぶことにするんだそうだ。
豆腐屋は日ごろ物知りなので評判を気にして引っ越そうとする。
カシラは面白い。カシラ自身は知らなきゃ訊けばいいと思っていたのだが、先祖代々恥をかいたことのない一族なので、茶の湯を知らないということはできないんだそうだ。
手習いの師匠は、元さむらいなのでまるで知らないわけではない。ただ、「お流儀は」と言われたら返答できないのだと。
3人相談し、もしお流儀はと訊かれたら、談笑を続けて「無視」することにする。
それでもしつこく訊かれたら、ぶん殴って逃げて、それから引っ越しでも遅くない。

ここからサゲにつながる編集も画期的だった。
一般的にはこのくだりで笑わせておいて、最後に知人がやってきて「また茶の湯か」のサゲになる。
だが三軒長屋の住人(たぶん豆腐屋)に、このサゲを言わせていた。ムダがなくてとてもいい。

いや。トリまで大満足。五代目圓楽一門会のトップクラスは、今本当にすごいね。
ここまで高い満足が続くと、二ツ目枠の好好さんの高座にも意味があったのだと思えてきた。
好志朗さんみたいな人をあそこに入れたらもったいないし、あとが引き立たない。

次ここに来るのは襲名披露ですね。

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作成者: でっち定吉

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