米團治喬太郎よこはま落語会2 その5(桂米團治「胴乱の幸助」)

耐え忍ぶ平太郎だが、浪人も最後やりすぎた。
痰唾を吐いていく。そしてこのあたりどころが悪かった。紋服の紋の部分である。
おのれ殿から拝領した紋に。
平太郎、ちょうど十両で売ってもらおうと思っていた業物を手にしたままだった。これで黒川を追いかけ、背中から一刀両断。
まあ、斬れる斬れる。

黒川を亀戸の銘菓みたいに三角に切り結んでしまう。
亀戸のなんと言ったのか聴きとれなかった(音響のせい)。
喬太郎師、ここだけどうかと思うんですが原作に書いてあるんですよと。

平太郎はお咎めなし。
これだけの噺なのだが、実にスリリングであった。
この飯島平太郎は「お露新三郎」のお露の父。
この発端から、牡丹灯籠の因縁が始まるのである。
「お札はがし」だったら、これからの季節にそこそこ聴くところ。
この発端「本郷刀屋」は、まだ全然オカルト要素はない。

ちなみに、チンピラ浪人黒川の声の張り上げ方に、記憶の蓋が開いた。
シリアスなシーンなのに、チンピラであること自体に笑い要素がある。客は笑うべきシーンではないと思ってる(これはその通り)から笑わないが、演者だけはどうやら楽しんでいるらしい。
同じく圓朝もの「仏壇叩き」(名人長二)でもって、坂倉屋がこんな声を上げていた。
坂倉屋は大家の商人なのに、仏壇の値を聞いてこんな声を出す。同じく緊迫シーンで、演者の楽しみによるチンピラ口調だけが鳴り響くのであった。
きっと、劇団キョータローの同じ役者が担当しているのだ。
喬太郎師自身は、面白口調でシリアスな噺を語ることを楽しんでいるのではないか。

トリは米團治師。
東西の交流が盛んな中ですが、上方でしかできない噺をしますと振って、胴乱の幸助。
上方のメディアからはよく流れてくるおなじみの噺である。米團治師のものも聴いたことがあった。
だが、現場で聴くのは初めてかも。
ただし、上方でしかできない噺を、かつて東京の噺家で聴いた。金太郎を襲名した山遊亭くま八さんから。
手打ちまでだったから東京でもできたが、その先は果たして存在するのだろうか? 佐原や川越へ船で向かうことはできても、浄瑠璃が存在するまい。

前半の架空の喧嘩と手打ち、後半のお半長の仲裁は、別個のエピソードである。
前半が実にスムーズで感服した。逆に言うなら、誰のものを聴いても引っかかることがあるということだ。
毎度おなじみ喜六と清八(それぞれ名前は出ない)の掛け合いから始まる。

「なにしてんねん」
「立ってんねん」
「立ってなにしとんねん」
「立って立ってんねん」

向こうから酒樽がころこんできたでと清八。
ここから清八の、長い長い、胴乱の幸助こと割木屋のおやっさんの紹介がなされる。
よくこの場面で思うのが、「話しとってもええけど、おやっさんもうすぐそこまで来よるで」という感想。私の感想が関西弁である必要はないのだが。
落語の嘘だといえば、そんなもの。だが米團治師、どこかのお店にいったんおやっさんを張り付けておいてから、長い説明を始める。
嘘がまったくなくて、自然である。
犬の仲裁エピソードも、おやっさんが歩き出したら、噺の中ではやめたっていいわけだ。

ようやくおやっさんがこちらに向かうのを見定めてから、相対喧嘩を開始。
約束と違い、デンボのあるほう潰されたので本気で怒る喜六。
無事、おやっさんの仲裁が入って飲ませてもらう。
喧嘩の原因をヒアリングされるが、喜六が内幕をバラしてしまう。幸いなんのこっちゃわからないが。
この際の、喜六のセリフもごく自然で。
噺の構造からすると、喜六はせっかくの機会を自爆させてしまう男。
少々アホとはいえ、与太郎じゃないのだ。そこまでアホだろうか?
でも、これが本当に、言わずにはおれない感じで。喜六はおやっさんに、「最初から言え」と迫られたので最初から全部話そうとしただけなのだ。
ここまですでに二つ、既存の噺の不自然になりかねない部分をクリアしてしまう。

今思った。
おやっさんは実のところ相対喧嘩だとうすうす気づいたが、それを認めてしまうと自分の顔が売れてきたことそのものを否定することになってしまいかねない。
なのでさっさとその場を立ち去る。そういう解釈はどうだろう。
演者がこの肚でやってるかもしれないとそう思った。
こんなこと書いてると、いずれ本当にこの解釈を客に見せてやる人も現れそう。それはちょっとな。

次に浄瑠璃の嫁いびり。
ここも一席めの七段目と似ていて、浄瑠璃もちゃんと愛している演者の姿が読み取れる。
お半長というのは落語好きにとっては結局、「胴乱の幸助」に出てくる浄瑠璃の演目、言ったら背景の小道具に過ぎない。普通にはそれでいい。
だが米團治師、たっぷり物語の背景を解説してくれる。
これだって、ここまでやらないとダメ、というものではなく、客の反応が鈍ければいつでも打ち切るのだろう。

もっとも私、ここで眠気に襲われて一瞬寝落ちしちゃったけども。
なのでせっかく話してもらったお半長については覚えていない。残念。

京都まで乗り込んで、無関係の帯屋に上がり込み、とうとうと嫁いびりが恥ずかしいと言ってきかせるおやっさん。
マジメな人が勘違いすると、とても面白い。

そんなわけで、トークまであって楽しい落語会でした。時間は当然のように30分以上オーバーしていた。

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