仲入りの幕が開くと両師匠マイク持って立ち姿。トークらしい。
「予定になかったんですが、おしゃべりしようということになりまして。こんなのはありませんか」
「そうですね。もともとよこはま落語会でトークコーナーやったことないですよ」
「喬太郎さんの高座、長いこと待ってましたらさみしくなりましてね。あなたの師匠は落語協会の会長になられて。文化功労者にもなられて」
「ええ、もう2年になりますね」
「東京の落語協会では、前任者が次を指名するんですか?」
「ええ。一応一般社団法人なので、後任の候補は前任者が決めますけど、毎年ある総会で決議はします。正式には総会で決まります」
「前は市馬さんですね。勇退なさったんですか」
「定款で任期は10年までになってるんです。なので終わることは決まってました。以前は10何年もやっていたんですが」
「上方落語協会のほうでは、このたび選挙がありまして」
「はい」
「もともと文枝師が長年会長をしまして、繁昌亭と喜楽館も作りましたが、思わぬことで辞めまして」
「あの、私ときどき日本語わからなくなるんですけど。なにをおっしゃってるのか」
「とにかく後を仁智師が引き継ぎまして。ところが繁昌亭がオープンして20周年ということで、文枝師がロビー活動を始められまして。前回は接戦でした。そして今回も文枝師の名前が上がりまして」
「ええ」
「上方落語協会ではですね、入門したばかりの人も、平等に1票持ってます。それで選挙するんです。選挙管理委員会から本物を借りてきまして」
「え、本物使うんですか?」
「繁昌亭で、非公開で実施します。私は公開せえ言うてるんですが。ただし、開票は黒板に正の字を書いていきます。盛り上がりましたよ。いったんは、文枝師が抜け出したんです。ですが仁智師が猛烈に追い上げて、逆転したんです」
「ははあ」
「正蔵さんもこないだお会いしたとき、『次はいよいよ私です』っておっしゃってて」
「あの、私耳が聞こえないんですが」
「でもさん喬師になって。私それ以来、なんだか正蔵さんと顔を合わせづらいんです」
「今聞いた私も顔合わせづらいです!」
「まあ、また副会長のようで」
「ところで米團治にいさんは?」
「私は文枝時代も、仁智時代も副会長です。政権が変わっても居続けてます。永遠の副会長です」
「はい」
「会長の汗を拭く会長です。私最近、大阪に居づらくて。こっちに来ると気が楽ですわ」
スリリングなトークでした。
要は米團治師が、選挙の内幕を語りたかっただけみたい。
そろそろ東京の落語協会も、会長再任の時期である。いろいろあるかもしれないが、それはさすがに語らない。
南光師の協会復帰を語ってもいいのだけど。
さん喬師も、少なくとももう1期2年はやるんでしょうね。その後でようやく正蔵師か。
仮に正蔵師が飛ばされることになったとしたら、それは海老名の大おかみが亡くなった力学かもしれない。
私は、喬太郎師ともども常任理事を務める、たい平師がいいと思ってるんですけどね。寄席にあんまり出てないのはネックだが。
後半は喬太郎師から登場。
さすがにもうマクラはいらない。
お武家が本郷の刀屋を訪れ、業物を探している。
お武家の名は飯島平太郎。
銘がないものの、業物ですよと主人。
亭主、十両は高いの。七両二分にまからぬか。
七両二分って間男の相場じゃないか。
なんだっけ、これ。聴いたことはある気がする。
一瞬「普段の袴」かと思ったが、そもそもあれは道具屋。
もちろん、おせつ徳三郎の後半「刀屋」でないことは明らか。
徐々に、圓朝ものらしいなという気はしてきた。
どこで聴いたのかまったく思い出せないまま、噺は進む。あるいは速記本だったろうか。
外で待たせた中間に、ぶつかってきた黒川という浪人がいる。
元よりタカリ狙い。町内の鼻つまみものである。
黒川は中間を無礼討ちにするという。
謝る飯島。しかしカスハラの元祖みたいな黒川は執拗。
飯島を土下座にまで持っていく見事なクレーマー振り。
見物人が集まってきているので、さむらいとして土下座など屈辱の限りであるが、やむなく受け入れる。
見物人がまた、線の細そうなさむらいだねなどと余計な感想を言い合う。
緊迫したいいシーン。客席が静まり返っているのがたまらない。
別に、命のやりとりなどしているわけではない。当たり屋に対し、最も無難に済ませようと努力しているだけ。
明治の客は武士の誇りを知っている。現代の客は、ハラスメントを知っている。同じ噺が違うキーで楽しめるのだった。
私も聴きながら、カスハラ被害の経験をちょっと思い出したりなんかして。
喬太郎師は、楽屋で「さん喬師匠の弟子のくせに変な新作しやがって」といじめられた過去を振り返ったりしているのかしらなんて。これは勝手な想像。
続きます。