鈴本演芸場7 その6(柳家さん花「浮世床」)

仲入り休憩後、クイツキの小菊姐さんの後は、新真打の柳家さん花師。旧名小んぶ。
先日披露目を終えたばかりで、もうこんな深いところに顔付けされている。期待の新真打。
私は巡りあわせが悪く、二ツ目の末期になってから初めて遭遇した。その割には最近よく聴かせてもらっている。ハズレなし。

さん花師、あるとき楽屋で、立前座の古今亭まめ菊さんと話をしていた。まめ菊さんは来年二ツ目昇進。
アイドル好きのまめ菊さんが「アイドルはウンコしないんです」と力説する。
じゃあ、何出すのと訊くと、「マシュマロです」。
それを横で聞いていたダーク広和先生が、「ぼく、本当にできるよ」。
という、実にどうでもいい緩いマクラ。

演目は浮世床(太閤記だけ)だが、本当に面白かった。
さん花師の才能はすでに知っているつもりだったが、改めて驚いた。
細かい部分を取り上げて、どこがどうすごいという内容ではない。
とてつもない面白さだけを残して消えてしまった。衝撃だ。

細かい部分が非常に丁寧だったのは確か。だが、丁寧なのに重たくならないことのほうがすごい。
客の気持ちにことごとく沿うからだろうな。
本をつかえつかえ読むのは、最近手習いを始めたばかりだからだ。仲間うちで、隠居のところに手習いに行っているのはこの男だけ。
「敵に向かって」が読めないのは、「読んじゃいけない『つ』」のルールに気づかないから。それで「敵にむかついて」になる。
そんな説明があっても、全然野暮にならない。むしろリアリティが増す。

このような高座を務められるさん花師、今後もずっと寄席に呼ばれるだろう。
どんな出番でも軽くこなすだろうし、そうなるとじきにトリもある。

ヒザ前は入船亭扇辰師。
「喬太郎師匠の数少ない友達です」と挨拶して、さっさと道灌へ。
ネタの選択がまず見事。道灌ならどんなハイレベルの高座でも、決してトリの邪魔にならぬ。

扇辰師の道灌を聴くのは二度目だが、まあ、本当に素晴らしい。隠居と八っつぁんとのどうでもいいやりとり、いつまでも聴いていたいものな。
いい演奏なら、何度聴いても楽しい。それと一緒。
文蔵師のやる爆笑道灌とは風情が違う。骨格は一緒だが、扇辰師はとにかくクスグリに走らない。
極端な演出にも一切走らない。
落語を聴く、すべての細胞が目覚めそうな一席。

入門時に道灌を教えない一門の若手は、もし覚えそこなっていたら扇辰師から教わるといいんじゃないか。
芸協や円楽党にはいそうに思う。余計な心配ですがね。

ヒザの二楽師も久しぶり。
時間は短いようで、注文は2件。

「髪切りは失敗してもテープで貼るわけにいきません」のいつものネタ振りをし、途中でやめる二楽師。
「このいつものネタを振って、お客さんのマニア度を確かめるわけです。今日のお客さんは全然反応がありません。マニアばっかりですね」
というわけで、鈴本では珍しく、非日常運転に入る。
体が揺れている理由はもう、喋りません。知りたい人は、隣の詳しそうな方に訊いてください。
最近、寄席でどの師匠のヒザを務めているかというと、喬太郎、白鳥、彦いちといった人たち。なぜか新作派が多いです。
そうするともう、紙切りのお題に人間は出ません。動物とか、怪物とか、変な怪獣とかばっかりです。あと、流れてる豚とか。
ウルトラ怪獣もよく切ります。メトロン星人とか。
ですがね、先日エゴサーチしたらですね、「二楽は怪獣の注文が入ると、嬉しそうだ」って書いてあったんですよ。
心外です。ウルトラマンは私も好きですけど、相撲取りとか、藤娘だって切りたいんですよ。
二楽は怪獣好きだって噂が流れたみたいで、先日なにを勘違いしたのか、兄弟子の正楽に「ゼットン」って注文した人がいたんです。

そして本邦初の「色物が羽織を脱ぐ」ギャグで拍手をもらう。
意外とウケたんで、またやりますって。

トリの喬太郎師、文七元結についてはすでに触れた。
混雑しているのでゆっくり帰り仕度をする。
最後のほうに帰ろうとしたら、鈴本の若社長がいた。
若社長に、キャッシュレスを導入してくださいと頼んだりは、別にしない。

各ポジションに入った演者が、出番の役割を考え、しっかり後につないでいく、寄席の見本のような席。
そしてラスボスが全部回収する。
本当に楽しい鈴本でした。

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作成者: でっち定吉

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