池袋演芸場27 その5(三遊亭彩大「ウルトラマンじいちゃん」)

白熱の池袋・新作台本まつり。
仲入り後の2席だけ、ちょっと不満が。決して「悪い」わけじゃないです。
新作落語というのは創作も演出も実に難しい。普通にスキが生まれやすいなあと思った次第。

金原亭世之介「鋸雪」

仲入り後のクイツキは金原亭世之介師。

「わしも」族について。妻の買い物にまで付いていくわしも族の年寄り。
世之介師、スーパーでそういう男性を指し「わしも族だ」とおかみさんに教えるが「あんたもよ」。
そんなわしも族が、やたらとお茶のペットボトルを買い占めている。
なんでかと思ったら、10本買うと藤井聡太の手拭いがもらえるのだ。
なにが藤井聡太だ。勉強しないで将棋だけしてる奴だけじゃないか、字だって、前座のほうが上手いぞ。
そんな奴の手拭いもらってバカじゃないか。
とひとしきり悪態ついてから、「これがその手拭いなんですけど」。場内爆笑。

以前、参院選埼玉補選にやってきたアントニオ猪木を使い、同じパターンのネタを出していたのを思い出した。

世之介師は時代ものの新作落語。台本募集の作品ではなく、専業の人が書いたらしい。
年老いた大工の棟梁が、おかみさんを背負って屋根の上にいる。
危ないからと声を掛けたのだがあっちへ行けと。こんなときになんとかしてくれるのは「と」組の頭・文蔵だけ。
文蔵が要請に応じて駆けつける。

おかみさんはボケてしまっているが、棟梁はなんとか記憶をよみがえらせたいのだ。それで景色のいいところに上ってみた。
と組の頭は一計を案じる。

実によくできた、しみじみする人情噺だった。落語の人情、かくあるべしという。
古典落語の世界に置いても違和感はないつくり。
だが、変なクスグリが気になって気になって。
と組の頭を探すには、女の子にキャーキャー言って取り囲まれている男を探せばいい。
早速、子分格の男が女の子に取り巻かれた、文蔵を見つける。このギャグは落語っぽくてもちろんOK。
だがこの子分格がその後終始「きゃあ。きゃあ」と、よくわからないおちゃらけを入れる。
人情噺がマジになりすぎないように入れるギャグの重要性は、よく理解しているつもりだ。
だが、別に面白くないギャグだし、状況に合ってなくて違和感ありまくり。ただただ変なのおと思ってしまった。

三遊亭彩大「ウルトラマンじいちゃん」

重要なヒザ前を務めるのは三遊亭彩大師。世之介師と順序が逆ならわかるのだが、なぜだろう。
彩大師は自作だと思う。そうでないとしても印象は変わらない。
彩大師の高座は、2018年の年末、白鳥師がトリの新作まつり以来だ。
その際は、早い出番で地味な新作落語を掛けていた。
ぴっかり、つる子と白鳥新作を連続で出し、場内湧きまくった後での落ち着いた新作。
いい仕事だなと思ったものだ。

この日はというと。
実に楽しい落語であった。
ただ、ホンのすばらしさが目立つ一方で、話芸としての完成度は今一つ。これが正直な感想。
どういうことか考えてみた。
楽しい新作を語る演者から、「私はバカな噺を語ってるんですよ」という、副音声が漏れ聞こえてくることがある。先の天どん師が典型例。
これにより噺にワンクッション挟まって、とても楽しくなる。
だが彩大師、ふざけた落語をきちんと語っている、そんな印象を受けた。
マジメにやるのが面白いことだって多々あるから、全否定ではない。
でもこの噺は、年寄りウルトラマンが地球の平和のために戦うバカ落語なのだから、もう少し緩く語ったらいいのかもしれない。そう思った。
とはいえ白鳥師など最近緩すぎて、もうちょっと締めて欲しいななんて逆のことを思ったりもするけど。

「もしもウルトラマンが後期高齢者だったら」という新作のネタを思いついたとき、ごく普通には老人ウルトラマンの活躍(?)をクライマックスに持ってきて、まっすぐ描写するものだろう。
ところが、ウルトラマン老人はあくまでも、テレビ番組の設定として語られるのだ。
会議でもって、令和のウルトラマンのアイディアを出しているうちに、だんだん固まってくる。
これを元に、第1回のストーリーをこしらえてみるのである。これを落語の劇中劇として描く。
この構造は便利だ。噺の中でいくらでも遊ぶ余地が生まれる。

最近の仮面ライダーや戦隊ものがどうなっているか語るマクラも面白かった。
今の客席にいる人間も、子供の頃はみんな見てたのだから、多様性の時代のヒーローには興味がある。
最近は戦隊もののピンクを、男のヒーローが演じているのだそうで。
クラーク・ケントの息子もバイセクシャル設定なんだとか。

その流れを引き継ぐ令和のウルトラマン企画として「ウルトラマンバツイチはどうでしょう」。
シングルファーザーであるウルトラマンバツイチは、子供を保育園に預けないと怪獣と戦えないのに、なかなか空きがない。
やっと入れたはいいが、怪獣が攻めてきたとき、他の保護者はみな子供を迎えにくる。ウルトラマンバツイチだけはまさに仕事中なので迎えに行けず、いつも園長先生に叱られている。
これは却下される。

企画の通ったほう、ウルトラマンじいちゃんは、ボケてしまってスペシウム光線のポーズすら忘れている。
ここで演者の彩大師が地に戻り、私だってね、この2年間落語ほとんどやってないから話すの忘れちゃったよと。おやおや。
なんとかベテランの味でバルタン星人をやっつけて帰宅するが、正体を知らない息子の嫁に、闘ってきたことを普通に伝えてしまう。
老人なので、自分の正体につき隠し事ができなくなっているのだ。ここまでが第1回のオンエア分。

書きながら思い出すと改めて、だんだん楽しくなってきた。
落語作家としての彩大師は偉大だ。
一度、他の噺家に掛けてもらったら、噺が成長しそうに思う。別に格上の人でなくてもいい。柳家喬之助師とか。
またどこかで聴きたい。

次はいよいよトリの喬太郎師です。上下2回に分けてお届けします。

 

作成者: でっち定吉

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