黒門亭16 その3(三遊亭丈二「大発生」)

三遊亭丈二「大発生」

気を取り直して仲入り後。
三遊亭丈二師は、少なくとも黒門亭に出ている限りは、私にとって新作落語界のレジェンドに値する。
黒門亭では、寄席とがらりとマクラを変えてくる。小田原丈時代のエピソードから。
余芸で文左衛門時代の橘家文蔵師の手伝いをした話。金正日(文左衛門)のモノマネの「通訳」をしたのが大いにウケたそうで。
それから池袋演芸場の謎について。
先日、消防が入ったらしく補助椅子がなかったが、その後出番があって出たら、また復活していた。どうなっているのか。
すると天歌さんの出た昨日の連雀亭に行ったという、最前列の常連が声を掛けて、「下席だけ補助椅子出す。貸席だから」とのこと。
そうなのか? そうなのかもしれない。
丈二師答えて、なんでそんなこと知ってるんですか? 関係者の方ですか?
こういう人は、「あの噺家を消せ」と言って裏で指令出しているんじゃないですかだって。

しかし丈二師、高座の最中に声を掛けられたことについては、あまりお気に召していないのではないか。
「私、キャラのせいかよくお客さんに話しかけられるんですよ。二ツ目のときなんか、お客さんとの会話だけで15分終わったことがあります」だって。
本編は、初めて聴く新作落語。
ある島で、「中村さん」が大発生したので駆除しなければという、丈二師らしい実にくだらぬ噺。
島にはもともと中村さんはいなかったのだが、気が付くと増えている。わなを仕掛けても学習能力があって捕まらない。
中村さん、屋根裏で交尾して数を増やしていたりする。
他にも、山本、藤田、そしてそんなに多くもないが珍しくもない名前の代表として望月などが登場。

こういう噺を堂々と語れる丈二師の肚は素晴らしい。
新作落語も、兄弟子白鳥師の作品など、後輩が競って掛ける。だが丈二師の落語は、他の噺家が掛けることはあまりない気がする。
掛けられないのだろう。
これは冗談なんですよというメッセージが常に出ていないと、客のほうも聴けないような落語ばかり。
でも一般的には、そういうメッセージが強すぎると、古典でも新作でも、噺にどっぷりつかりたい客の気持ちを損ないそうに思う。だからこそ話芸は難しい。
丈二師のように、冗談を堂々と語るのは大変な才能。
でもそれ以前に「中村さんって一体なんなんだ!」と怒る聴き手も中にはいそうで、ちょっと怖い噺。
怒るファンがいたとして、それを野暮だと責める気にはならない。既存の噺の体系にはない落語だからだ。
といいつつ、これこそ落語だというムードも濃厚に漂う不思議な芸。
「公家でおじゃる」と同じ方法論で作られた噺だが、二番煎じ感はない。
私にはとても楽しかった。
丈二師に、新作落語の殿堂、池袋演芸場でトリを取って欲しいというのが私の望み。

この日の天歌さんの新作にも通じるところだが、落語たるもの、ちょっとした教養を盛り込んでおくと、質が一段高くなるようだ。
古典落語の「厩火事」「天災」「二十四孝」などを思い起こせばわかるだろう。
この噺「大発生」には、珍名さんが出てくる。
「小鳥遊」さん、「一」さん、「四月一日」さんなどの名字。読み方は自分で調べてください。
それから、特定動物を駆除するために外来種を持ち込む議論。これは明らかに奄美大島のマングースのことである。

続きます。

作成者: でっち定吉

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