池袋演芸場28 その2(池袋珍品尽くし「唖の釣り」「松竹梅」)

まったく失念していて昨日は書かなかったのだが、コロナ罹患の三三師は、前日の27日より復帰したばかり。
だからそもそも、このぽっかぽっか寄席の前半(仲入り)は全休であった。
客の私のほうも、コロナ明け初の出動。8月はずっとうちにいたので、落語はわずかに二度目。

満員ではないが、なかなかの入り。
コロナ前なら立ち見が出たろう。
そして期待通り、代演の小平太、さん助、ホンキートンクも含めてすばらしい内容でした。
3組とも、代演についての説明は一切しなかった。

 

子ほめ ぽん平
唖の釣り 小もん
松竹梅 はな平
夏の医者 さん助
ホンキートンク
茄子娘 扇里
二階ぞめき 小平太
(仲入り)
かぼちゃ屋 小はぜ
音曲質屋 藤兵衛
小菊
元犬 三三

 

新宿末広亭の演目と違うよなあと。
どっちがいいじゃないんですけど。

前座は正蔵師の次男、ぽん平さん。
そこそこ下も入ってきたのに、今日の池袋では最も香盤が下らしく、高座返しを務めている。
この人は三度目。ずいぶん上手くなった。大きな声を出す前座は勝手に上手くなる。
だが眠くて仕方ない。カフェ・ド・巴里の前に東京油組(やはり演芸場のテナント)で食べた油そばが利いてきて。
子ほめだし、寝せてもらう。
ご本人も、寝てるヤツに誉められても嬉しくなかろうが。

二ツ目は柳家小もんさん。
名前の由来(小●んの最適な字を探す)から、与太郎へ。
馬鹿の親子の小噺振って、なかなか珍しい唖の釣りへ。
七兵衛さんという人が出てくるとこの噺。落語の登場人物の名前はだいたいなんでもいいのだが、この噺には「七兵衛」をジェスチャーで入れるくだりがある。

ちょっと口慣れていないのかなというところもあったが、小もんさんの味にマッチしている噺。
殺生禁断の池で釣りをしているのに、まあ、釣るほうもそれを捕まえるほうもそんなものだよねという、世界をふんわり捉えた感が。
とにかく徹底的に力が抜けているので実に気持ちがくつろぐ。
静かに釣ればいいのにきゃあきゃあ言って釣りをする与太郎もたまらない。

以前聴いた唖の釣りでは、与太郎は役人に捕まった際、七兵衛さんに知らせるために声を上げるのを忘れていた。
小もんさんの描く与太郎は若干律儀で、釈放されてからではあるが思い出して一応悲鳴を上げてみせる。結局届かないのだけど。

先日一之輔師の「麻のれん」について書いたばかり。
この唖の釣りという噺も、コミュニケーションギャップを描く、落語の基本に満ちた内容なのになかなか掛からない、もったいない噺。
障害者を揶揄している部分すら本当はない。世間が成熟に向かい、薄っぺらい正義感を振りかざさなくなった現代において、もっと寄席で掛かっていい噺。

交互出演の朝枝さんも久しく聴いておらず、今回遭遇できればという気持ちがあったが、小もんさんも大好きです。
実に柳家らしい、ほどのいい噺家。

続いて新真打の林家はな平さん。
お客さんのマスク姿にも慣れて、いまや顔の上半分だけで、笑ってるかどうかがわかるようになりましたとのこと。
コロナでイベントの司会等減りました。皆さんも、結婚式で余興を頼まれたことがないですかと振って、松竹梅へ。
松竹梅も小品だけど、なかなか珍しい。現場で聴くのは恐らく初めてだ。
こちらは別になんのタブーにも触れない。「高砂や」の3分の1ぐらい掛かっても不思議はないと思うが。

松竹梅はシンプルな噺。
伊勢屋のご婚礼に呼ばれた出入り職人の松・竹・梅の3人が、割り台詞でもってご祝儀をつけるが、案の定失敗するという、古典の王道。

3人の割り台詞が、次の通り。
(松)なったなったジャになった 当家の婿どのジャになった
(竹)なんのジャになられた
(梅)長者になられた

実に簡単なのに、大蛇とか、番茶とか、あまつさえ亡者と間違える、ある種器用な梅さん。

私がこの噺の数少ない音源を持っているのが柳家喬太郎師。はな平師、その喬太郎師に教わっていそうなのだ。
ご隠居が婆さんに声を掛けた後、松竹梅の3人がめいめいに「婆さんすみません」とおっかぶせる。隠居は、「うちのかみさんなんだけどね」。
竹が順番を間違えて座ってるので「チクショウバイになっちまうだろ」とか、喬太郎師が作り上げたっぽい部分が多数入っている。
松っつぁんが「なったなったなった」と相撲になってしまったり、納豆売ったりするのは昔からあると思うのだけど。

実に幸せなこの噺、披露目では出せないのかね。なんとなくめでたいけど。
こういう軽い噺、はな平師は実にいい。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。