池袋演芸場28 その3(柳家さん助「夏の医者」)

続いて代演、柳家さん助師。
60代のベテラン師匠に見える47歳。
昔の医者を軽く振って、夏の医者へ。
そろそろシーズン終了を迎える噺だ。年中できそうな雰囲気だが、強引な地口のサゲを替えない限り夏にしかできない噺。
まあ、強引なのもそれはそれで楽しい。
これまた珍しめの部類ではある。田能久ぐらいの頻度で掛かってもよさそうだけど。

とっつぁまが具合悪いので、医者を呼びにやる息子だが、最初からこんな僻地に医者は来ないと思っている。だが、山の裏側に医者がいるらしいと聞きつけ、自ら呼びに行く。
知っている夏の医者と若干展開が違う。こちらがプロトタイプなのであろうか。

さん喬一門のマスコット、粗忽のさん助師らしい間違い。
息子が父親について語る際、「一刻も早く、長生きしてもらいてえ」だって。なんだそりゃ。
他にも、「イチコロ」を誤って「ひところ」と言ってしまう(違ったかも知れないが、「いち」と「ひと」のいい間違えはあった)とか。
でもこの人の場合、そんなのも持ち味。

田舎ののんびりした感じが実によく出ている、実に楽しい噺。
息子は急いで駆けつけたのに、雑草を抜いている医者。あとひと畝待ってくれと。
具合の悪い父親は、医者の旧友なのだった。懐かしがる医者。
歩きながら昔の思い出を、旧友の息子に語る。
若い頃、一緒に夜這いに行ったのだ。
村におさよという後家がいて、毎日のように村の若い衆をくわえこんでいる。なんでも、戸が開いているとOKのサイン。
おさよに男にしてもらおうと、勇んで出かける二人。
戸が開いているので、喜んでおさよの寝床に上がり込むふたり。しかし、目を覚ましたおさよにパンパーンとしばかれる。
暑いから戸を開けとったんじゃ。お前らとするぐらいなら犬畜生のほうがましじゃと。

ふたりがとぼとぼ帰る夜道を、青い月が照らしている。
この情景描写がたまらない。せつなくてのんびりで、そして間抜けで。
そんな話聞きたくなかっただと息子。

おさよという後家は、上方落語によく出てくる。
この噺の出自がよくわかるな。

山を抜けるルートで、頂上で一服ふかしていると突然真っ暗に。
うわばみに飲み込まれたのだ。
うろたえる若者と、全然動じない医者との対比がすばらしい。刀は忘れてきてしまったが、下剤を撒いて無事、うわばみの尻の穴から出てくるふたり。
出口である尻の穴を目指しながらさん助師ここで「女性のお客さんが引いてきたな」だって。
女性客が引くとしたら、その前の夜這いのくだりのほうじゃないかと思うのだが。

とっつぁまは見立てによれば死にそうな病気ではない。それもまた、平和なストーリーに幸せを振りかけてくれるではないか。
しかしうわばみの腹の中に薬一式を忘れてきてしまったので、またうわばみに会いに山を登る。

さん助師の緩い魅力溢れる、たまらない一席でした。
さん喬一門だし、今後もどんどん寄席の出番が増えていくだろう。
馬の田楽とか、兄弟子喬太郎師の復刻落語「仏馬」とか、田舎の落語がすごくよさそう。やってるかどうかは知らない。

のだゆきさんの代演はホンキートンク。
ボケの遊次さんのお祖父さんが、亡くなったばかりの三遊亭金翁師だ。そんなことは舞台で一切語らないが。
ボケ、ツッコミ双方でスベリウケ、自虐狙いという、実にスレスレの線を攻める最近のホンキートンク、今日は客席に内輪ネタがよく掛かったようで、かなりウケていた。
スベリウケ狙いの「豊洲がドン!」は後でトリの三三師が引用していた。三三師がずっと池袋にいたはずはなく(掛け持ちだ)、前座に出たネタを確認したのであろう。

飲食店ネタで、すしざんまいの社長の真似から寿司屋へ。
遊次さんに「嫌いなもの、苦手なものはありますか」と訊かれ、「ロケット団です」と答える弾さん。
本当はロケット団は嫌いじゃない。本当に嫌いなのは青空一風・千風。
よく考えたら一風・千風は正蔵門下だからこの席に顔付けされていてもおかしくないのだけど。
ねづっちのパクリを入れて「芸協です」と被せたり、堺すすむを引用したり、地味にわかる人だけわかるギャグも多い。

「修二と彰」を二人で踊るネタは初めて見た。アキラが遊次さんだが、小林旭が入ってしまう。
ここで、「堺すすむの小林旭が入ってるよ。(堺すすむを)お客さんピンと来てないけど」とツッコミが入る。

漫才が沸かせて去っていったあとは、入船亭扇里師が師匠譲りの「茄子娘」でリセットするのであった。
芸協と円楽党には、爆笑茄子娘が伝わっているのだけど、本家は落語協会で入船亭にしかない。本家はしっとりめである。
久々にちゃんとした茄子娘を聴いた気がする。まあ、ちゃんとしてないのも好きですが。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

4件のコメント

  1. はじめまして。
    夏の医者、そういえば上方でしか聞いたことがないなと思いました。今年はもう時季的に聞けなさそうですね。

    茄子娘は先日鈴本で扇辰師匠もかけていらっしゃいました。
    個人的にはしっとりめのバージョン(?)が好みです。季節感と素朴な民話風の空気と、何のことはない地口で終わるところ。夏の噺ではかなり好きなもののひとつです。

    1. 竜田川さん、いらっしゃいませ。
      私も同じハンドルネームをどこかで使っています。どこでだったか思い出せませんけど。

      夏の医者は、現代人では柳家圭花さんが掛けてました。この珍品専門の人が掛けていることがすなわち、なかなか出ないということを意味するようです。

      1. 同じハンドルネームを使われていたとは奇遇でした。使い勝手の良い名前ではありますが……。

        なるほど、やはりあまり出ない噺なのですね。出会えたらラッキーですね。

        ところで、過去の記事にはコメントできないので残念ですが、噺の構造やサゲを分類したり、鼻濁音を検証したりされている記事が好きで興味深く拝読いたしました。
        (書くのに相当労力が要りそうですが)良いテーマがあった際はまたそういう記事も読んでみたいなどと思っています。

        1. いろいろお読みいただきありがとうございます。
          私としても、あのあたりの記事にはかなり注力しているため、反応をいただけると嬉しい限りです。
          その割にはアクセスはイマイチなんですが・・・
          アクセスが多いのは破門とかゴシップ記事ばかりです。まあ、そちらも好きで書いてはいますけど。

コメントは受け付けていません。