池袋演芸場28 その4(柳家小平太「二階ぞめき」)

そして仲入りは代演の柳家小平太師。
正蔵師の代演とは出世だ。
「冷やかし千人、客百人、間夫が十人、いろ一人」というフレーズを振る。
このフレーズ自体あまり聴かないけども、ひやかしの噺というのは二階ぞめきだろうと。

吉原大好きの若旦那を番頭が心配して、女がいるなら身請けしましょう。帳面のほうは私がドガチャカと。
だが若旦那、女じゃないんだと。あたしゃ吉原自体が好きなんだよ。
というわけで、自宅の二階に吉原を作ってもらう。元祖バカ落語。

二階ぞめき、よく考えたらそんなに聴いたことはない。日本の話芸や落語研究会でもやらないし。
いずれ出そうな噺ではあるが。
現場では、古今亭菊志ん師がトリで出していたのに遭遇したくらい。
小ゑん師の「アキバぞめき」のほうがまだ聴くチャンスがあるなと。

実に見事な一席だった。そして、二階ぞめきの楽しみ方を新たに教えてもらった感じ。
若旦那にもいろいろいる。湯屋番みたいな妄想強めの若旦那も。
二階ぞめきの若旦那は、想像力の極めて豊かな人。
二階に作った吉原は当然静かだが、これを「魔日」に見立てて楽しむ。
とはいえ、ひとりきりで遊ぶ若旦那、見ている客が白けることだってなくはない。
でも、小平太師はそんなドジは踏まない。
ひとりですべての人物を演ずる若旦那の姿は、劇中落語。。
ひやかしの若旦那、上がっておくれよと頼む花魁、ぶつかって喧嘩になる他人、そして仲裁人。
わかっているはずのお芝居が、やがて現実になってくる(気がする)楽しさ。
小平太師は基本固めの人だと思っている。これ自体はいい悪いではないのだが、二階ぞめきに関しては非常にナチュラル。

若旦那のひとり遊びは大変勢いがよく、目が離せない。そのままゴールまで連れてってくれる。
小平太師、池袋の席亭に評価されているのだろうか。トリは鈴本で取っていた(ちなみにさん助師もだ)が、池袋のトリもありそうに思う。

仲入り休憩後のクイツキは二ツ目抜擢で、柳家小はぜさん。
この人もずいぶんと出世している。
与太郎がおじさんに呼ばれて商売を始めさせられる。道具屋ではなく、かぼちゃ屋。
与太郎、もう「唖の釣り」で出てるけどな? うっかりしたのかあえてなのか。

唖の釣りの小もんさんと同様、小はぜさんは柳家を代表する二ツ目さんだ。
私、神田連雀亭以外では一切聴いたことがない。連雀亭へはこの人目当てで出かけている。
通常の寄席でお見掛けするのは初めて。

しかしなあ、ちょっと残念だった。上手い下手の問題でなくて、噺の演出。
おじさんが、与太郎に厳しすぎる。ひとつも優しいところがない、パワハラ気味のおじさん。
ああ、小三治病である。
大師匠の悪い感性を引き継いでしまったな。今日のトリ、直弟子の三三師も引き継いでいないような感性を。

小三治的なものを世間がよしとしていたうちはいいのだが、時代はどんどん変わる。
金明竹に出てくる与太郎が典型例なのだが(柳家は松公でやるが、キャラが違うわけではない)、最近の与太郎は叱られない。
たしなめられる程度。
そのほうが客の気持ちにずっと沿うのである。

というわけで、おじさん以外は大々師匠小さん型を踏襲し実によかったのに、残念。
当人が大師匠の演出をよしとしてるのだから、一ファンが残念がってもどうしようもないのだが。
でも世間も、パワハラに厳しい目を向けるくせに小三治は神さま扱い。なんら疑問に思わない。
それでも春風亭かけ橋みたいな人が出て、徐々に人間国宝に疑問を持ちつつあるというところか。

ヒザ前は桂藤兵衛師。70歳。
寄席で聴くのは初めてである。

音曲質屋という、珍しい噺に。中身もタイトルも知らない噺だが、タイトルは三三師がこの後教えてくれた。
質屋の伊勢屋は、毎月7日だけは通常の営業を休み、芸事を披露するとこれを質草にしてくれる。
枠組みは実に楽しそうな噺。それこそ「掛け取り」に通じるような、芸事を二重写しにするという。
だが噺の中身がクスグリ含めてなんだか物足りず、スイッチがオフになり寝てしまった。
あとであらすじを調べてみたが、珍しいだけで大した噺ではないですな。ブラッシュアップが必要みたい。

この後の小菊姐さんまで引き続き爆睡してしまった。
トリの三三師が「寄席は寝ていていいところ」とマクラで話していたが、寝てるのを袖から見てたのではないか。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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