ごごらく@なかの芸能小劇場 その1(瀧川鯉八「おちよさん」上)

鯉八 / おちよさん
昇々 / 壺算
(仲入り)
昇々 / 天災
鯉八 / にきび

なかの芸能小劇場は、中野駅北口にある、よく落語の掛かる小屋。
行政が運営するこんな劇場があって、中野区民は幸せですね。
ずいぶん以前に一度来たことがある。蜃気楼龍玉師が二ツ目の五街道弥助だった頃なので、10年以上前だ。
会場に向かう道が狭くて往生する。ブロードウェイは歩けないくらいの混雑だから、サンプラザを向かいに見ながら都道の歩道を歩くが、歩行者を押しのけて自転車が走る走る。

前日に予約したら普通に取れたのだが、もしかするとキャンセルがあったりしたおかげなのか? 満員である。年配女性が多い。

この会「ごごらく」、東京かわら版には瀧川鯉八さんの名前だけが出ている。
売れっ子で、そして私のよく行く神田連雀亭にも出ている人だが、高座は初めてだ。
TV、ラジオでも落語が掛かる人。他に類のない新作落語の大ファンなのだが、巡り合わせで初めて。
個性の塊だが、近い人を探すと、顔と体系のよく似た、落語協会の林家きく麿師。

Webサイトを覗き、春風亭昇々さんも出ると知る。
私の大好きな昇々さんはゲストなのかと勝手に思い込んでいたのだが、二人会だった。
芸協の誇るすばらしい顔付け。
ちなみに、同じ劇場で午前中は、成金仲間の桂宮治さんの会もあった。

開演前のアナウンス。携帯を切れと。
ただ切れというんじゃなくて、理由を詳しく述べるところが偉い。「他のお客様のご迷惑になるだけでなく、熱演の妨げになりますので」。
そうだ、年寄りが携帯を平気で鳴らすのは、演者と客席の関係性をちゃんと理解していないからだと思うのだ。まあ、アナウンスも空しく、ちょっと鳴ってたけど。

瀧川鯉八「おちよさん」

幕が開いて鯉八さんがいきなり登場。「ちゃお」。
本日、5月18日は年に一度のこいはちの日だそうな。
昇々さんとは昔から新作を一緒に作ってきた仲間だが、二人会は珍しいそうで。
仲が悪いことはないが、お互いそれほど相手に関心がなくて、楽屋では口を利かない。
このマクラに出てくる鯉八、昇々はどうやら架空の人物らしい。実際はかなり仲良しみたい。

前座時代、引退するお囃子のお姉さんに色紙を書いて手渡したが、色紙だけ忘れてお帰りになった。なので自分の家に飾っているそうで。
他の前座が餞別を取りまとめていたのに、嫌われていたらしく声を掛けられなかった鯉八さん。
自虐マクラだが、独特の語り口なので、かわいそうという負の感情がまったく加わらない。
その前に、兄弟子、鯉斗の披露目の席でしくじりをした女性前座をかばい、他の前座に白い目で見られるエピソードも爆笑。
ものの見方がかなり独特な鯉八さん、ひねくれすぎて一周回って戻ってきている。
一周したらせんのようなもので、一周して最初の視点からわずかにズレている。そのわずかのズレがやたら楽しい。

十条の商店街の米屋で米を買おうとする話から、マクラの締めに、来年5月、真打昇進ですと言って拍手をもらう。
香盤が上のA太郎、伸三と3人同時昇進らしいのだけど、リリースがない。リリースないのに発表していいのかと思うが、別に問題ないみたい。
まあ、世間は松之丞フィーバーが続いてるから、その先はね。

普通の噺家さんのマクラには、わかりやすい笑いどころがあるものだ。
ここがオチなんですよという明確なサインが演者から出る。
鯉八さん、難しいネタを掛けているわけではないものの、わかりやすいサインは一切出さない。
自分自身のペースでマクラが進んでいく。ねっとりした語りのすべてが笑いどころでもある。
そんな特殊な芸に、年配の女性客がしっかり笑う。まったく客におもねらないのだが、難しそうで、少しも難しくはない芸。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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