神田明神「若手噺家を楽しむ落語の会」の春風亭かけ橋(中・「黄金の大黒」)

基本的にブログになにを書くか自由だと主張する私も、オリジナリティの高いクスグリをさらさらっと書くことまでは、演者との関係においてさすがに躊躇する。
そんなのが二三あった。
若旦那の凝ったのが、ボウリングとビリヤードというのは斬新。だが、ウケを狙う材料にはせず、客を軽くゆすぶるのに使う。あくまでも密やか。

それにしても、たいこ腹という噺、ギャグを放り込んでもダメだとつくづく思う。
鍼を刺してみたい若旦那と、その若旦那をなんとかしくじりたくない幇間の、楽しいやりとりが描けないといけないのだ。
かけ橋さんはまっすぐそこに向かうからすばらしい。

一席目は意外と長く、25分ぐらいやっていた。長さは感じなかったが。
もろ肌脱ぐシーンのある噺は、本当に着物が乱れますねと言って直しながら話す。
ちなみに、羽織はそのシーンで脱いでいた。これは普通のやり方だけど。

この日も三三師に見られる、鼻にかかる発声は豊富に聴ける。
この発声を捨てることはないはずだ。客に対し「ここはのんびり聴いていいんだ」というサインとして働くから、価値がある。

この席は1時間ですけど、2席やるか3席やるかは演者に任されています。今日は3席やってみようと思います。
鶴見の会でもこんなこと言っていたなと思ったら、「8月も同じこと言いましたけど」。
2席だとなんとなく手抜きっぽいこともあるんですね。ネタ帳見るとわかりますとかけ橋さん。

大家に呼び出されてるぞ。お前ら店賃払ってる? と貧乏長屋のワイガヤシーン。
長屋の花見のわけないので、黄金(きん)の大黒だ。
柳家っぽい噺だが、柳家の人が掛けるのは聴いたことがない。だからといって芸協の春風亭の噺とも思わない、ややマイナーな噺。

これも面白かった。
黄金の大黒って、骨格が面白そうなのだが、聴いてみるとそうでもないものが多い気がする。
これ、以前から不思議なのだ。「めでたい噺だから披露目で重宝する」そんなところもある気がする。
今まで聴いていちばんよかったのが、春風亭一花さん。

たぶん、面白そうだからと思ってしっかり取り組んだらダメなんだ。
長屋の住民たちを緩く緩く描くのがいい。
そして、緩くやったかけ橋さんのもの、サイコーでした。

緩いが丁寧。
特に東京では、ワイガヤ噺は登場人物の個性はどうでもいいもの。
だからこそ与太郎にスポットライトが当たるのだが、黄金の大黒には与太郎すらいない。
だが、かけ橋さん、長屋の衆ひとりひとりにちゃんとキャラを与えている。
キャラを与えたって、客に対しわかりやすい描き分けとして用いるわけじゃない。あくまでも無名の衆なんだから、そんなのは求められていない。
演者の側で、ここにこういう性格の野郎がいて、ボーッとした奴がいて、月番でもなかろうに仕切りたがりがいて、と肚に入っているのだろう。
それをさりげなく出してくる。そうすると、客にどことなく伝わるのだ。実際に長屋で会合があったらこうなるだろうねという。

店賃滞納されてもどこ吹く風の大家も実にいい。
「大家さんとこのガキと長屋の坊ちゃんたちが」とあべこべにされたぐらいでは動じない。
感情の起伏を無駄に上下させないので、どんどん貯金ができてくる。

大黒様が歩き出すサゲまでやる。
唐突に無生物が動き出す乱暴なサゲだが、かけ橋さんの緩いやり方だとなんら違和感がない。これもすごい。
違和感を与えてしまうと自覚する人は、きっとここまでやらないだろう。

ツッコミを極力抑えるやり方は、文楽志ん生時代の落語と、現代のお笑いに影響を受けたやり方、その両方に親和性を感じる。
「印半纏」ぐらいは、放置するとわからないからツッコミ入れるが、「ちゃんちゃんこ」になるともう入れない。
現在大御所と呼ばれるまではいかないベテラン勢あたりが、世代的になんだかやたらツッコミ入れたがる傾向がある気がしている。
たぶんこの世代は、ツッコミがないと落ち着かないのだろう。逆にもう少し下になると、ツッコミの少なさに快を覚えるのである。

そういえば、当ブログ大量流入のきっかけになった最新のヨネスケちゃんねる観ました。
師弟関係のすばらしさに、柳橋門下の柏枝師が涙出そうと語っていたのがよかったですね。
個人的には、先日この会の模様を柳家小はださんから聴いたとおり、ポンコツ前座のはち水鯉が活躍しているのを見て嬉しくなってしまった。
しかし元小かじのしくじりは、人間国宝に対するものだという事実はすっかり確定したようですね。
誰も否定しないし、もう死んじゃってるからそれでいいやという感じを受ける。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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