正蔵喬太郎ガチンコ二人会 その1(桂枝平オチケン前座からの脱却)

東京かわら版で見つけた鶴川落語会、若干空席ありというのでメールで予約した。
前売り3,800円。私にしては張り込んだ。
町田方面には現在、QRコード決済の還元はなく、私ならではのついではなにもない。

年末に毎年やってる会とのことだが、初めて参加。
今年はいつになく小田急沿線によくやって来た。
伊勢原、読売ランド前、相武台前、そして鶴川。

鶴川は町田だから東京都だが、駅前にどーんと丘がそびえ立つ。地形的には川崎、横浜とまったく一緒だ。

和光大学ポプリホールは大学の施設だと思ったら、町田市の公共施設であり、会場名はネーミングライツだった。
柳家小はぜさんの会を何度か検討したことがあるが、来るのは初めて。
地下にある立派なホール。
小痴楽・宮治二人会の告知が大きく出ている。

転失気 枝平
初音の鼓 喬太郎
鹿政談 正蔵
(仲入り)
おすわどん 正蔵
カマ手本忠臣蔵 喬太郎

プログラムを見て、前座が桂枝平さんと知る。
鈴本で聴き、非常に珍しくも名を明らかにして批判してしまった。
つい先日、円楽師の亡くなった9月30日のこと。
オチケンの方法論を寄席に持ち込もうとしている気配だったので、これは大変なことになると警告したくなったのだ。
もっとも、前座の情報なんて持ってないから、彼がどこのオチケンだったのかも知るよしはないが。
オチケンでなかったかもしれないし。
ちなみに枝平は、師匠文生の前座名。

あの記事はアクセス多かった。
ご本人の目にも、間違いなく触れている。
ちなみにオチケンぽさとは、噺を深掘りせず、即物的にウケを狙おうとすることだ。

しかし、このメンバーの会に前座で呼ばれるのだから、楽屋で期待されてるのだろうか。
真のポンコツ前座だと、どこにも連れていってもらえないわけで。

前座は寄席と同様マイクが切られている様子。
声を張り上げる。
知ったかぶりから、転失気。
おや。
ついふた月前に過剰だったオチケン気配は、ものの見事に消えていた。
余計なクスグリなどまるで入れない。
転失気という噺そのものを語り、しっかりウケていた。

すると、相当に上手い前座がそこにいた。
ああよかった。変な袋小路に突き進まなくて。
私ももう、これを機に前座の名出し批判はやめようと思った。枝平さんが最初で最後だ。

最近ゆたぼん父が吠えるのを眺めていて、つくづく思ったことがある。
あの人はどう見ても立派な人間ではない。だが、少なくとも正しいことをひとつだけ言っている。
よかれと思って、人の人生にアドバイスしてくるやつは馬鹿だと。
いろんな人がいる中、「アンチ」と十把一絡げにして煽ってくるその乱暴さはさておくとして。
匿名でアドバイスしたつもりになってる人間は、確かに実に痛い。それに加え「アドバイスを聞かないやつだ」と捉えさえするのだ。
大した人生を送ってもいない何様なのに、何の関係もない他人の人生に影響を与えようという欲望が強すぎるのである。
私の大嫌いな「教え魔」でもある。

私の本業はキャッシュレス関連だが、私に向かって「クレジットカードの枚数は絞り込んだほうがいいよ」などと、上目線でわけのわからない内容を言ってくるような連中を想像すればいい。

古今亭志ん輔という師匠を再三批判しているのも、弟子や若手を導きたい欲望が強すぎるように見えるためだ。
こういう人に限って、変な方向にしか導けない。

三平を導こうとし、果たせなくて当の相手をラジオでボロクソ罵っていた円楽師。
私の円楽批判についてなにも感じない人には、ゆたぼん父の話はまったくピンとこないでしょうがね。

名を出さなければ今後も、引き続き前座の批判は自由。そういうことではない。
ひとつ制限を設けたい。
批判するにしても、善意悪意にかかわらず今後、人(噺家)を導こうという意識を入れないよう心掛ける。

枝平さんがオチケンから脱却できたのは誰のおかげでしょう。
私のおかげでないことは確かです。
まずは楽屋や師匠だろうが、それよりもなによりも本人の自覚ひとつである。

たちまち上手い前座となった枝平さん、さらに目立たない工夫は結構あった。
先生に真実を教わった珍念、復讐が軽い。
「適当に答えとこ」だけ。
多くの前座、転失気で説明を入念に入れすぎる。教わった通りにやってるのだとしても、考えて刈り込む工夫ぐらいあっていいだろう。

三つ重ねの転失気を持ってこいという和尚に珍念が「ブーブーブー」。この際、左から右に順にお重を並べる所作が入っていたのも新鮮。
そして11分程度の実に手短な一席。あらゆるシーンが短く軽いのである。
オチケン的工夫は入れず、逆に刈り込む編集が達者なのであった。
単に短いだけでなく、転失気のひとつの完成形まで作り上げてしまった。

恐れ入りました。

一席終わるとメガネを掛けて、前座仕事に励むのであった。

この次、早くも喬太郎師が登場する。
寄席の主任の場合、3時間以上待ってるのである。
それと比べると、あっさり出てくるので拍子抜けしたりなんかして。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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