横浜にぎわい寄席(下・橘家圓太郎「化け物使い」)

続いて古今亭今輔師。
この人を、落語協会の師匠と一緒に聴けるのが魅力で、横浜までやって来たようなところがある。
だが、残念ながら暮れに浅草で聴いた「雑学刑事」だった。自信作なんだろうけども。
そして今輔師の場合、マクラの振りようから、客に向けての自虐の吐き方まで、完全に同一なのであった。
つい言ってみましたみたいなセリフも、予定のもの。
オチケンに勧誘されて入った過去から、噺家になぜかなってしまったこと、群馬の情報、それからアタック25にミリオネア。
完全同一なんだけども、それでも面白いのはよかった。
あまり落語を聴き慣れていないらしいご婦人がたにもよくウケる。浅草よりウケてた。

ところで浅草で聴いた高座は、その後浅草お茶の間寄席で流れた。
その際、田代沙織さんとのトークコーナーが5分ぐらいたっぷりあって驚いた。
内容が濃くて切れなかったのだろうけど、内容とは関係なく、トーク観ながらこの人モテねえなとつくづく思った。
いや、でっち定吉もモテないから、上目線じゃない。
高座と同様、勢いに任せべらべらと自分の話をする今輔師にそう感じた。
ちなみに過去の浅草お茶の間寄席のトークコーナーで、さらにモテねえなと思ったのが、春風亭昇吉。
沙織さん、昇吉師の変な押しの強さに相当ビビってたもんね。
反対に、この人モテるなと思ったのが弟弟子・昇也である。
余計なことを書きました。

仲入り休憩後は紙切りの林家楽一師。相変わらずぬぼーと登場。
リクエストは「馬」「ランドマークタワー」。
ランドマークタワー悩んで切りつつ、私鶴見出身なんで一応見てるんですけどと楽一師。
青年団のときに、「憲法9条を守ろう」に拍手していた最前列のイタい客から「スヌーピー」というお題が出る。これもいったん聞き入れた。
しかし楽一師、ランドマークタワーを悩んで切りつつ、後方席に子供がいるのを見つけてぜひにとリクエストを呼びかける。
そして、この子の出した「あじさい」を切り上げるとそれでおしまい。スヌーピーは切らなかった。

切った作品をお客に渡す際は、前座の空治さんがいちいち出てきて、取り次いで渡す。中途半端なコロナ対策らしい。
そしてそのたび「空治さんありがとう」と楽一師。
お礼を言ってますけど、運ぶたびに1回500円取られるのだそうだ。

トリは橘家圓太郎師。アッと言う間だ。
圓太郎師は今席国立演芸場に仲入りで出ているが、この日はお休み。
近年、大ネタ小ネタ問わず圓太郎師の面白さに改めて気づき、よく聴いています。

我々はいつも、お客様に合わせて噺を出します。我々が決めるなんてものじゃない、お客様が決めているのです。
先の紙切りに触れて、お子さんがあじさいで、大人がスヌーピー。今日のお客さんはレベル的に果たしてどうなんでしょう。

よく圓太郎師が語る娘さんの話。私はこれが楽しみで。
娘さんもだんだん大きくなって、小6だそうな。
ちなみに初めて「下の娘」というフレーズを聴いた。ついポロっと出てしまったのかもしれない。

小学校で、WBCの決勝をみんなで観てたんだそうだ。
どうだすごかったろうと父が訊くと、すごかった、お客さんがいっぱいいたよと娘。
父が言う。大谷翔平は、子供のころから、どうやって野球が上手くなるか、どうやってプロに入るか、全部考えてその通り実行してきたんだ。もう、お前の頃には全部決めてたんだよ。
お父さんだって、小さいころから2023年の6月4日には横浜にぎわい座の高座に上がりたいと思い続けてきたんだ。
大谷翔平ときみと、何が違うんだと思う?
娘答えて「親かな」。

今はよくなったがちょっと前は就職氷河期で大変だった。
江戸自体は口入屋があるから、田舎から出てきた人はみんな朝通う。とはいえ、合った求人があるとは限らない。
だから毎日通う。

ということは、化け物使いらしい。
圓太郎師の化け物使いは、2020年と2021年にそれぞれ寄席で聴いた。
そろそろ化け物の季節だしなと思ったが、2020年の池袋では1月に出してたっけ。
今輔師に次いで、よく知っている噺が被ったのだが、圓太郎師に関しては被って決してイヤじゃないな。
ただしこの師匠の化け物使いは、化け物が一つ目小僧しか出ないというちょっと珍しいもの。
化け物のバラエティで楽しませるのではなく、人間心理を突き付ける噺だ。

人使いの荒い旦那のその荒さは、化け物屋敷に越すというので奉公人杢助がやめるまで明らかにされないのも工夫。
豆腐屋に、豆腐とがんもと生揚げを3回買いに行かせるのはだあ様、ムダというものだよ。

化け物使いは、パワハラ的要素が入っていることは間違いない。
化かしに出てきた一つ目にまったく驚かず、こき使う隠居。相手が化け物だから気の毒ではないのかというとそうでもない。
では、なぜゲラゲラ笑って聴けるかというと、隠居のこき使い方が通常のレベルを超えていて、もうたまらないからである。
圓太郎師はグロ描写も平気で出すし、ハラスメントも平気で出す。そして常に楽しい。
本人は杢助に釘を刺されたというのに、まるで悪気がないから始末に悪い。
一番近い噺は、小言幸兵衛であろう。

先日笑いの要素をいろいろ書いたばかりだが、そこで書かなかった要素「繰り返しの笑い」が化け物使いでは効果的。
冒頭、口入屋のシーンで番頭が主人に、「お暇をいただきます」と言っているのが二度目の繰り返し。そしてサゲ。

楽しくフィニッシュしたにぎわい寄席でした。
この定席、今後そうたびたびは来ないだろうな。
5人のメンバーが、全員期待できるという今回みたいな日がもしあれば、値段が高くてもやってきます。

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作成者: でっち定吉

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