(続)古典落語・定番クスグリの好き嫌い

古典落語・定番クスグリの好き嫌い

の続編です。
ネタが深夜になってようやくできたので、日付が変わった午前0時に出しますね。
ちなみに更新一日休んだぐらいでは、アクセス数は落ちません。

嫌いなクスグリに遭遇した際、いちいちメモ取ってるわけじゃないのでまたしても記憶ベースです。
演目から、思い出していきます。

雑俳

「吐いたことがあるらしいな」
「ええ、こないだ飲み過ぎまして」

こんなやり取り入ってていいんだけども、できる限り軽くして欲しいなと思うのです。
吐いたと言ったら、ごく普通に思い浮かぶのは俳句ではない。
隠居のほうも八っつぁんがわかるはずのない言葉を使うのはよくないなんて思うのだ。

たらちね

「お前さんそろそろ身を固めないかい」
「はあ、セメントで」
「お前さんサイを持つ気はないかと言ってるんだ」
「サイですか。持ってもいいんですけどエサはなにやればいいですかね」

セメントねえ。
八っつぁんの混ぜっ返す性格描写なんだといえばクスグリの必要性も出て来ようものではあるが。しかしいささか面倒くさい。
いっそメタギャグにしてみるか。

「お前さんそろそろ、サイを持つ気はないか」
「ああ、かみさんですか」
「お前さん、そこだけは察しがいいんだね。絶対、エサはなにやればいいかって訊くと思ったけど」

饅頭こわい

「まんじゅうで死んだら『アン殺』なんてことに」

ここは鉄板でウケますね。好き嫌いを超越し、ある種神々しいクスグリである。

道灌

雨が来そうで慌てて隠居の家を辞する八っつぁん。
「子供の道灌が走ってるね。女の道灌がいるね。屋根の上にも道灌だ」
帰って道灌をやりたくてならない八っつぁんの心境がにじみ出ていて好き。

道具屋

「抜けないな」
「抜けませんよ。木刀ですから」
「なんで木刀抜かせるんだ」
「なにか出てくるかなと思いまして」

与太郎100%の清々しいクスグリ。

鹿政談

別に好きでも嫌いでもないのだけど、「猪鹿蝶」って絶対入れますね。
抜いたら抜いたで、きっと物足りないんでしょうな。
冷静に考えると、お奉行様に詰められた鹿の守役、ギャグなんか発してる場合じゃない。

湯屋番

「そっちから入ってもらっちゃ困るよ、女湯だ」
「好きです」

ここも絶対にウケる箇所だけど、聴いてきたばかりの兼好師のもの、最大限に切り詰めていて実に気持ちいい。

らくだ

「ふぐ食べてふぐ死んだんすね」

これはどうでしょう。客はだいたい苦笑している。
でも屑屋の極限状況を描くために、みんな入れる気がする。
入れない人もいるけど。

青菜

「大阪の友人から届いた柳陰をおあがり」
「お前大阪に友達いたの? 東京にもいねえのに」

以前も別のところで書いたのだが、こういうクスグリ大嫌い。
なんでさっと流すべき古典落語に、植木屋の評判が出てくる必要があるのかね。

犬の目

「なに、来年になったらまた新目が生えてきますからな」

犬の目は、目玉をタニシと間違え食ってしまう犬の目を抜いて患者に与える噺。
犬がかわいそうなので、なるべくナンセンスにしなければならない。
これはかなり重要なクスグリだと思う。
ただ、「5月になったら生えてきます。メーデーと言って」は、ちょっとなあ。
メーデーなんて今どき誰が祝ってるのさ。

火焔太鼓

「あの目をごらんなさい。バカの目をしております。ばかめと言いましておつけの身にしかならない」

これは好きだなあ。
「八つのときもあったんでございます」も。
その前に、「なんだか火鉢と甚兵衛さんと一緒に買った気がする」も。
火焔太鼓のクスグリは大部分志ん生が作ったらしいが、今でもだいたい通用するからすごい。
ただ、令和の時代にはそうそう掛からないですね。

一分茶番

「今お前さんの股の間に見えたもんはなんじゃ」
「今年のおかるはオスだんべ」

ステキ。
末広亭で、ここでサゲたのを聴いたことがある。

黄金の大黒

「大家さんと頃のガキと長屋の坊ちゃんたちが遊んでて」

典型的な入れ替えギャグ。
こんなのも欠かせない。
さらに重ねるなら「あべこべだよ」「そのあべこべが遊んでて」とでもしておけばいい。

千早ふる

「そのうちあきらめてウチけえるだろうと思ったら、帰らねえんすよ。ウチの子だからね」
これはさすがにあざといな。

岸柳島

老侍の計略で岸に取り残された若侍に、渡し船の客がここぞとばかり悪口雑言を浴びせる。
「宵越しの天ぷらー!」
「なんだそいつは」
「アゲっぱなし」

これも志ん生だっけ。
今ではそんなに斬れ味感じないな。差し替えられませんかね。
たとえば。

「悔しいかー。ここまで泳いできやがれ。溺れたって助けねえぞ。溺れるものは久しからず」

そして若侍が泳ぎ出すという。おお、クスグリのデキはともかくつながった。

宮戸川

締め出し食べちゃった、を強調されるとがっくりな噺なのだが、クスグリは豊富。
「こっちが神田でこっちが日本橋、日本橋の人は神田に来ちゃいけません」
半七は本気でお花を恐れているのだけど、切羽詰まった状況で意外とシャレが利いている。
A太郎、喜太郎の兄弟弟子がともにこれを「落語協会」と「芸術協会」でやっていた。
こんなのもどうだろう。

「こっちが鈴本演芸場。こっちが上野広小路亭。上野広小路亭の人は鈴本に来ちゃいけません」

天狗さし

桂二葉さんが作ったものだと思うが。
鞍馬に烏天狗を捕まえに登り、「ここまで来ると天狗の匂いがプンプンしよんな」。
クスグリの大傑作と思います。

作成者: でっち定吉

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