三三と若手2(下・柳家三三「田能久」)

あお馬さんも、師匠と違う勢いがあっていいですねと三三師。
「上」で書くのを忘れたが、あお馬さんは健康ランドだかスーパー銭湯だかの高座の話を振っていた。
100畳もある広間で客10人ぐらい。
「あお馬さんも世界進出ですね。ニューヨークなんていうぐらいで」なんて支配人がいる。
その話を引いて、私も昔、岩槻に行きましたよと三三師。
SAMの実家、丸山総合病院のそば。大宮から東武野田線なんかに乗りましてね。
そんなところ初めて行きました。でもあの先の野田から一之輔が出てきましたね。
後で聞いたら馬風師匠も野田でしたけど。

馬風師匠も、世代的なものでしょうけど北関東の訛りがちょっとあるんです。
半音上がったまま下りてこない、あの典型的な北関東アクセントとは違うんですが。
昔「会長への道」をやってました。馬風師匠が会長になるために何人幹部をコロさないといけないかという噺です。
先代の馬風師匠の、色気はあるんだけども酒の飲みすぎで声の出ない登場時のモノマネが上手かったんですが、その「色気」というときのアクセントがちょっと。
こんなのよそで言わないでくださいね。私、本牧埠頭に浮かぶ羽目になるんで。
三三師が日本語警察アクセント係?

最近の若い噺家は、ほぼ全員じゃないかと思いますが、高座でウケなかったときに「スベった」と言うと思います。
でも昔は、「蹴られた」って言いました。
私はどちらも言いません。ウケなかったときは黙って目に涙を浮かべ、同情を誘います。

花緑アニさんの話。吉笑さんが、予約のお客の住所から宛先を調べられると振ったネタからだったか(予約のときに住所なんか書かないけど)。
花緑師匠は結構新しもの好きです。もう10年前ですが、楽屋でタブレットを見てました。
Googleストリートでいろいろ見てるんです。なにしてるか訊いたら、「弟子の家の家庭訪問」。
一番見たい家はどこか訊いたら、「きく姫の家」。まだ未練があるんでしょうか。
これもよそで言わないでくださいね。
わからない人は、落語界の歴史を調べてください。

マクラはまだ続く。マンションのエレベーターで、落語のお客さんである女性に声を掛けられた。
このお母さんが、友達全員と、落語会で知り合った人たちに三三住まい情報を教えている。
このお母さん、一時期は杖をついて歩き、それがゆえあまり外出しなくなっていたそうだ。
その後近所に引っ越した三三師、お母さんと久々に道で出くわした。「あら〜どうしてたの」。こっちのセリフだよ。
蒟蒻問答の「ポックリ治っただ」を引いてるのかもしれない。
今ではすっかり元気になり、日々仲間と麻雀しているらしい。
私は麻雀あまりしたことありません。ただ、一門でスキーに行って吹雪かれた日、ろくにルールわからないのに混ぜられて、本気で巻き上げられました。
これもよそで言わないでくださいね。賭博ですから。

毎日忙しい三三師だが、たぶんこの会がいちばんくつろぐのだろう。
たっぷりマクラから、田能久へ。巳年の正月だから。
三三師のものは初めて聴く。

これが先週聴いたばかりの立川談吉さんのものとほぼ同じ。驚いた。
同じところから来ている、というより、もう教えたのではないかという同一性。そうでなくても、お互い同じ人から教わっている。
峠の小屋で梅干しおにぎり食べて「スッパイは成功の元」なんてクスグリまで共通している。
立川流の人が落語協会から噺を教わるイメージはとても薄い。実際、決して多くはないと思う。
だが吉笑さんとの関係を見てもわかるが、そういうルートもないとは言えない。

ほぼ同じ噺を2週続けて聴いたらガッカリかというと、そんなことはまるでなかった。どちらもいいし、噺も3Dになった。
演者の濃厚な味が漂うのだった。三三師、勝手なイメージでは「濃厚」ではない演者だが、この噺については濃厚。
そして師のある種ぶっきらぼうな感じが、うわばみの爺さんにぴったり。

とはいえ三三オリジナルも。脱線である。
最近よく見かける手法。地噺の要領で脱線して、演者個人の話を振るのである。
田能久の場合、主人公が芝居のカツラを持参していることから、三三が出た映画の話に脱線する。いわば、マクラを入れ子で使うのだ。

師が出たのは「やじきた道中 てれすこ」。勘三郎の映画。
出番は一瞬だが、箱根でロケをする。当時松重豊がまだ売れる前で、現地で一緒に宿泊していた。
ヒロインはキョンキョン。あ、あれじゃないですよ。あんな白髪の太った男がヒロインじゃないです。
合宿組はエキストラよりさらに早く、早朝からカツラを付けている。
この金型がまあ、痛いの何の。孫悟空ですよ。
ガッツ石松さんの伝説「江戸時代の人は大変だったんだな」もわかります。

結構長く脱線し、しっかり笑わせて本編に戻る際また笑わせる。

今回も非常によかった三三と若手。
開演前にしっかり構成ができあがっているのだろう。綿密な打ち合わせというよりも、三三師が雑談から会の空気を作り上げているのではないか。
この空気が、シブラクを上回るのだと思う。

毎月とは言わないが、また寄せていただきます。

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作成者: でっち定吉

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