三遊亭東村山勉強会(中・初天神と、プロフィール紹介)

一席終えて、客に断ってペットボトルの水を飲む東村山さん。
なんとかネタおろしができてホッとしたようだ。

水を飲んでそのまま続けるわけだが、こんな経験も初めてですって。そりゃそうだ。
二ツ目さんでも、続けてやるのがしんどそうな人はざらにいる。
今日は日ごろ寄席に行っていないお客さんもいらっしゃるようでと。どうしてそんな客が前座の勉強会にやって来たのか知らないが。
プログラムにも書いてあるのだが、古典を一席やりますと。
先に言っちゃいますと、初天神です。正月向きの噺なんですが、寄席ではいつでもやってますね。
羽織のくだりが長めの初天神。家を出るまでもたっぷりめ。
親父が、金坊に「病院行くんだ」と嘘をつくが、ならあたいも病院行くと金坊。
言うこと聞かないと大川に放り込まれちゃうぞというくだりが、出かける前にある。
泳げるもんじゃなくて、あたい泳げないもん。おとっつぁん、殺人罪で絞首刑だ。
なら炭屋のおじさんに頼んで山に捨ててもらってやる。オオカミに食われちまえ。おとっつぁん、ニホンオオカミは絶滅したよ。
狐狸に化かされるぞ。楽しそうだね。それにおとっつぁん、炭屋に借金あるから頼めねえや。

よーいよーいも飴屋も団子屋もなく、いきなり凧のくだりへ。なら序盤たっぷりでも大丈夫だ。
凧のくだりは、たまに聴くものとおおむね一緒。他人に親子で順番にぶつかる。
馬石師から聴いた、喧嘩凧のくだりも入っている。

いや、ストーリー追ってもわからないことだが、実に見事だった。
なにがいいかというとだ。噺の捉え方がギチギチでなく、終始ふわっとしている。
初天神は、最近も悪い例を聴いたが、親子関係が悪いものは聴くに堪えない。仲良し親子だからこそ悪態がつけるのだが。
だが東村山さん、ことさらに仲良し描写を持ち込まなくても、しっかりいい関係が描けている。これはもう、噺の肝が肚に入ってるからだと思うのだ。
そして、噺の進行のために親が子に厳しく当たったりしないからだ。
アクションもムダに大きくはないが、アクセントがついてくっきりしている。凧を持った金坊を肩車してやったり。
二ツ目になっても、どうか古典をやめないで欲しいと思う。新作のこやしになるための古典でなくて、もうちょっと可能性がある。
今年1月に前座になったばかりだが、古典だけ取り上げてもかなり上手い。
笑い声もかなり上がっていた。

終わった後で東村山さん。また水を飲んで語る。
普通初天神というと飴や団子なんですが、私のはいきなり凧に入るんです。珍しいでしょ。
これは桃月庵黒酒アニさんから教わりました。アニさんのものが、凧にまっすぐ入る型なんですよ。

前座噺を、一門じゃない二ツ目に習うのは珍しい気がする。まあ、師匠は教えられないし。
よくわからないが、黒酒さんに教えたのはまた違う一門だが一之輔師では?
お山に捨ててやるのくだり、凧のくだりがそれっぽいのだ。
ただし家を出る前に大川に捨てる云々を入れるのは、芸協で聴いた型だ。

そして「コーナーです」。
スケッチブックを出してきて、プロフィール紹介。これは楽しみだ。
なにしろ、前座というものはまだ一人前の扱いじゃないので、どこにもプロフィールは出ない。
Wikipediaも作られない。
春風亭かけ橋さんも、落語協会の二ツ目柳家小かじのときはWikipediaがあったが、芸協で前座をやってる時代には一切情報が出ていなかった。

1991年、東村山生まれ。
高校(都立田無高校)まで野球少年だったという。
中学のとき、自転車で湘南まで行って帰ってきたそうだ。
高校卒業後は東京NSC入学。15期生。
同期は横澤夏子、デニス、マテンロウ、ニューヨーク、鬼越トマホーク、おかずクラブ。そして立川談洲。
東村山さんの組んでいたコンビの名は忘れちゃった。
落語に出逢い、4つ上の相方にコンビ解散を切り出したところ、二つ返事だったという。元相方はバンドのほうへ行ったそうで。

落語に出逢ったのは、新宿末広亭で聴いた三遊亭円丈の「ぐつぐつ」。
衝撃を受け、それでコンビ解散を決めたのだと。
私もこの、2011年頃末広亭で円丈師のぐつぐつ聴いた。同じ席にいたかもな。

落語に目覚めた青年は「りんご亭アップル」と名乗り、吉本所属のまま渋谷∞ホール等、劇場に出してもらうようになる。
落語の着物を着て、座布団とめくりを小脇に抱えてステージに上がり、小噺を一席披露するのだ。
最初は1分、徐々に長くなって3分の高座。

青年は三遊亭円丈にも会ってもらい、熱い落語談義を交わす。
青年は自分なりの落語論を書き上げ、∞ホールの支配人と、円丈に渡す。
支配人は、吉本落語会の前座を世話してくれた。
そこで、月亭方正、桂三度、桂三四郎、桂三輝、そして桂文三などの噺家と知己を得る。
吉本落語会のゲストとして柳家喬太郎にも出逢う。
喬太郎師はりんご亭アップル青年のことはぼんやりとしか覚えていなかったが、ああ、あれが東村山だったのと最近話してくれた。
吉本所属の上方落語家たちは、揃って弟子入りを勧めてくれる。
改めて青年は円丈に弟子入りを志願する。何度も断られたが通っていると円丈は、「きみは白鳥のところに行くといい」と言う。
青年が白鳥師にアタックすると、白鳥師は「新作3本書いて持ってきて」。
青年には吉本時代に培った落語のストックがたくさんある。ただちに3枚書いて持っていって、即採用。ここからは早かった。
2020年2月20日に弟子入り。
その後コロナがやってきて、弟子入りはどこでも封印されるようになる。
運がよかった東村山さん。すでに29歳だったので、年齢制限ギリギリでもあった。
2年の長い見習いを経て、今年から前座になった。

ということでした。
続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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