第38回昭和大学名人会(上・柳家圭花「狸の釜」)

毎年おなじみ旗の台、昭和大学の学祭で実施される無料の落語会「昭和大学名人会」。
「名人なんて出てねえじゃねえか」などと失礼なことを言ってはいけない。
毎年、広島の竹原から出てこられる柳亭左楽師、今年はトリだ。
ということは、会は続くとしても、左楽師が出演されるのは最後なのだろう。
なにしろ御年86歳で、林家木久扇師よりも生まれが1年早い。
師を聴いたのは、ここで3回。黒門亭で1回。
返す返すも、台風直撃とコロナの空白が惜しまれる。

昨年までも12時開演という変な時間帯だったが、今年は11時。さらに変。
席がたくさんあるのはわかってるので、整理券などもらわず直前に出向く。また、今日は雨だ。
今回は、芸術協会の師匠が顔付けされていない。落語協会だけ。

金明竹 美馬
狸の釜 圭花
花島皆子
 権助提灯 さん遊
ニックス
いつもの 馬風
(仲入り)
源平盛衰記 柳朝
小菊
明烏 左楽

前座の美馬さんは金明竹だが、知っているものと微妙に違う。
松公が奉公初日だったり、傘を勝手にやってしまったり、猫を借りにくるお隣に悪態ついたり。
誰が作ったの? この型。ひょっとして自分で?
一般論としては、変わったスタイルは脳ミソ揺すぶられていいものだが。
でも、効果が感じられない。
いつものスタイルでいいよと思った。

柳家圭花さんは出囃子が「お座敷小唄」。
独演会も行ったり、よく聴く人なのだが、下座さんがいる会で聴くことなどほとんどなく、初めて知った。
可愛い女の子みたいな芸名の紹介から、タヌキの話題。
故郷長野にはタヌキはたくさんいます。
たまに東京でもタヌキが発見されてニュースになってますが、都会のタヌキは面構えが違いますね。スタイリッシュでシュッとしてます。
権兵衛狸、なら最近珍しめだがごく普通にたぬきに入る。
珍品ばかりやる圭花さんも、こういう会では前座噺なんだなと。
ただ、狸札ではなくやや珍しめの「狸の鯉」かなと予想。

たぬきの化けた小僧さん、どうやって朝食用意したかと訊かれ、隣家から持ってきたと。
これは自分で作ったのか。
さて、なんと鯉ですらなく、「狸の釜」だった。
存在だけは知っているが、初めて聴く。
今、やっている人なんか知らない。
さすが圭花さん。珍品に対する覚悟が違う。
きっと師匠だって持ってないと思う。

たぬきシリーズは、メジャーな札、賽も含め、すべて詐欺の話。
釜ではなにをするのかというと、茶の湯のために茶釜を探している裏の寺の和尚に、たぬきの化けた茶釜を売りつけにいくのである。
気に入ってもらうが、一度これで湯を沸かしてみたいと和尚。
やむなく、半金だけもらって八っつぁんは帰ってしまう。
この点、鯉こくにされかける狸の鯉と扱いが似ている。

和尚ともうひとり、珍念が出てくる。
珍念は落語のメジャーキャラの気がするが、転失気以外で出てくるっけ? ここに出てきます。
珍念が釜に水を入れ、火にかけるとどこからか声がする「小僧」と。
和尚に呼びましたかと訊くが、お前を小僧なんて呼ぶわけないではないか。
なおも釜は「くそじじい」。怒る和尚と弁解する珍念。

結局釜は逃げ出してしまう。珍念が追いかけ、たぬきでしたよと。
どうりで半金持っていきよった。
たぶんこれが本来のサゲで、圭花さんは物足りないと思ったのだろう、もうひとつオリジナルっぽいサゲを付けていた。

マジックの花島皆子先生を挟んでお目当てのひとり、柳家さん遊師。なんのお構いもできませんが。
「悋気は女の慎むところ」から私の意識が飛び、気づくと旦那と権助が妾の家に来ている。権助提灯。
若手も好んでやる噺だけども、人物に陰影を付けすぎる気がしている。
さすがさん遊師はひと味違う。おかみさんと妾の造形を深堀りしない。
でも、旦那が行ったり来たりして、女たちが口を開くたびに客から笑いが起こるのである。

さん遊師が描写するのはただひとり、権助だけである。
下僕の権助はこの噺において、神の視点を持っているといっていい。
他の3人が運命に振り回される中、権助だけが楽しんでいる。
もっと聴きたい師匠だが。

ニックスは久しぶりの気がする。妹のトモさんはちょんまげ頭。
安定の芸だが、またスタイルが若干変わっている。
お姉ちゃんの話を「そうでしたか」という武器でもって遮ってしまう。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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