寄席の出番とその役割(下)

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神田連雀亭を挟みました。「寄席の出番とその役割」に戻ります。
「上」はなかなかアクセス数よかったです。

クイツキ

仲入り休憩で気がそれた客を高座に引き戻す、大事な役目だ。
鈴本や、池袋の芸術協会だとここは色物の出番。
落語の場合、勢いのある若手(時に二ツ目)のポジションだ。
三遊亭天どん師がここに入ると、私の名前が食べ物なんでここに入れられてるわけですと語っている。
活弁師の坂本頼光先生の出番は必ずここ。
芸の役割的にクイツキにぴったりなのだが、機材を持ち込む手間があるから休憩後でないとやりづらいという、物理的な理由もあるのでしょう。

仲入り(中トリ)

仲入りは休憩のことである。丁寧に言うとお仲入り。
「中入り」でもいいが、どちらかというとにんべんのないほうは上方で使う印象。
「仲」という字は「人」が入って縁起物なんでしょう。
ともかく仲入り休憩の前の出番が仲入り前、あるいは単に仲入り。
長講が許される出番である。実際、おおむね持ち時間も長い。
上方落語では、トリと並んで大きく掲示され、中トリなんて言う。
東京の噺家と落語ファンは「中トリなんて言葉はない」と言いがち。確かに私も使わないのだが、現に使っているのに「ない」とは言いすぎでしょう。

ともかく重要なポジション。東京でも、大きく掲示はされないだけで、ファンはここが誰かで寄席を選んでいる。私もそう。
大きなポジションだが、しかしトリに気は遣う。
トリの師匠の得意なネタを先にやってしまうようなことはしない。人情噺もしない。
そしてトリの師匠とタイプの違う人が選ばれている。

仲入りのひとつ前

仲入りのひとつ前も、だいたい落語。
いい噺家が出てきてなかなか重要だと思うのだけども、ポジションの名称を見聞きしたことがない。
名称、あった気もするのだが、いずれにしても誰も使わない名称ならあっても仕方ない。
だが、ここの役割はなかなか重要。
持ち時間はその前と同じだが、わりと本格的な落語を掛ける傾向があるように思う。
結局、寄席の満足度はこのあたりで大きく左右されるものなのだ。
ポジションの名前作ってみるか。「仲ヒザ」なんてどうだ。
そんな名称ならないほうがいい? 失礼しました。

前座

トリからさかのぼってきたのだが、最初に戻って改めて始めます。
寄席の開口一番は前座。
上野広小路亭のしのばず寄席や亀戸梅屋敷寄席など例外もあるが、前座は番組に顔付けされていない。
プログラムにない人が最初に出てきて一席やる。料金の外なので、開演の10~15分前に始まってしまう。
昇太師は面白いことを言う。前座とは、生まれて初めて寄席に行く人が最初に聴く、下手な落語。
実際、一生懸命大きな声で棒読みで喋るだけの前座も多い。それがよしとされる。
だが、中にキラリと光る逸材もいるから面白い。
余計なことをするなという掟の内において、グルーヴ感があったり、当たり前のクスグリがウケたりする人もいる。
キャリアにかかわらず、修業時代の段階をすでに抜けている人もいるのだ。
新作の師匠の弟子は新作派だから、二ツ目になったら新作をやる。でも前座のうちは当然古典。
前座じぶんに古典の上手い人のほうが、やはり新作もいい。
当ブログにも、前座情報を求めてやってくる変態がしばしばいるようである。

二ツ目

番組トップバッターは二ツ目。だいたいトリの師匠の一門からの、交互出演が多い。
羽織を着て出てくるし、私生活のマクラも振る。客席に語り掛けるのは、反応をつかむ大事な役割でもあろう。
二ツ目さんは、もっと深いところ、あるいはクイツキに抜擢されることもあるが、基本はこのポジションしか寄席の出番がない。
二ツ目は神田連雀亭やスタジオフォー、梶原いろは亭をはじめ各所で頑張っている。
そちらでご本人へのイメージをつかんでいて、寄席で数少ない出番に遭遇すると、なんだかよそ行きに感じなくもない。
仕方ない。寄席のトップバッターができるのは軽いネタだけだし。
前座と同様、制限の中でアピールするのが二ツ目。
ここから寄席の木戸銭に含まれているのだが、たまに達者な前座に食われている二ツ目もいる。

最初の真打

出てくる人でいうと、3番目のポジションは真打。
若手真打が多いが、バランス的にベテランを入れることもある。
2席続いた後でその日の寄席の空気ができているから、ここの師匠は結構重要な舵取りを任せられている。
「上」で書いた、当時の落語ブログ界のドンみたいな人に対し「わかってないな」と思ったのもこのポジションだった。
新作まつりだから、例外的に前座から新作。二ツ目が済んだときには寄席はもう、過熱していたのだ。
そうしたら、落ち着かせるのが役目である。さもないと客が疲れてしまう。
落ち着かせるといっても、退屈させたらもちろんいけない。

最初の色物

次が色物。
客は3席続けて落語を聴いて、自覚はしていないかもしれないがちょっと疲れている。
その頭をカラッポにしてくれる色物さんは重要。
紙切りもいいが、芸協の発泡スチロール芸、できたくんなんて最適だと思う。
漫才ももちろんいいのだが、見せる芸はさらにいい。

こうして、客を疲れさせずにトリまで連れていってくれるわけです。番組も、実に考え抜かれて作られているのだった。
落語会だと、疲れることもある。いい悪いではなくて。
寄席の4時間は、落語会の2時間とおおむね同等だと私は思う。

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作成者: でっち定吉

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