神田連雀亭ワンコイン寄席49(下・春風亭一花「四段目」賞レースでの編集についても)

二番手は春風亭一花さん。
賞レースに出るためには、噺を編集しなければならないのが大変。大ネタもなんとか時間に合わせて縮める。
削っている最中はわりと楽しい。ところが、編集したものを掛けてみるとやっててもまるで面白くなかったりする。
ああ、あの削った部分に噺の面白さが詰まっていたのだなと気づくことも多いのだと。

実にいい話じゃないですか。
たとえば船徳なら「ちっとも知らなかった」あたりでしょうか。あれはまだ抜けるほうだと思うが。
あと、質屋蔵の「コロコロストン」。
へっつい幽霊の若旦那の出ないバージョンなど、編集に成功した例なのだろう。

池袋演芸場で、若手の企画があったと。二ツ目が出る福袋演芸場でしょうね。
そこで、あらかじめ用意してきた噺を、ランダムに当たる指定の時間でやるという無茶な企画。
コメダ珈琲で、アイディアを出しあって企画を考えているうちは楽しかったそうだ。
そして、持っている一番長い「文七元結」をやれと言われる一花さん。
当日、当たった時間はなんと5分。
前日3時まで頑張って縮めていた一花さん、頑張っても8分にしかならなかったが仕方ない。
賞レース用の噺も後でしますけど、先に今からその5分版文七元結をやりますねと。

ダダンダンダダン、ダダンダンダダン、とターミネーターから入る。
上手から下手に、ひと文字ずつ手でクレジットを表現する。「文」「七」「もっ」「とい」。
「あ、予告編です」と一花さん。予告編なら5分でできる。
実際には3分ぐらいだった。
映画の予告編風に、文七元結の各シーンを次々出していく。
終わったあとで、なんだか他の仲間に申しわけない気持ちでいっぱいでしたとのこと。
そこに袖から吉笑さんが割り込んで、「4点」と声を掛けて去っていく。

6点取れるように頑張ります。
今度は賞レース用のネタの前に振る、芝居のマクラ。
今、歌舞伎座で文七元結をやっています。
師匠一朝は歌舞伎で笛を吹いていた人で、奥さんは先代片岡市蔵の娘です。
だから弟子も、幕見で歌舞伎観にいきなよといつも言われてます。

一朝一門で、余興で芝居をやることになりました。らくだのかんかんのうのくだりです。
語りが一之輔アニさんで、兄貴分が一蔵アニさんです。で、くず屋は一番弱々しい奴ということで、私です。
なんと、おかみさんからの頼みで、おかみさんの弟である片岡亀蔵さんが出てくれることになったんです。死体の役で。
黄色い顔になった亀蔵さんを、かつがせていただきました。
終わった後で亀蔵さんに話しかけられます。
「今まで私をかついだ人ですが、亡くなった勘三郎さんと、中車さん、そしてあなたです」
この二人に並んだんですよと一花さん。

ようやく本編、四段目へ。
小僧の定吉がかわいくていい。劇中芝居もいい。
だけど、5分版文七元結で徹底的にふざけた(悪いと言ってるわけじゃない)あとの本編が、モードが違いすぎて普通に入ってこないのだった。
特に、一花さんらしいとっておきの工夫も薄いとなると。猪の脚で遊ぶことすらないし。
私は一花さんの大ファンだが、これがNHK新人演芸大賞の本番で出てきても、点は入れないなと思った。私の採点では決まらないが。
もっとも本番では、ふざけた前半は存在しないから、さわりはない。
だとしてちょっと物足りなかった。
この難易度高い噺を賞レースで出したい心持ちはなんとなくわかった気はする。
まあ、一花さんが賞レースを四段目で勝ち抜いて、でっち定吉が恥をかく未来もいいじゃないか。

トリの吉笑さん、「10点ですね」。
私は昨年たまたま受賞しただけで、アドバイスできるような立場じゃないんですよ。
だいたい、今年の若手落語家選手権で、一花さんが勝ち抜いてくると次私と当たるんです。現役のライバルなんですよね。
だから二人とも徹底的に褒めておいて、ホメ殺しにしましょうか。

今ちょうど、NHKの予選が終わって、本選出場者が誰なのか探り合う時期ですね。わかったら立川流の若手に教えてやろうと思ってるんですが。
今年は生放送らしいですね。
昨年は10月31日に本選がありましたが、結果が出た後で厳しい緘口令がありまして。

え、今年は生放送なの?
NHKのサイトよく観たら、確かにそう書いてありました。
よかったね。これで緘口令問題も解決だ。
私も観覧応募してます。今年は大阪だけど、当たったら行く。まあ、倍率高そうだ。

大会で負けると悔しいんですよ。
いや、大会だけが噺家の人生じゃありません。それはわかってますから、負けた後も普通に仲間に接してますけども、内心は悔しくてなりません。

昨年は吉笑さん、ここ連雀亭でも繰り返し同じ噺を掛けて、ストイックに仕上がりに持っていった。
規則正しい生活をしていたが、本番当日の朝、ひとつ仕事を受けてしまった。学校寄席で、ギャラが高かったのだ。
本選に出られないわ、仕事断ったわだったら落ち込み半端ないので、受けた。
吉笑さんのいとこが高校の先生をやっているそうで呼んでもらったのだ。
そこで、本番に出す噺を最後に掛けてみた。ややウケだったそうで。
その後で同じ学校寄席に呼ばれていた一之輔師が、かつてNHKを獲った「初天神」でひっくり返していた。ますますショボン。

本選までは吉笑さん、毎日本番と同じ時刻に喋ってみる。そして、その前も起床時間、食事の量、昼寝の有無など徹底的にこだわった。
そんな噺家、ひとりもいなかった。
当日その話をしたら、それなら優勝しますねと仲間に言われたそうで。

ここまで語っていたらもう予想はついていたが、この日の本編はぷるぷる。もう、そんなモードになっていた。
ここ連雀亭でも(仕上がり期間中に)二度遭遇したし、NHKや笑点でもぷるぷるを聴いた。
完全に頭に入っていても楽しい。もはや古典になったようだ。

親方が両手を頭にくっつけてしまっている謎が解けないままなのが上手いよなあ。

ほぼ満員の連雀亭、非常に楽しみました。
ただ、噺そのものより、エピソードのほうが面白かったのだけども。

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作成者: でっち定吉

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1件のコメント

  1. 四段目はサゲのところがはっきりできればばっちりな噺だと思います。
    終演の一礼とごっちゃに見えると、サゲが分からなくなります。
    一度だけ一花さんの四段目を見たことがありますが、また見てみたいものです。旦那の馬久さんもいい人です。この2人、夫婦で同時真打になってほしいなと思います。

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