鈴本演芸場9 その1(柳家やなぎ「締め込み」)

久々の鈴本、久々の寄席四場。
喬太郎師匠の芝居、千秋楽である。

ぼんやりしてたらダメですう。
文京区でPayPay還元をやってるので、シビックセンターそばでお昼を食べて、大江戸線に乗る。
いろいろ考えごとしてたら、寝てもいないのに乗り過ごし、ふた駅先の蔵前まで行ってしまった。大江戸線はホームが島式なので戻りやすいのだけはいい。
寄席の帰りは帰りで、白山にあるコープみらいで買い物する。
このスーパー、20%還元されたとしても高いなあ、まあいっそゴージャスにするかと、ぶりしゃぶなどカゴに入れる。
いざ決済しようと思うと違和感。どこにも「20%還元」のポスターがないではないか。
そこで初めて、ここがコープみらいではなく、近所の三徳であると気付いた。
ひとり赤面しながらカゴの商品を戻してまわるというね。
本物のコープみらいは、高くなかった。気に入ったのでまた来ます。
明るく陽気にいきましょう。

乗り過ごしたので時間ギリギリになっちゃった。
キャッシュレスでメシを食わせてもらってる私の、最も嫌いな機械が、鈴本にある現金投入機。これも久々に対面。
東京かわら版割引で、2,800円。

幸い、空席はたくさん。トリのときはかなり埋まってましたけどね。

 

転失気 二之吉
締め込み やなぎ
アサダ二世
宗論 玉の輔
高砂や 扇橋
にゃん子・金魚
猫の皿 馬遊
宮戸川 喬之助
楽一
紙屑屋 小満ん
(仲入り)
のだゆき
いぼめい 小ゑん
浮世床(本) 圓太郎
翁家社中
夢の酒 喬太郎

前座さんは一切名乗らない。
初めて遭遇する、三遊亭二之吉さん。
毎度おなじみ転失気だが、噺にずいぶん手を入れていて驚いた。
といっても、実にさりげない。さりげないのだが、教わったままではあり得ない、そんなレベルの工夫。
こんなの。

  • 珍念は、「転失気」というワードが医者の口から出たときに聞いていて、和尚もそれを知っている
  • お店は花屋だけ(これはたまにある)
  • 和尚が珍念に、「謙虚に、自分の肚から出たように」訊いてこいと指示している
  • 和尚は「傷寒論」を紐解かないし、すぐに「屁」というワードも出している

最近は、こんな前座さんが増えたなと思う。今や、教わった通りにやりなさいなんて教えはないのかもしれない。
口調はいいし、上手くなりそうな人。

二ツ目は、柳家やなぎさん。2年振り。
2年前も鈴本の喬太郎師の芝居で聴いていて、その際も2年振り。
マクラが面白い人だが、マクラを振らない。挨拶もなくいきなり「こんにちは~」と泥棒を描く。
挨拶もしないでいきなり噺に入った人を見るのは、芸協の桂小右治さん以来でとても珍しい。

締め込みは、師匠譲りであろう。
ずいぶん崩れていてさん喬師の面影はないが、「そこです」だけ残っていた。

締め込みという噺は、それほど流行っていない気がする。
人情もうっすら漂い、ギャグも豊富な噺なのだが、あまりいじれない噺という気がするのだ。
クスグリの入れどころが決まっている噺、という分類がある気がする。最近これを感じたのが「壺算」。
壺算は、円楽党の達者な二ツ目、三遊亭好志朗さんが、クスグリに頼らずスピーディな噺にしていて、実によかった。
入れどころの決まった噺については、ギャグを工夫するということはしないほうがいいのではないかなんて思った。

だがやなぎさん、この伸び縮みしづらい噺に、自然なギャグを豊富に加えていて驚いた。
といっても、爆発的なギャグではなく、軽いものが多い。それが一番楽しいと見たのだろうが、きっと正解だ。
泥棒が、「ウンデバってマラソン出たら速そうですね」。
かみさんも、隣家のかみさんとピーチクパーチク。すでに隣のかみさんに、厚かましい人だと見抜かれてるんだって。
そして亭主に対してもなかなか強く、負けていない。引っぱたかれて「普通ぶてと言われてぶたないだろ!」。

ギャグ以外でも、いたく感心したことが。
家に帰ってくると風呂敷に自分とかみさんの服が包まれている。
亭主、一生懸命この謎を解こうとする。
すると落語の客は、床下に潜む泥棒のことをなんとなく忘れてしまい、亭主の謎解きに同調してくるのだ。
この場面は、ごく普通には亭主の思い込みを笑う場面。だが、「そうだよ八っつぁん! 浮気したんだよきっと!」なんて一瞬思ってしまうではないか。

この工夫に、さらにギャグを入れる。
亭主、結論を出した後、「結論が飛躍しすぎちゃいないか」だって。
これ、私がかかわっているスカッと系でもよく使う方法。聴いている客が、「ちょっと飛躍しすぎだな」と思いかけていても、こうした自己認識一発でもって、疑問はどこか行ってしまうのだ。
高度なテクである。

締め込みの最高傑作、とまではいかないかもしれないが、その可能性は十分持っていると思った。また聴きたいものだ。
サゲは、祝いの酒につきあってもらいたい亭主が、「俺がいいとこ二三軒教えてやる」。
こんなところで切るのは珍しい。
今日は、鈴本にしては変なところで切る噺が多かった印象。別に不満ではないけれど。

高座返しは、落武者みたいな頭の柳家小じかさん。
昨夏に小せん師の会で、うろうろしてたので顔だけ知っている。
なんで中央部からハゲだしてるのに、髪伸ばして横分けにしてるんだろ? 罰ゲームなの?

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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