笑福亭喬介・柳家花いち二人会(その2・笑福亭喬介「兵庫船」)

兵庫船というお話をしますと喬介師。
毎度おなじみの喜六清八という二人連れが旅をしますと。
東京でもごくまれに「鮫講釈」を聴くが、講釈が入らず、かまぼこ屋で落とすのが本家兵庫船。この型は東京にはまったくない。

喬介師は地が喜六キャラなので、こういう噺は大の得意。
噺に入って冒頭いきなり噛んでしまい、大爆笑。やり直す。こういうハプニングがストレートにウケるキャラ。

板子1枚下は地獄。上は天国や。嫌がる喜六を船に押し込む清八。
扇子を使って舟をこぎだすしぐさを入れつつ、地に戻って喬介師、「ここは本来三味線が入るところなんですよ。今日は予算不足なんですみません」。
さらに、踊りのお師匠さんに教わったと。「こぐ際に、視線を近くと遠くに使い分けると漕いでいるように見えるんです。見えませんか」。
といって拍手をもらう。

沖へ出ると帆を張って、のんびりした船旅。
どこから来なすったと出身地の言い合い。
「和州」「泉州」「紀州」「勢州」「江州」あたりはいいが、「ワイはどうしゅう」と言う奴がおる。
大坂には昔から州がない。シャレて堂島をどうしゅうと言うのだと。連れて道頓堀の奴も「どうしゅう」とシャレる。

それから大坂出身でも、「淀川」と言う旅人。連れておなご衆が京都の「鴨川」。
江戸っ子が「利根川」。
野暮だが、落語の時代もう利根川は江戸湾に流れ込んでないと思うのだな。
隅田川、とかいうと名称問題(大川とか宮戸川とか)が付いて回る。多摩川でどうでしょう。
多摩川沿いに住んでる江戸っ子、いないけど妥協して。

そしてなぞかけ大会。
喜六くん大活躍。もっとも当人、ゲームの趣旨がまるでわかっていない。

気が付くと、船が止まっている。このあたりに住む悪いフカに魅入られたのだ。
まずは落ち着いて一服付けよう。フカー、フカー。
乾いた客の笑いに喬介師、この「フカー」のくだりね、噺ができたときからあるんですよ。
抜いても、差し替えてもええんですけどね、これやらないと上方落語の雰囲気出ない気がしてね。

などと世間話で客の気をそらしつつ、噺はクライマックスへ突入。
誰がフカに魅入られたか調べるため、客がひとりずつ自分の持ち物を流す。流れてくれればいいが、魅入られたもんの持ち物はまっすぐ沈む。
持ち物を流す(開いた扇子を脇によける)たびに、鳴り物が入る。
楽屋で幸弥さんが合わせてるのだろう。へえと思う。
高座返しと開口一番、鳴り物入れて、やってることが100%前座。二ツ目の称号ってなんなんだ。

寝ていて会話に参加していなかったかまぼこ屋が起きだし、フカと対決して見事に勝利を収める。
とぼけたフカのセリフがたまらない。
めでたしめでたし。

上中里で本格的(アホ風味入り)上方落語が聴けて幸せだ。

続いて仲入りは、柳家花いち師。
今年は3席目。今までよりちょっとだけ減ったかも。
寄席のトリが回ってこなくても、やってる会は非常に多い人。まだまだ聴いていきたい。

先の噺の鳴り物を指して、すごいですね。幸弥さんがモニター見て合わせてましたよ。ひとつも間違えないでね(1か所抜けた気がするが)。
私が前座のときですよ。
今の名前で言いますけど、立前座がめぐろさん。私が2番手の前座で太鼓番でした。
だけど太鼓が苦手で、いつも3番手前座の扇橋さんに替わってもらってたんですよ。この人はなんでも上手いんですね。
この季節、掛け取りっていう噺があります。われわれの協会の会長、市馬師匠は、この時季寄席では掛け取りばっかりなんですね。
出番の前に市馬師匠、太鼓番は誰だと訊きます。扇橋さんですと言うと、よしわかったと言って、細かい打ち合わせをします。
翌日は「扇橋いるか」と最初からご指名です。翌々日も。
ところが次の日は立前座のめぐろさんと扇橋さんが休みで、私が立前座兼太鼓番をしてたんですよ。
市馬師匠、「扇橋いるか」。
「今日は休みです」
「太鼓番は誰だ」
「私です」
「…牛ほめ」
お客さんに申しわけないことに、その日は掛け取りが牛ほめになってしまいました。

「めぐろ」は二ツ目時代の名で、今は「れん生」。前座の時代は「玉々丈」であるから、ちょっと変。
扇橋は言わずと知れた大名跡であり、二ツ目時代は「小辰」。前座時代は「辰じん」でした。念のため。
掛け取りをやめたのが本当だとして、牛ほめは嘘でしょう。
まあ、掛け取りやめたのもウソだと思うけど。

懐から、手ぬぐいをどさっと大量に出してくる花いち師。
1本目は新作であろうとは思っていたが。
大量の手ぬぐいを使うこの噺は、「アニバーサリー」ではないか。私はもともと、福袋演芸場でこの噺を聴いて花いちファンになったのだ。

学校寄席の話。
最初に出ていって、扇子の使い方など説明する。
キセルに見立てて、これなんでしょうと言うと元気な小学生が「せんす」。
手ぬぐいに扇子を刺し、飲み物に見立てて小学生をいじって遊ぶ。

本編に続きます

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。