笑福亭喬介・柳家花いち二人会(その1・立川幸弥「元犬」)

たまには夜にも出かけたい。
梶原いろは亭で笑福亭喬介・柳家花いちという面白い組み合わせの会がある。
もっと派手な会もたくさんあるが、いいじゃないか。

喬介師は初めてだが、以前道楽亭の独演会を予約したその日のうちに、ご本人濃厚接触該当のため中止ということがあった。
上方落語の番組に、この人が登場すると非常に嬉しい。
桂二葉さんに先を越されたが、アホ落語の第一人者である。
褒めてるつもりだが、失礼かな。
先日神戸で開催された喜楽館アワードでも決勝に出場している。

花いち師は毎度おなじみ、新作落語の鬼才にして古典もユニークな人。
池袋下席のトリを取る日を私は待ちわびている。

ブレイクまでもうひと踏ん張りの東西若手の会ということになろう。
こんな顔付け、いろは亭で企画しているなら見上げたものだ。
なぜかXことツイッターには告知なし。
二人とも、前日は別個の独演会だ。

夜席では、ハネたあとに足を伸ばして買い物とはいかない。
なので昼間に、足立区を廻ってPayPay還元の買い物してきた。
いったん帰って改めて出動。
日暮里で時間を潰す。冬の夜の日暮里は淋しい。
そこから京浜東北線で上中里へ。ここは常に淋しい。
陸橋を渡り、エレベーターを下りて小さな商店街を抜ければまだマシなのだが、それではつまらないので線路沿いの階段を下りる。
昼でも淋しいのに、淋しさMAX。
そんな街にいろは亭の灯りがポツン。狐がこしらえた小屋かもしれない。
客は6人。たぶん、狐が5匹。
挨拶し合っている常連の狐。

元犬幸弥
兵庫船喬介
アニバーサリー花いち
(仲入り)
寿限無くん花いち
時うどん喬介

昨日書いた記事に逆らって申しわけないが、さっそく今日は大笑い。
上方落語と新作落語のステキなコラボ。
疲れる笑いではなく、軽やかな笑い。いや、やっぱり爆笑だけどな。

前座は立川幸弥さん。
二ツ目になって、なおここのハウス前座を務めているとは知らなんだ。

故郷足利の縁結びの神様と、縁切り神社のマクラ。
口調はいい。すごくいいのだけど、重複するムダな情報が多いなあと思う。
この人は今年8月ここで、フリーになって初めて聴いたが、印象は決してよくない。
現在の立場に関する私の偏見が紛れていることは否定しない。ただ、偏見まみれをヨシとしているわけではない。

だが、本編元犬に入ると、実に達者で驚いた。
4か月あれば人は化けるのか? そういうことではないのだろうけど。
初天神はよくないなと思ったが、元犬に関しては自分で加えた演出も見事だ。
口入屋の上総屋さんに会って、尻尾代わりに手を振るあたりまではどうかなと思ったけど、あとは大部分、既存の元犬の上を行ってる。
おひつの飯全部食うとか、屋根の猫と戦うとか、そういうのは抜く。
隠居は「変人」が欲しいのではなく、堅苦しくない楽しい人を求めていて、これにシロが該当する。
シロのおとっつぁんらしいのは、酒屋のブチ。隠居は実在のタブチさんと理解する。
一番驚いたのは、兄さん二人がどうなったかについて。
上のオスは、近所の子どもたちになぶり殺されたと、泣き声で言うシロ。
通常、笑いながら川に投げ込まれたとか言うけど、畜生でもそりゃ変だよね?

チンチンやホイロも、考えてやっている。
擦り切れかけた前座噺に、退屈するシーン、疑問に思うシーンがひとつもないのはすごい。

いやあ、こりゃ追い出した芸協の立場ないかもしれないな。
師匠、談幸の勝ちだ。
勝って欲しいわけじゃないけど、これが現実だ。
談幸門下の兄弟子たちより上かも。

幸弥さんが見台と膝隠しを持参する。
ということは、喬介師。
ニコニコっと登場。

幸弥さん、シュッとしてますねえ。
今日のお相手は花いちさんで、男前やねえ。
東京の噺家さんは男前が多いですね。大阪はこんなのばっかりですわ。

師匠、松喬の挨拶「上方落語界のクマのプーさんです」にあこがれている。
あと兄弟子の喬若は、「上方落語界の松坂大輔です」。これは本当に似ていて、引退した今でもウケる。
こういうツカミがあれば、ゼロから一気に10に持っていけるではないか。
鶴瓶師匠の旅で九州を回った際、大分の温泉で師匠に言われる。「お前、アレに似てるな」。
「なんに似てますか」
「毛のないゴリラや」
毛のないゴリラなんか使えませんやんと師匠に水をぶっかける弟子。

喬介師は、「上方落語界の蟹江敬三」でどうですか。
あと、こまわり君にもちょっと似ている。

楽屋で話していて、大阪のほうが面白いですねなんて言われましたが、全国どこにもおもろい人はいてます。
と言って、東京駅の駅員の話。
それから南海電車で遭遇した、痴漢かも、という話。

どちらも遠慮して伏せます。なら書くなと言われそうだが、喬介師のマクラが楽しいことはちゃんと語っておかないと。
書かないと忘れるんだけどな。
電車の痴漢の一部についてだけ。喬介師は極端な人見知りで、人前で喋るのも苦手だという。
今、仕事ですから喋ってますけどねだって。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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