笑福亭喬介・柳家花いち二人会(その3・柳家花いち「アニバーサリー」「寿限無くん」)

噺家といえば扇子と手ぬぐい。通ぶって言うなら風とマンダラ。
扇子と手ぬぐいを使った所作自体をテーマにした新作落語が「アニバーサリー」。
聴くのは5年振り。BSイレブンの番組では一度観た。

高級居酒屋に妻を呼び出す売れない落語家。結婚記念日だからお祝いしよう。
結構しそうなお店だけど大丈夫? 大丈夫、この扇子と手ぬぐいでその気になろう。
と、注文もせずすべて見立てで妻にサービスする。

枝豆から始まって、刺身へ。
最初はあたし落語家じゃないからと戸惑っている妻だが、仕方なく亭主に付き合う。
赤い手ぬぐいからニュッと扇子を突き出す「カニ」、二枚の扇子を広げて間に丸めた手ぬぐいを挟む「ホタテ」は大ウケ。

知っているものと設定、結末が違っていた。
噺家は20年続けていて、だから真打である。花いちさん自身の設定に合ってきたみたい。
そして、最初はいやいや付き合っていた妻もだんだん本当に料理が見えるようになる。
迷惑を掛けるお店に、手ぬぐいを開いて見えない詫び賃を取り出す妻。

花いち師自身は早く売れて欲しいものです。
こんなに面白いんだから。
先に出た喬介師もウケてたから、花いち師としても派手な噺で対抗しなきゃという意識もあったろう。
今日の少ない客にはよく響いたようでよかった。

仲入り後は再度花いち師から。
私は古典もやりますけども、今日は新作をしますとのこと。
寄席では実質新作縛りになるから古典を1本入れると思ったけど。
以前も聴いたマクラ。配信で「だくだく」をやったら、楽屋の小里ん師が「新作か」とつぶやいたという。
古典をやっても新作口調になるみたいですと。

ご自分の名前の話。
前座時代が花いちで、二ツ目時代が花いちで、真打になって花いちです。
二ツ目になるとき師匠に相談したんです。「花一」にしたいなと思って。
師匠、重々しく漢字にしたいんですと言ったら、「小さん」はどうなると言われて反論できませんでした。

このマクラから入るのは、寿限無くんではないだろうか。
浅草の披露目で聴いた。
ちなみに同じ披露目で次は「アニバーサリー」を掛けたそうで。
今日は知っている噺二つ。まあどちらもパワーアップしていたけど。

子供が図鑑を眺めている。変わった名前の動物がいるねと。
スベスベマンジュウガニじゃなくて、スベスベ何とかガニ。なんだったかな。
親父が答える。変な名前だね、寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところヤブラコウジのブラコウジパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助。
ぼくのほうがよっぽど変な名前だよ。どうしてこんな名前つけたのさ。
それは長生きするようにって。
裏の和尚さんでしょ。あの人、ぼくにだけ優しいんだよ。おやつをくれたり、帰るときにはお車代をくれたり。絶対あれ、引け目があるんだよね。

死なないようにって、プレッシャーだよ。人間は死があるから充実して生きられるんだ。
五劫のすりきれって、300年に一度天女はなにしに下りてくるの?
岩を袖でなでるっていうけど、その岩邪魔じゃない? なんでとっとと片付けないの?
海の魚だって、乱獲で少なくなってるんだよ。
ヤブラコウジは年中役に立つっていうけど、本当に年中役に立つのはディープインパクトだよ。
ポンポコピーとかポンポコナって、それ外国人の名前だろ。ぼく日本人だよ。それにお姫様の名前がなんで男に入ってるんだ。
和尚さんも、やりすぎたと思って最後、長久命とか長助とか、とってつけたような名前つけたんじゃないの。
習字の時間はぼくだけ写経みたいになっているんだ。
上履きは耳なし芳一みたいだ。

それでも、この名前で強く生きていくよと坊や。
仕事始めたら、商談のときに話題がなかったら便利だし。

ディープインパクトもひ孫世代が出てきたので、イクイノックスに替えてはどうでしょうか。
これも一年中よく走った。

寿限無は円丈を筆頭に多くの噺家がパロディ化してきた。
その中でも寿限無くんは出色のデキだと思う。
名前を付けられたほうから振り返るという構成は、他のパロディにはない。
そして小里ん師の勘違いもわかる気がする、明確な新作口調。
古典落語を引きずらない棒読みで、実に軽快、いい気持ち。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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