笑福亭喬介・柳家花いち二人会(その4・笑福亭喬介「時うどん」)

思い出したので花いち師の冒頭の挨拶、それも一席目のツカミ。
もちろん、喬介師の一席め、毛のないゴリラからつながっている。
「師匠からはオランウータンの赤ちゃんと呼ばれています。そして笑点の昇太師匠からは、よくわからないんですけどインドネシアの郵便局員って呼ばれています」
ここまでは今までもあった。その先が初めて。
「こないだ師匠が袖で、ぼくのこの挨拶を聞いていたんですよ。後で師匠に言われました。『俺はオランウータンの赤ちゃんのほうがいいと思う』」。
ちなみに、客の反応はだいたいインドネシアの郵便局員の勝ちだそうです。

また見台と膝隠しが出てきて、トリの一席は喬介師。
ちなみに喬介師が1年先輩で、トシもひとつ違い。
どこだったかマクラで花いち師、「ぼくも小さい頃はもっとちゃんとした41歳になれると思ってたんですけど」と言ってた。
あと「喬介さん」と言って、「あ、喬介アニさん、喬介ニイさんですね。怒られちゃうな」だって。

喬介師登場して、先の寿限無くんを指し、「いやあ、面白いですねえー。自分で考える新作落語はすごいですよね…教わろう」。
本当に教わったらどうでしょうか。上方に花いち新作を広めてください。
今年はこの梶原いろは亭、「佐ん吉・夢丸」の二人会にもやってきた。
その際桂佐ん吉師の出した「妻の酒」は芸協新作だったのだ。夢丸師から教わったのだそうで。
見事な古典落語になっていた。
東西交流のおかげで、寿命を喪いかけた昔の新作が蘇ったりすることもある。
寿限無くんも、主人公がツッコミ気質の浪速坊やに替わったら、またオモロイやないですか。

ちなみに寿限無くんは、確か10分強だった。とても短い一席。
トリへの配慮だと思うが、といって自分の披露目で出したような噺であってインパクトは強烈そのもの。

最後は時うどんをしますと宣言。
時うどんは時そばほど季節感は描かれない気がするが、でも寒いからちょうどいいだろうというのはあるに違いない。
まず外さないテッパンの噺である。
東京在住の私も結構聴いている。一門の笑福亭希光さんであるとか。
それから、時うどん型時そばもある。昇太師が始めたらしいこの型は、柳家㐂三郎師から聴けた。これはほぼ時うどん。

ちなみに、二軒目のうどんがまずかったタイプはひとつも聴いたことがない。そちらのほうが好き。
なのになんで「おなじ話寄席」で笑福亭たま師(やっぱり一門)が出したうどんはまずいのか。まずいのに標準スタイルでございという説明はどうなのか。
そして喬介師のうどん屋も、やはりまずくない。
オウム返しの失敗というテーマはうどんもそばも共通しているが、失敗の中身は大きく違うわけで、うどん屋がまずい意味はわからないな。

兵庫船と同じく喜六清八コンビの噺である。ツいたことにはならないのだろうか。
まあ、旅の噺と食い物の噺だから、風合いは違う。

コンビは冷やかしの帰り。この描写が長い。
カネを使わないわれわれ冷やかしこそが廓の経済を支えているのだと語る清八。なんかすげえ。
こんなの初めて聞いた。要は、冷やかしが付く花魁こそ人気の花魁であり、冷やかし人気を集めた花魁に客がついてカネを落とすという意味。
安い席ばっかり行ってるでっち定吉も、落語の経済を回しているわけだ。

8文と7文、合わせて15文しかないふたり。16文のうどんを1文首尾よくごまかす。
翌日も、ワイひとりでやってみるとアホの喜六。

1席目でもつくづく感じたが、師匠からもあほぼん呼ばわりされてきた喬介師、まさに喜六を演じるためのキャラである。
演者と喜六が、完全に一体化する。
「昨日とおんなじに」架空の清八を登場させてふたりのやり取りをひとりで演じてみせる(要は落語だ)喜六。
誰の時うどんを聴いたって、必ずどこかに「アホな男やな」といういささか見下した視点が入る。そういうものだろう。
だが、この喜六はもう、ゴッドである。この世の中心にいるのは、このアホ男。
神々しいばかりのアホ男にもはや、うどん屋もわれわれ落語の客もひれ伏すしかないではないか。

世界の中心に喜六がいる世界においては、そのアホぶりに、もはや疑問があまり沸かない。
結果、世界一ナチュラルな時うどんの世界が描かれる。ピュアな笑いだけがその場に残る。

喜六はゼニを払いたくて仕方ないのに、うどん屋はもう、ゼニなんかいらんさかいはよ帰って欲しい、このやりとりも新鮮。
アホが神になった瞬間を目の当たりにしました。

楽しい2時間。
帰りは尾久駅へ。
こちらの方面には、それほどの淋しさはなかった。
梶原いろは亭の夜席へは、上中里の陸橋から階段を降り、民家の路地を抜けていくと楽しいです。

ちなみに本日クリスマスイヴはM-1グランプリ。
今年は家族でパーティだそうで、アルコールも入るため採点はしません。
まあ、採点しなくてもなにか書きますので。

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作成者: でっち定吉

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