弟子入りのノウハウ(中)

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どうやって入門の意志を伝える?

噺家になりたいとして、師匠に入門希望を伝える方法である。
「手紙」はおおむねダメらしい。
もっとも、手紙を出し続けたことで師匠に強烈な印象を残し、入門に至った人もいるので、まったく無意味というわけではない。
だが、手紙の返事を期待してはいけない。

メールやSNSで入門志願するのは論外である。こんなアプローチをされた噺家のマクラを増やすだけで、無意味。
むしろ、そんなことをしたら弟子入りのチャンスは消滅するだろう。
現代では、SNSで仕事を依頼するのも当たり前。なのに、弟子入り志願がSNSではいけないか?
まあ、理屈はそうだが、理屈よりも感性の面から、そんなことをしてはいけない。

一般的には直接会いに行くのがいいとされている。
弟子を採用する側がそう思っている以上、そうしない手はない。
楽屋口で出待ちをする人が多い。東京の寄席なら、5日~10日毎日出るので捕まえやすい。
だが、何日通っても、度胸がなくて声を掛けられない人が多いそうな。
師匠のほうは先刻気が付いていて、なんだ今日も来ねえのかと思っていたりする。
思いつめた表情の若者がいきなり近寄ってきて、師匠が「刺されるかと思った」というのはギャグ。だいたいは入門志願者だとわかっているはず。
ちなみに、出待ちでなく、弟子入りしたいと楽屋に訪ねていったって、別に失礼ではないのである。
これも勇気はいるだろうが、前座さんが取り次いでくれるから、けんもほろろに追っ払われたりはしないだろう。
自宅を訪ねるのも手だが、最近は個人情報がうるさくなり、自宅はわかりづらい。
尾行するとストーカーだ。

ある師匠に入門したいということは、その師匠の落語が好きになったからのはずである。
中堅どころの師匠なら、小さな会をたくさん開いている。東京かわら版を読めばわかる。
そこそこ落語界で名前の売れている師匠だって、15~30人程度の会などざらにある。
そうした会に通って、師匠に顔を覚えてもらうのもいい方法だろう。
「あのアンちゃん、また来てんな。弟子になりてえのかな」と師匠に先に思ってもらえれば、スムーズに運ぶ可能性もあるのではないか。
そもそも通っていれば、師匠に「俺の落語のどこが好きなんだい」と尋ねられた際、「あの噺の、この部分が好きで」と言えるから印象もいいだろう。

将来の兄弟子に相談する

弟子のいない師匠でなければ、入門先には兄(姉)弟子がいるわけだ。
「師匠は選べるが、兄弟子は選べない」なんてことをいう。
根性の悪い兄弟子のお陰で、好きな落語を続けるのを断念する人も中にはいるわけだから、兄弟子との相性も重要である。
もっとも、すでに二ツ目になっている兄弟子なら、わりと追いかけやすいので相性を調べられる。
師匠を追いかける合間に、兄弟子も追いかけてみたらどうだろう。
通っているうちに、兄弟子との相性も見えてくるかもしれない。
兄弟子に顔を覚えてもらったら、入門の相談をする方法もある。
兄弟子が気に入ってくれたら、師匠に口を利いてくれるだろう。師匠が「もう弟子は採らないよ」と断言している場合でも、他の師匠のところに入れるかどうか相談できるかもしれない。

年齢制限に注意

噺家さんの数はやたら増えて、東西合わせ900人に届く勢いである。
人手である前座の数も足りているので、現在の落語界は弟子入り志願者を積極的に取りたい状況ではない。
もっとも、待っていたって志願者の数は減らないと思うが。
そういったこともあり、トシを取った前座はお断りの場合がある。
落語協会では入門時30歳までという制限がある。
落語芸術協会でも落語協会に倣い、35歳までという年齢制限を設けたところである。
だから、36歳以上の弟子入り志願者は、立川流か円楽党に行くしかない。
好楽門下の三遊亭鯛好さんは、林家たい平師のところに最初行ったのだが、年齢制限で落語協会入りできないことがわかったため、たい平師に口を利いてもらったのだという。
なぜかWikipediaの、たい平師の項目にだけ書いてある情報。それで名前に「たい」が付くのか。
上方のほうは、まだ一律の年齢制限はない。

続きます。

作成者: でっち定吉

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